第6話 おい、海に来たんだろうが

 

 日焼け止めを塗られた後、僕らは荷物をシートの上に置いて海で泳ぐことにした。


 幸いな事にこの謎空間ではシートの上に置いている物を他人が盗ることが出来ない仕様で、置き引きの心配がないから誰か1人が見張ってる必要もなく、全員が一緒になって遊ぶことができる。

 うん、ホントに謎仕様だ。


 でもそのお陰で誰か1人が除け者になったりしないんだから、悪くない仕様だけどね。


「海なんて久しぶりですね。家族と一緒に旅行に行って以来だと思います」

「私は小さい頃に両親が離婚する前に1度だけ海に来た事があるわ」

「咲夜も1度だけある。家族旅行で一応一緒に連れられて行った」


 みんな何だかんだで海に来たことがあるんだね。


「僕は海に来たの初めてだな~。父さんは家族で出かけるとかしない人だったから」

「先輩海が初めてなんですね。泳げます?」

「プールと同じ感じで泳いで問題ないよね?」

「はい。ですがあまり沖に行ってはいけませんよ。流されますから」

「分かったよ」


 海に入ろうとした時、波が丁度引いたためまるで足を引っ張られたかのような錯覚がした。

 何というか、独特な感触がして結構気持ちがいいね。

 水面がお腹のところまでくる場所まで行くと、体が波に合わせて上下する感触が強くなってきた。


「波に揺られるのは面白いね」

「学校のプールとかだと波はありませんから」

「………………ねえ、乃亜」

「何ですか?」

「何で腕にしがみついてるの?」


 今いる場所まで来た辺りで、乃亜が急に腕にしがみついてきたんだけど……。


「水着でこの体勢は色々とマズイよ」


 いつもはまだ服や下着ごしだから良かった、いや、それでも昂るものはあるんだけど、水着なんて布一枚だからもっとヤバい。

 どのくらいヤバいかと言うと、自分でも思考が怪しくなるくらいヤバい。

 もうヤバいしか言えないくらいヤバいよ。


「先輩、これは仕方がない事なんです」

「仕方がない事?」


 はて、一体どんな事情があったんだろうか?


「わたしは今水着です」

「そうだね」

「それに加えて[ゲームシステム・エロゲ]なんてスキルがかみ合わされば、何が起こるか分かりますか?」

「……なるほど」


 ポロリか……。


「って、その水着じゃ起こりえなくない?」

「一応脱げてしまわないよう対策としてワンピースタイプの物を選びましたが、何が起こるのか分からないのがわたしのスキルの怖いところです」

「じゃあ何でよりにもよって強制的に水着にされるこの迷宮に来ちゃったの?!」

「……………海で遊びたかったんです」


 行きたい場所に行くのを我慢するのは酷か。

 だけど若干間が長かった気がするのは気のせいなのかな?

 何か企んでいるんだろうか?

 まあ乃亜だしよっぽど変な企みはしないだろう。彰人と違って。


 彰人は面白そうだと思えばおかしな事しでかすんだよね。

 前に乃亜に僕の住んでる場所を勝手に教えたくらいだし。

 一応、こっちが許せる範囲を狙ってくるんだから何とも言えないけど。


「まあ最悪別の水着を僕のスキルで出すし、それに以前僕以外の人にはスカートの中が見えなくなってるって言ってたし、意外と大丈夫なのかもね」


 スキルが成長するなら、もっと別の方向に成長して欲しいと思うのは僕だけじゃないと思うけど。


「先輩だけなら構わないのですが……、いえ、やはり先輩と言えどもいきなり裸を見られるのは覚悟がいりますね」

「そこまで覚悟するぐらいだったら、いくらでもくっついてていいから」


 しかし裸を見られるのと、今みたいに水着でくっついているのとどっちがマシなんだろうか疑問だ。


 まだ乃亜の裸をまじまじと見たことが無い分、そちらの方が僕にとっても衝撃は大きいだろうな~。


「乃亜ちゃんばかり不公平。咲夜と冬乃ちゃんも構って」

「あ、ちょ、咲夜さん?!」

「わっ!?」


 乃亜とは反対側から咲夜と冬乃が乃亜と同じようにくっついてきた。

 冬乃は咲夜に引っ張られて無理やり連れてこられた感だしてるけど、全く抵抗せずに引っ張られるがままだったよ。


「咲夜、お願い待って! 水着姿でボディタッチ多めは色々マズイって!」

「大丈夫、問題ない」

「問題しかないのによく問題ないって言い切れたね!?」

「咲夜達も一緒に遊びたい」

「違う。これ遊んでない。絡みついてるだけだよ」


 おかしい。海に入ったのに、全然海で遊んでいる感じがしないぞ!?


「これはこれで楽しい」

「もっと海らしいことで楽しもうよ!」

「海らしいことって?」

「ほら、せっかくだし泳ぐとか」

「4人がくっついたままだと蒼汰君が溺れちゃう……」

「なんでしがみついたままの状態を想定したの?!」


 普通一緒に泳ぐにしても、せいぜい手を繋ぐ程度じゃないかな?

 咲夜がボケてるのか大真面目なのかどっちなのかと思っていたら、背中に何かが触れる感触がしたのでそっちを振り向くと、冬乃が遠慮がちにくっついていた。


「な、何よ……?」


 冬乃は恥ずかしそうにこっちを見ている。


「いや、何がって訳でも…………あるね」

「え、嫌なの?」

「そうではないけど、この状況どう思う?」

「……せめて冬にやるべきだと思う」


 完全におしくらまんじゅうみたいになってるからね。

 このレジャー迷宮、水着でも過ごせる気温になっているためかそれなりに暑い。

 海に入っていなかったら、暑さで参ってるよ。


「でも……」

「ん?」

「こういうの嫌いじゃないわ」


 そっぽを向いて顔を少し赤くしている姿は可愛かった。


 そう言われてしまうと離れてくれとも言い難くて、僕らはしばらくの間海に来ているのに互いにくっついたままその場から動かなかった。

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