第5話 海に来たらまずは……

 

「それじゃあ先輩、日焼け止めを塗ってください」


 あれ? 海に向かっていたはずが、いつの間にかシートの上に逆戻りしているぞ?


「うっかりしていましたね。いつもなら水着に着替える時についでに日焼け止めを塗っていましたから、忘れそうになっていました」


 いやーうっかりうっかりとか言ってるけど、それを僕に手渡してくる必要はないんじゃないかな?


「乃亜、これを塗るのは勘弁してくれない? さすがに恥ずかしいんだけど……」

「そんな!? この水着は背中が空いてるのでそこを重点的に塗っていただきたいのに……」

「僕じゃなくて冬乃か咲夜に頼もうよ」

「蒼汰君は咲夜達に日焼け止めを塗るのは嫌?」

「嫌とかそういう事じゃなくて、今も言った通り恥ずかしいんだよ」


 背中とはいえ、女の子に日焼け止めを塗るのはちょっと……。

 というか、乃亜だけじゃなく咲夜もサラッと希望するのか……。


「ですが先輩に塗っていただかないと、わたしのデメリットスキルがどんな悪さをするのか分からないのですが」


 そう言えばそれがあったか。

 [ゲームシステム・エロゲ]でエッチなハプニングが起きない様に、普段から僕への接触が多かった。

 つまりここで日焼け止めを塗るとかエロゲのイベント的なのをこなさなければ、さらに過激なイベントが起こらないとも限らない訳で……。


「うぅ、分かった……」


 乃亜達が日焼け止めを塗り合ってる最中に乱入みたいな事を起こすくらいだったら、最初から塗っていた方がマシだよね。


「お願いしますね先輩」


 シートに寝そべる乃亜に、僕は自分の手に日焼け止めを垂らして乃亜の背中に触れる。


「ひゃっ」

「あ、ごめん。冷たかった?」

「いえ、大丈夫です。少しびっくりしただけで……」


 乃亜はそう言って黙ってしまったので、僕は黙々と日焼け止めを塗っていく。

 柔らかいなとか思っちゃダメだ。

 ただ平常心で塗っていくんだ。


 体の内側が熱くなって沸騰しそうな気分になりそうなので、自分は機械だと言い聞かせて無心で塗っていく。


「これで、いいかな?」

「う~ん、いっそのこと腕や足にも塗ってもらうのは」

「そこは自分でやりなよ!」


 背中でもいっぱいいっぱいだったのに、そんな体をあっちこっち塗るとか出来ないよ!

 はぁ……。まったくやれやれだよ。短いようで長い試練はようやくおわ――


「それじゃあ蒼汰君。次は咲夜の番」


 やっぱり?


「乃亜はスキルの影響があったから仕方がないけど、咲夜達は自分達で塗り合うとか……」

「乃亜ちゃんにだけは不公平だと思う。それに蒼汰君に塗ってもらいたいから、お願い」


 咲夜はパレオを取ってビキニだけの姿になり、乃亜と同じようにシートに寝そべる。


 有無を言わせずお願いされてしまった。

 出来れば勘弁して欲しかったけど、不公平と言ってる時に若干悲しそうに見てくる目が僕に拒否するという選択肢を与えてくれなかった。

 し、仕方ないか。


「咲夜、今から塗るよ」

「ん」


 ビキニなだけあって乃亜よりも塗るスペースが広い。

 今更だけどビキニとかほとんど下着と変わらない布面積なのに、なんでこれが水着として成立しているんだろうか?


 心臓がドクドクと脈打ち手が震えそうだ。


「蒼汰君、布の下も塗ってね」

「マジか」


 別にただの背中のはずなのに、布の下にまで手を入れるのはなんだかいけない事のような気がするのに……。


 ただここでごねても仕方がないと分かっているので、僕は布を少し持ち上げて手を差し入れて手早く塗っていく。


 よ、ようやく終わった。

 咲夜の背中を万遍なく触ってしまった事になんとも言えない気分になりながら、終わらせられた事にホッとした、時だった。


「蒼汰。わ、私もお願い……」


 先ほどまで黙っていた冬乃が、ついに参加したか……。

 顔を真っ赤にしてお願いしてくるのは破壊力があるよ。


 2人に塗っておいて、今更冬乃に塗らないとい選択肢はない。

 尻尾を抱えてこちらに座った状態で背中を向けてくる冬乃に、意を決して僕は日焼け止めを塗っていく。


「っ!」


 触れた瞬間冬乃はビクンと体を震わせたものの、何とか身動きしない様に体を硬直させている。

 しかし獣耳はそれに反してピクピクと動いており、手を動かすたびに耳が動いていた。


 それが少し面白くて、スッと動かすたびにピクンっと動くのがなんだか可愛かった。

 そのお陰で乃亜と咲夜ほどの緊張はなかったとはいえ、それでも手から伝わる肌の感触はどうしても僕の鼓動を早くするな……。


「お、終わったよ……」

「……ありがと」


 3人に日焼け止めを塗るのはある意味試練であったと言えたけど、僕はそれをなんとか乗り越え――


「じゃあ次は先輩の番ですね」

「え?」

「蒼汰君が日焼けしない様に、ちゃんと咲夜達が塗ってあげる」

「そ、そうね。塗ってもらったんだから、お返ししないといけないわよね」


 3人がそう言いながら各々の手に日焼け止めを垂らしていくのを見て戦慄してしまう。


「いや、ちょ、待って! そのぐらい自分でやるから!」

「いえいえ、塗り残しがあったらその箇所が日焼けしてしまいますし、後でお風呂に入ったらヒリヒリして痛いですから、わたし達でキチンと塗って上げますよ」

「背中を1人で塗るのは大変だ、よ?」

「……乃亜さんと咲夜さんと違って、私だけ妙にじっくり塗られた気がするから、そういう意味でもお返ししてあげるわよ。だから堪忍しなさい!」

「ノー---ッ!!」


 僕はシートに押し倒されて、遠慮なく日焼け止めを塗られてしまった。

 しかも3人が塗っていく内にヒートアップしたのか、背中どころか体のあちこちまで塗られちゃったよ……。

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