第3話 旅行

 

「また習字道具なのはあれなの? 墨の【典正装備】で酷い目に遭わせたからその恨みなわけ?」


 僕、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に恨まれすぎじゃないかな?


「そんな理由で【典正装備】が決まるのは嫌ですね」

「私や乃亜さんが初めて手に入れた【典正装備】が剣と楯だったのが奇跡のようね」

「咲夜は糸だけど不満はない、かな。糸で攻撃した訳でもないから、なんでこの【典正装備】なのかは分からないけど」

「やっぱりランダムなのかな~」


 僕はため息をつきながら5分の1ほど白くなった紙を服の上から自身の胸に押し付けると、なんの抵抗感もなく体の中へと入っていく。

 さすがに今からほとんどのHPや体力スタミナを紙に移しておく訳にはいかないので途中で止めたけど、全部真っ白な状態でなければHPとかを引き出す事が出来ない仕様なのが厄介だね。


 どうでもいいことだけど、黒から白に色が変わる紙を見たときは何で〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕って名前なんだ? と思ったものの、HPや体力スタミナを回復する時に白かった紙が黒に変わっていったので、最終的に黒くなるのだからこの名前なんだと理解した。


「あ、先輩。そろそろ着きそうですよ」


 僕が自身の【典正装備】について考えていたら、いつの間にか目的地に近づいていたようだ。


 しかし3時間近くずっと座ってたし、〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕に体力を吸われたから疲れたな。

 ……後者は自業自得か。


 こういう時に使って体力回復すればいいのかもしれないけど、こんなことで使うのはちょっともったいない気がする。

 ゲームでもエリクサーとかの回復アイテムは最後まで取っておくタイプだから、使い時を間違えそうだ。


 それはさておき本日の目的地、レジャー迷宮のある場所までやってきた。

 自分には縁のない場所だと思っていただけに、ここに来ることになるなんて思いもしなかったな……。


 レジャー迷宮。それはダンジョンと同じような異空間でありながら魔物や罠が一切存在せず、不思議な法則が適用されている場所らしい。

 そんな場所であるがゆえに、ダンジョンとは呼ばれず危険度を示すランクも存在しない。


 詳しい事はキチンと調べてきていないので分からないけど、少なくとも泳ぐための場所はあるはず。

 乃亜が嬉々としてこの場所に行こうと言ってきたのだから。


 ◆


≪乃亜SIDE≫


 ※旅行に行く数日前のこと。


 わたしは冬乃先輩と咲夜先輩と一緒に、以前と同じようにファミレスに訪れたのは2人に相談したいことがあったからです。


「急に私達を呼び集めてどうしたのよ?」

「しかも蒼汰君抜きだけど、蒼汰君は呼ばなくて良かった、の?」

「はい。先輩を今後どう篭絡していくかの話なので、今ここにいるとややこしくなってしまいますから」

「え、いや、篭絡って、その……蒼汰とはもう私達でハーレムを作ったじゃない」

「お義母さんも認めてくれたよ、ね?」


 確かに先輩のお義母さんはわたし達の関係を認めてくださり、味方になってくれると言ってくださいました。

 ですが――


「肝心の先輩がわたし達に全然手を出してくれません!」

「ちょ、乃亜さん!? ここファミレスだから、そんな事大きな声で言っちゃダメよ!」


 おっとうっかり。

 思わずヒートアップしてしまいましたね。


「それに先輩が好意を向けてくださってることは感じますが、残念ながらまともに好きだとすら言ってもらえていません。せいぜい冬乃先輩が告白した時に好きか嫌いかの2択を強制させて、好きだと言わさせれたくらいです」


 そう。先輩から[強性増幅ver.2]のためとはいえキスをしてくれるようにはなりましたし、ハーレムを作る事を否定したりしませんが、先輩が全然好意を口に出してくれないのには不満があります。


 3カ月ほど前にわたしが告白した後、まだ出会って1週間ほどしか経っていなかったので先輩を焦らせない為に彼氏彼女の関係になれなくても構わないと言いましたが、そろそろ先輩がハッキリと好意を口にしていただき、ハーレムに対して前向きになってもらいたいです。


「そういう訳でせっかく夏休みに入ったことですし、この際泊りがけで旅行に行きませんか?」

「なんで唐突に旅行なのよ? 前みたいに近場で遊ぶんじゃダメなの?」

「確かにそれでもいいのですが、わたし達はともかく咲夜先輩は高校最後の夏休みですし、思い出作りとなると近場ではあまり……」

「言われてみればそうね。ごめんなさい咲夜さん。あまりこういう事は無頓着だったから」

「ううん、気にしてないからいい、よ。それより冬乃ちゃんの弟妹の面倒はどうするの?」

「安心してください。ちゃんと母達にお願いしてあります」


 冒険者学校に行っていた時も母達が喜んで面倒を見てくれましたし、ハーレムに理解があるので今回計画する旅行で先輩をとしてくるとコッソリ伝えたら、普通に応援してくれました。


「またお願いする事になるのは気が引けるわね」

「母達は土産話を期待していると言っていましたよ。それよりも今回の旅行先です」


 そう言いながらわたしはスマホを操作して、とあるレジャー迷宮を表示させます。


「このレジャー迷宮に行きましょう」

「もう場所は決めてるのね」

「咲夜は乃亜ちゃんが行きたい場所なら全然いいけど、何故ここに?」


 咲夜先輩が首を傾げながら尋ねてきますが、もちろんちゃんと理由はあります。


「実はいくつかあるレジャー迷宮の中でも、ここにはとある都市伝説があるんです」

「「都市伝説?」」

「はい。その都市伝説とは――」


 訪れたカップルのほとんどが結婚する謂れがあるんです。

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