第26話 ガチャ
片瀬さんは〔
人の頭ほどの大きさの薄いピンクの装飾が施されていた鏡は、片瀬さんが叫んだ瞬間に一瞬で全体が漆黒で覆われ、鏡のはずなのに一切の光を反射しない物へと変質していた。
一体何を……?
僕は疑問に思いながら、ジッと片瀬さんの持つ〔
そのせいで冬乃に抱っこされている僕は片瀬さんの様子が見えなくなってしまったけれど、ミシッ、ミシッと硬い物に何か圧力がかかっている音が耳に届いていた。
――バキャン!!
何かが粉々に砕けるかのような音と共に、僕らはまるでダンジョン全てを包むかのような強烈な光に呑み込まれてしまった。
◆
「おい、蒼汰。急にボーっとしてどうしたんだ?」
目の前に大樹がいて、僕を揺すっていた。
あれ? 何してたんだっけ?
「どうしたんだ蒼汰? あれほど今日のガチャを楽しみにしてたのに」
「あ……、ああそうだった。今日は色んなソシャゲで水着ガチャが来るから、全力でガチャを回そうとしてたんだった」
その為に大樹と彰人が僕が住んでるマンションの一室に来て、一緒にガチャを回そうとしていたんだった。
なんで僕はこんな大事なことを忘れてボーっとしていたんだろうか?
「いやー楽しみだね。目当てのキャラが出なかった時のための軍資金まで大量に用意して来たんでしょ?」
「たったの
「大金じゃねえか」
「ボクらまだ
何を言っているんだ2人とも。
課金額が10万を超えてからが本当の課金だというのに。
大人になって稼げるようになったら、一度でいいから一月で1000万円以上使ってみたいものだね。
「さて、今日の18時から新しいガチャが出る。覚悟はいいか2人とも」
「覚悟がいるの蒼汰だけなんだよな」
「ボクらは持ってるガチャ石を使い切ったらそれ以上回す気ないしね」
「なんたる脆弱さか!?」
「ガチャのことになると、蒼汰って性格変わるよな」
「それが面白いところなんだけどね」
2人は僕を呆れと愉快が混じった目で見てくるけど、この2人はガチャに本気になれずにいつ本気を出すと言うんだろうか?
――~♪
夕方の時報を示す曲がどこからともなく流れだした。
「時間だ2人とも」
「いつになく真剣だな」
「学校では見ることのない真剣さだね」
2人が何かを言っているけれど、僕はその声を右から左に聞き流してスマホのアプリを起動させる。
するといつも通りアプリのアップデートが始まり、ダウンロードが開始された。
ああ、まだかなまだかな?
アプデが来たってことは新しいガチャが来たことを示す合図でもあって、いつになくソワソワしてしまう。
「おっ、ダウンロードが終わった」
「何故だ!?」
僕の方が早く起動させたはずなのに……!
「いや、誤差じゃねえか。それに蒼汰のももう終わるだろ」
大樹にそう言われて自身のスマホを見たら、ダウンロードが終わっていつものホーム画面に切り替わっていた。
「よし、早速ガチャるぞ!」
「乱数調整はしないの?」
「ガチャは回数勝負だよ彰人」
確かにガチャをする前にキャラクターを成長させたり、キャラクターを敵と戦わせることによって、出てくる確率の低いレア度の高いキャラクターがガチャで出やすくなるという眉唾物な噂はある。
しかし僕はそんな噂に頼らなくても問題ないほどの資金を用意してきたんだ。
というか前に乱数調整試したけれど、いつもと大差ないなと感じたのでやる意味はないと思ってる。
そんな事をする暇があるなら、1秒でも早くガチャを回したいんだよ!
「まず1回目! ドロー。モンスターカード!」
「ツッコミ待ちか?」
「それだとボクら、『もう止めて。蒼汰の石は0よ』って言わないといけないんだけど?」
「止めろーーーーーー!!!!」
なんて恐ろしい返しをしてくるんだよ。
「僕はただ、装備の礼装よりキャラの方が出て欲しいから、気合を込めてそう言っただけだよ」
「なるほど。まあ出る時は10連1回であっさり出るから、そこまで気合を込めなくてもいいと思うがな」
分かってはいても、出て欲しいと願う気持ちは止められないんだよ。
しかし願いは虚しく、1回目の10連はすぐに終わって、出て嬉しかったのは10枚中1枚のイベント礼装だけだった。
「ハズレか。次だね」
「切り替えは早いな」
「慣れてるからね」
そしてドンドンとガチャを回していったけど、100連目に突入しても最高レア度の1つ手前のレア度のキャラすら出てこなかった。
「爆死してる?」
「違う。まだ死んでない!」
「見事に礼装ばっかで泣けるな」
こんだけ回してるのに、全くキャラが出ないってどう言うことなの?
「あっ、20連目で星5キャラ出た」
「嘘でしょ!?」
僕がこんなに回してカスリもしてないのに、乱数調整に凄い時間をかけてた彰人はもう出たの……?
「そんなガチ泣き一歩寸前の顔しないでよ。こんなの運でしかないんだし」
「そうだな。オレも60連回したけど星4のキャラが3体出ただけだし」
「キャラが全く出ていない僕に対する嫌味なの?」
神様、ここまで運が悪くなくてもいいじゃないですか。
「ううぅ。いいんだ。まだまだ回すから」
「オレはもう石無くなったから回さないけどな」
「出るまで回そう」
「そんなガチな目でこっち見ないでくれよ。ガチャにそこまで金はかけれねえぜ」
まあ人には人の金の使い方がある。
僕はただひたすら自分の道を行くまでだ。
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