第1話 強化されたこと

 

 僕の身体能力がパーティー内で最弱なのは今更なのでさておき、冒険者学校で【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と遭遇したことで色々と強化された。

 本当に大変で酷い目に遭ったけれど、それを嬉しさがギリ上回るくらいには強化されたんだ。


 まずはレベル。

 冒険者学校に行く前はレベル70にも満たなかったのが、なんと120超えているのである。

 冬乃なんか130まで上がっており、全員がこの短期間で50近くもレベルが上がっているのだから驚きだ。

 凄いな冒険者学校!


 まあレベルが上がった大きな要因は【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒したためだから、今後も〔ミミックのダンジョン〕に潜ったところでこんなペースでレベルは上がらないけど。


 さて、レベルが大幅に上がったことで当然増えるのがスキルだ。

 全員が何かしら新しい派生スキルが増えているけれど、僕の派生スキルは[フレンドリスト]に[マンスリーミッション]である。


 ……泣きてーーー!!


 もう字面だけで、戦える派生スキルでも身を守れる派生スキルでもないのが分かるから辛い。


 [フレンドリスト]:10人まで登録ができ、その人物の脳内へと短い文面が送れる

 [マンスリーミッション]:月に1度更新される使命をこなした場合に報酬がもらえる


 ほらね。[フレンドリスト]はスマホが使えなかったミノタウロスの迷宮に閉じ込められる前に欲しかった。

 もういい。次いこ次。


 乃亜の場合は[クイックセーブ&クイックロード]に[思い出の場所]。

 前者はともかく後者はスキルかすら怪しい名前である。


 [クイックセーブ&クイックロード]:自身の装備を含めた自分自身の状態を1パターンだけ保存しておける。保存してあるパターンを自身に投影した場合、再使用に30分かかる

 [思い出の場所]:自身が重要だと認識している場所1箇所に不壊属性を付与できる


 僕との差よ。

 [クイックセーブ&クイックロード]はインターバルが存在するけど、HP、体力の全快機能、装備復元機能に【典正装備】のインターバル無視とかやりたい放題じゃねえか!?

 [思い出の場所]はせいぜい自分の家とかが隕石が仮に落ちてきたとしても壊れなくなるくらいで、ダンジョンの探索に有用なスキルではないけど、[クイックセーブ&クイックロード]がぶっ壊れ性能すぎてそんなの気にならないレベルだわ!


 神がいるなら滅茶苦茶文句を言いたい。

 同じデメリットスキルでこの差はなんなの?


「はぁ~」

「どうしたんですか先輩?」

「いや、あらためて自分と乃亜のスキルを比較したら思わずため息が出てね」

「先輩のスキル、相変わらず攻撃も防御もさせてくれませんからね。でも安心してください。ちゃんとわたしの楯で守りますから!」

「嬉しいけど悲しい。なんなんだこの気持ちは……!」


 複雑な心境になりながらも、僕は正面にいる冬乃と咲夜へと視線を向ける。

 この2人はついにレベル100を超え、新しい派生スキルと共にスキルスロットが1つ増えた。羨ましい。

 冬乃のスキルは[野狐]で咲夜のスキルが[全体治癒]。


 [野狐]:[複尾]使用時に発動可能。[獣人化(狐)]の[野狐]以外の派生スキルを強化する

 [全体治癒]:パーティー全員を健康体にする


 2人とも現状の能力が向上した感じのスキルだ。

 特に冬乃のスキル、[野狐]を発動させると2尾から3尾に尻尾が増えてモフモフだった。

 モフモフ度が増したのである。


 [野狐]と言うことはその内[気狐]や[空狐]になったりするんだろうか?

 もしかしたら会長と同じでスキルスロットを糧にすることで、スキルが成長するのか? とも思ったけど、これに関してはネットに載っていた。

 スキルスロットを糧にするという話はなく、普通にレベルを上げればスキルが成長するらしい。


 そのため何か新しいスキルを身に着けてもいいんだけど……。


「2人は新しいスキル、何にするか決めた?」

「そんな事言われても、特に必要なスキルも欲しいスキルも思いつかないのよね」

「無くても今まで何とかなったし、今は……ね」


 それは確かに。

 なんせ敵の索敵は大雑把にだけど冬乃がしてくれていたし、ダンジョンに設置されている罠は無視していたし。


 ダンジョンの罠は引っかかると矢や槍が飛んできたりするのだけど、僕らの場合は乃亜の[損傷衣転]でダメージを無視できるから問題なかった。

 毒ガスや麻痺ガスなんかも咲夜の[状態異常五種回復]で治せてしまう。


 今までこんなかなり強引な罠の突破方法であったので、スキルスロットが空いたら真っ先に罠を感知するスキルを誰かが取れたらいいと思っていた。

 ランクの高いダンジョンだと転移罠なんかもあり、それに引っかかったらどこかに飛ばされる危険があるためである。

 しかし、それが必要なくなってしまった。


「まさかこいつらが索敵能力持ちだなんて……」


 僕はそう言いながらスキルのスマホを呼び出し、[放置農業]を起動させる。


『何か用か主殿?』

『妾達の力が必要かの?』


 前まで畑だけが映っていた画面に〔ミミックのダンジョン〕で手に入れた謎の黒と白の石が映っていた訳だけど、病院を退院して冒険者学校で元の学校に戻るのでその挨拶をしていた際に色々な人達から買ったり貰ったりした結果、ついに集まりきったのである。


 そしたら突然、今までRPGの村の前で立って同じセリフを言い続ける村人のように「集めろ」しかセリフが無かったこいつらが、普通に意思疎通ができるようになったのだ。


『集めてくれて感謝するぞ。我は……誰だ?』

『妾も自身の事なのにサッパリ分からぬの』


 意思疎通はできるけど、こいつらは自分の事を何も分かっていなかったんだよね。


『できれば今後も我を集めるのを継続して欲しい。それまでの間忠誠を誓い、ぬしに仕えようではないか』

『妾の事も頼むぞ』


 尊大な態度は意思疎通ができても変わらなかったか。

 とりあえず名前をクロ、シロとしたら、その呼び方に若干不満があったようだけど、どうせ正式な名前じゃないんだし思い出したらそれで呼ぶと言ったら諦めた。


 そんな訳で仕えると言うのならクロとシロができることは何なのかを調べた結果、索敵や罠の探知ができる事が分かって、そのたぐいのスキルの必要性がなくなったのである。

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