第32話 [強性増幅]
「乃亜もいいの?」
「構いません、こんな時に出し惜しみをしている場合じゃありませんし、白波先輩に比べたら大したこと……いや、でも……」
「メチャクチャ葛藤してるじゃん」
こんなピンチな時でも葛藤するとか一体どんなスキルなんだよ。
「いつかは、と思っていましたがさすがにいきなりは躊躇してしまうといいますか、あの、その……先輩、恥ずかしいので少しの間だけでいいので、膝を抱えて目をつぶってもらっても構いませんか?」
「え、こんな時に?」
乃亜の遥か後ろに大量のゴブリンナイトが見えてるのに、まるで落ち込んでいる人みたいなスタイルでいろと?
「ちょっと何をうだうだやってるのよ。どんどん[幻惑]が解けてきてるんだからスキルを使うなら早く使いなさい!」
「先輩早く!」
「わ、分かったよ」
僕は乃亜に言われるがままに膝を抱えて目をつぶった。
決して戦闘の役に立てずに落ち込んで膝を抱え始めたわけではない。
「よ、よし。いきます[強性増幅]」
その言葉と共に僕の頬に何かが触れた感触がした。
おそらく乃亜の手が触れているのだろうけど一体何を?
そう疑問に思った時、僕は顔を上向きにされ、そのまま唇に何か柔らかいものが当たったのを感じた。
「ちょっ!?」
白波さんの驚く声が聞こえ僕も思わず目を開けると、そこには今までこんなにも近くで見たことない乃亜の顔がそこにあった。
って、えっ、キスされてるの?!
「んっ……」
ちょっ、えっ、ええええええええええ!!?
どのくらいその状態でいたのか分からない。
果たして10秒だったのか1分だったのかも不明だけど、長く感じたそのキスはようやく終わった。
「ふぅ」
「いや、ふぅ、じゃないわよ! こんな時にあなた達何してるのよ!?」
いや、僕された方なんですけど!?
「落ち着いてください白波先輩。わたしの派生スキル[強性増幅]は
乃亜はそこで言葉を切ると、手に持つ大楯を思いっ切り振りかぶってまるでブーメランのようにナイト達へと放り投げた。
凄まじい勢いで放たれた大楯はナイト達に当たると、さながら交通事故にでもあったかのように吹き飛び、その後ろにいたナイト達も巻き込んで致命傷を与えていた。
「先輩とキスすると今のような力を引き出す事が出来るんです!」
ある意味とんでもないスキルだった。
「要するにエッチな事をすればするほど力が増すスキルと……」
「言わないでください白波先輩……」
頬を赤くし恥ずかし気に下を向く乃亜のその姿は可愛かった。
空気が若干緩んだ時、そんな空気など読まずに現れるものがいた。
『お前が落としたのはこの紙の大楯か? それともこの布の大楯か?』
それ大楯って言えるの?
「なるほど。本来であれば武器を落としてしまったらこうして奪われ、ろくでもない物に変えられてしまうんですね。それはどちらもわたしのではありませんよ」
『正直者なお前にはこの2つをくれてやろう』
「もしも他の冒険者だったら完全に煽られたと感じてキレますよね」
「武器って高いから……」
乃亜の手元に紙と布で出来た大楯が2枚本当に渡されたけどそんな物当然いらないので、乃亜はすぐさま捨てて僕へと振り返り――顔を赤くして僕に背を向けるようにしてナイト達の方に向き直った。
「せ、先輩。先輩のスキルで服と同じように大楯をお願いします! ガンガン投げて敵を削りますのでその都度お願いします」
「う、うん、分かったよ」
照れてる場合じゃないのは分かってるんだけど、さっきの今なのでさすがに照れてしまう。
「鹿島、私にも適当に投げるもの頂戴。[獣化]は他のスキルの効果を強化したり膂力を上げる効果があるから、[狐火]だけじゃなくて投擲でも敵を削ってやるわよ!」
「エッフェル塔の文鎮でもいい?」
「……なんでそんな物持ってるのよ」
「ガチャってランダムだから……」
でもそこがガチャのいいところなんだけどね! 何が出るか分からない楽しみっていいよね。
「よし。それじゃあいきますよ白波先輩!」
「オッケー。ガンガン敵を削ってやるわよ!」
僕はすぐさま[フレンドガチャ]で出てきた大量のいらない物の中で適度に重い物を白波さんに渡せるようにタップしまくって準備しつつ、乃亜が投擲した大楯が敵にぶつかって役目を終えたであろう段階ですぐさまスマホをタップして大楯を呼び出す作業に専念することになった。
「見てください先輩。ゴブリンがゴミのようです!」
「天空の城から攻撃しているとでも!?」
ナイトは魔剣で反撃する暇もないのか、当たらなくても大質量の物体が飛んでくることを恐れて剣先をこちらに向けて水弾を撃とうとせず、もう片方の剣で身を守ろうとしている。
どうやらあの剣は身体能力を上げるのか、大楯がぶつかっても少し踏ん張る力が増えたせいか、後ろにいるゴブリン達の巻き添えが少なくなってるように感じる。
「高宮さんに負けてられないわね。[狐火]!」
白波さんが放つ[狐火]もスキルの効果で威力が上がり、水弾を放つ魔剣で相殺しようとナイト達が動いても、放たれた[狐火]は水で掻き消えることなくナイト達に直撃して動かなくなり、水の中に沈んでいった。
「やっぱりあの魔剣厄介ね。威力が少し殺されてあまりゴブリン達を倒せなかったわ」
「それでも1発でナイト数匹まとめて始末してるんだから凄いよ」
「ふふん、まあね。でもそれだけじゃ全然敵が減らないから私もどんどん投げつけてやるわよ!」
先ほどまでの絶望感が嘘のように引っくり返って、順調に敵を倒し続けられるようになった2人はどこか楽しそうだった。
やっぱりスキルって重要なんだな~。
いいな、羨ましいな、戦えるスキル。
そんな風に状況が好転したことで人のスキルを羨ましく思う余裕が出来たその時だった。
「ガアアアアアアアア!!」
ゴブリンキングが吼えて配下のゴブリンナイト達に何かしらの命令を下していた。
どうも一筋縄ではいかないようだ。
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