第4話 レジャー迷宮

 

≪蒼汰SIDE≫


「ここがレジャー迷宮なのか……」


 レジャー迷宮に入る前までは山に囲まれた場所だったのに、ここに入って真っ先に目に飛び込んで来た光景は“海”だった。

 ダンジョンと同じようにレジャー迷宮の入口は冒険者組合の施設の中にあったけど、ここは光の渦のような入口となっていて潜り抜けるまで中の様子が分からなかっただけに、いきなり海が視界いっぱいに広がったので驚いてしまった。


 この場所は海だけでなく空や太陽までもが存在しており、いつものダンジョンとは違って閉塞感など微塵も感じない。

 というか、普通に外と変わらないよ。


 僕らは今砂浜に立っており、周囲を見渡すと砂浜から少し離れた所には無数の宿泊所のような建物が並んでいるのも見える。


「ネットで調べた時にも見ましたが、実際に見ると迫力が違いますね!」

「さっきまで建物の中だったから余計に凄いと感じる、ね」

「ホントね……。あら? これが例の境界線?」


 乃亜達が一様に驚いている中、冬乃は足元の光の線に視線を向けていた。


「ここから先が例の法則が適用されるんですね」


 レジャー迷宮には謎の法則が存在する。

 それは場所によって様々だけど、この場所の法則、それは――


「それじゃあ行こうか」


 僕は光の線を跨ぎ境界線の向こうへと行くと、服が勝手に消えてなくなり持ってきていた水着に切り替わっていた。


「一瞬で水着に切り替わるから面白い、ね」

「それにしてもおかしな法則よね。この場所では水着に強制的に着替えさせられるだなんて」

「ちなみに水着を持っていない場合は強制的にスク水になるらしいですよ」


 3人も僕同様、境界線を越えてきて水着へと切り替わる。


「先輩どうですか。わたし達の水着姿?」


 乃亜が僕に近づきながら問いかけてくるけど、その姿で近づいてくるものだから正直言ってドキドキしてるよ。


 乃亜の水着は水色の洋服みたいなデザインのワンピース水着であり、ミニスカートのようになっていて露出がいつもの服装に比べると多くなっている。

 それに加え、いつもの首の上のところで髪を二本に分けて括っている変則ツインテールから、耳よりも高めの位置で結んだツインテールになっていて、いつもより幼可愛いかった。


「乃亜は髪型も変えてるんだね。水着と相まってとても可愛いよ」

「へ? あ、ホントですね。髪型を変えるつもりはありませんでしたが、先輩に思いの外高評価なのでこのままでいきましょう」

「乃亜ちゃん、可愛い格好が似あうから少し羨ましい」

「そうですか? わたしは咲夜先輩みたいな大人っぽい姿に憧れますが」


 咲夜は白のパレオ付きビキニを着ており、スラッとした手足が目立っている上にいつもよりも大人っぽく見える。

 乃亜と違って髪型はいつも通りの左耳の後ろ辺りで髪を束ねた無造作なポニーテールだけど、それが今の水着と十分マッチしていた。


「確かに咲夜の水着姿は大人っぽくていいね」

「そうかな? でも嬉しい。ありがとう」


 乃亜と咲夜は水着を着てテンションが上がっているのか、和気あいあいとお互いの水着を褒め合ってる中、冬乃だけテンションが妙に低かった。


「……2人と一緒に水着を着るのは、やっぱり厳しいわね」


 冬乃が乃亜と咲夜の胸元へと視線を向けながら、自身の胸に手を当てているその姿で察した。

 胸の大きさだけが女性の魅力じゃないんだけどな~。

 しかしそれを口にすればデリカシーがないと怒られそうなので黙っておく。


 冬乃は黒のハイネックビキニとスカートの水着を着ているのだけど、黒い水着と白い獣耳に尻尾のコントラストが映えわたってて非常に良いと思う。


「冬乃の水着姿もきれいだし可愛いと思うよ」

「そ、そう? お世辞でも嬉しいわ」


 顔を赤くして少し微笑みながら尻尾を振って嬉しそうにしている冬乃を見てると、こっちまで嬉しい気分になるね。

 しかしホッコリした気分で冬乃を眺めていたけれど、そこでようやく周囲の視線に気が付いた。


「あいつら、男1人に女3人って凄い組み合わせじゃね?」

「そうね。しかも女の子達の一緒に来てる男の子へと向ける目がどう見ても恋慕じゃない」

「あんなに可愛い子達を囲うとか……羨ましい」

「ちょっとそれどういう意味!?」

「おい、あれ。もしかしてテレビに出てた……」

「え、あ、ホントだわ。あんな若さでハーレムとか冗談だと思ってたんだけど本当なのね」


 レジャー迷宮入口近くでたむろしていたのもあって、色々なカップル達に注目されていたよ。

 一部のカップルがなんか険悪なムードになっていたけど、そっちは気にしないでおこう。


 それにしても妙にカップルが多いな。

 レジャー迷宮だからカップルが多いのは分かるけど、家族連れと比較しても妙に多いような気が……?


「さて、せっかく来た事ですし、準備をしたらさっそく遊びましょうか!」


 ふと頭に疑問がよぎったけれど、乃亜の一声ですっかりその疑問が頭の片隅へと追いやられた。


 乃亜の言う通り、こんな所でぼんやりしているのは時間がもったいないよね!


 僕らはパラソルとシートを借りに行って自分達の場所を確保すると、早速海へと向かって行った。

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