第2話 新しく手に入れた【典正装備】

  

 クロとシロに特に用事はないと言ってスキルのスマホを消すと、再び冬乃と咲夜の方に向く。


「まあ焦ってスキルを選ぶ必要はないよね。なんならダンジョン攻略時に手に入るらしいから、それを狙うのもいいし」

「そうよね。というか、スキルの値段が高すぎなのよ。一番安いのでも50万もするとか買えないわよ」

「ミノタウロスとヤ=テ=ベオの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒したことで討伐報酬がもらえましたよね?」


 乃亜の言う通り、Cランクのダンジョンから現れた【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を討伐すれば、1億の報酬がもらえ、今回は2体なので2億円になる。

 もっとも巻き込まれた300人全員で分ける事になったので、1人あたり66万なのだけど。


魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に初っ端から殺されて大して何もしてない人にも分けるのか? という意見もあったけれど、誰がどれだけ活躍していたかなんて分からないし、殺された人の中にはミノタウロスに似た“取り込まれた生贄”に襲われる際に、囮になって他の人を命がけで助けたりしている人もいるので、死んだから報酬をもらえないのはおかしいということになった。


 辞退するのはありだけど、あれだけ大変な目にあったのだからお金くらいはもらっておくべきだという流れになり、ほとんどの人が報酬をもらっている。


 結果として僕らはそれなりのお金を手に入れたので、それを使ってスキルを買うことはできる。

 しかし冬乃の言った通り、スキルは高いのだ。

 ダンジョン探索で活躍の場がほぼない不人気スキル、たとえば[料理]なんかでも50万はするのだから、戦闘系のスキルは何倍も高い値段になる。


 今まで稼いだお金も合わせれば買えなくはないけれど、そんな高額な商品を近所のスーパーで大根を買う感覚で購入するなどとてもじゃないができることではなく、慎重に判断しなければいけなくて買えていない。


「討伐報酬は確かにもらったけれど、できればそれは弟達の学費に使いたいから無用な出費は抑えたいのよね」

「秋斗君と夏希ちゃんのためなら仕方ないよ」

「無理にスキルを買わなくても、いざとなったら咲夜の【典正装備】で逃げられるし、ね」


 咲夜はそう言いながら、右手で左手首に触れて【典正装備】を取り出した。


 〔紡がれた道しるべアリアドネ ロード


 咲夜の【典正装備】はほとんど透明な糸だ。

 この【典正装備】に攻撃力はないけれど、ダンジョン探索においてかなり有用な能力を持っていた。

 それが帰還能力である。

 ダンジョン探索前にダンジョン入口で能力を使用しておくと、ダンジョンのどこにいてもそれを使用するだけで入口まで一瞬で転移して戻ってこられる。


 この能力のお陰でダンジョンから戻ってくる時間分、今までより多く探索時間が増えたのだ。

 時間が増えただけでなく、より深くまで探索できるので魔石やドロップアイテムも質のいいものが手に入り収入も増えている。


 いざとなったら敵から逃げることもできるので、正直言ってかなり当たりな【典正装備】といえるよね。


「咲夜先輩の【典正装備】は本当に便利ですよね。帰りのことを考えなくていいのはかなり助かりますよ」

「みんなの役に立ててるなら嬉しい」

「役に立ててるなんてレベルじゃないと思うわ。私の【典正装備】は単純に戦闘力を強化するものだったし」


 そう言って冬乃が取りだしたのは木炭だった。


「でも最初に見た時はなにこれ? って言いたくなるものだったけど、これ、私と凄く相性がいいのよね」

「〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕ともシナジーしてますから、火力が文字通り何倍にも増えましたもんね」


 〔業火をスペリオル育む薪炭 フューエル


 冬乃の【典正装備】で見た目は完全にただの木炭だ。

 しかも小指サイズの片手で覆えてしまうほどの小さいもの。

 しかしその見た目とは裏腹に効果が凄かった。


 その木炭は使用者が呑み込むことで効果を発揮し、火を生み出す能力を使用時にその効果を倍加させるという単純なもの。

 [狐火]の威力は倍加されるので、[狐火]を吸収して射出する〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕の威力も今までの2倍、ではなく4倍。

 射出時にも適用されるようで、初めて組み合わせて射出した時には敵が跡形もなく吹き飛ぶどころか、その爆発の衝撃が離れた所にいた僕らにまで届いて服が若干ボロボロになった。

 咲夜の〝神撃〟ほどの威力ではないけれど、影響範囲が広くて不用意に近くでは使えない代物になってしまっている。


 効果時間は5分でインターバルは30分だ。

 残念ながら〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を僕の[チーム編成]で武器として登録するので、両方の登録はできないし、〔業火をスペリオル育む薪炭 フューエル〕を使用した後冬乃は少し苦しそうにしていて、どの道本人への負担があるためこのインターバルを無視して使用することはできない。


「2人共いい【典正装備】を手に入れたよね」

「蒼汰も手に入れたじゃない。あれもいい能力だと思うわよ?」

「……形状があれじゃなきゃね」


 僕が手に入れた【典正装備】、〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕は自身のHPや体力を吸収して貯蔵しておき、それを引き出す事ができる能力だ。


 1日1つ、最大で10個までストックしておけるので、もしもHPが削られたとしても最大10回までセルフ回復できる。

 残念ながらスキル同様【典正装備】も攻撃でも防御でもないけど、元の存在が木だと考えればこんなもんなのかもしれない。

 もう1つ残念なのが僕以外の人には作用しないという点もで、もしもこれが咲夜に使用できたら〝神撃〟で体力が無くなっても回復させてあげられたのにね。


 ……さて、いい加減目をそらしていた現実に向き合おうじゃないか。


 僕はため息を吐きながら左手首に触れて、〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕を取り出す。

 現れたのは真っ黒な和紙。


 これに触れているとHPと体力がドンドン吸われていき、体に怠さを感じる。

 そしてそれにともない紙は端の方から白に変わっていく。


 もうお分かりだろう。


 半紙じゃねえか!!?

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