第31話 モンスターハウスリターン
「あっ、見てくださいジェネラルが!」
乃亜に言われてジェネラルの方へと視線を向けると、ジェネラルの纏っていた全身鎧のうち上半身の鎧が先ほどの爆発でへしゃげて外れかかっており、内部へ相当衝撃が加わったであろうことが見て取れた。
その証拠にジェネラルは少し苦しいのか、足をふらつかせている。
「声をかけられたのですぐにジェネラルから離れられたわたしでも先輩たちがいるところまで吹き飛びましたから、まともに食らったジェネラルは相当なダメージでしょうね」
「凄いわね。まさか[狐火]がこんなにも強化されるだなんて……」
白波さんも自分が引き起こした惨状に驚いていると、先ほどまで全く動く気配のなかったキングが突然動き出した。何故かジェネラルへと向かって。
「一体何を?」
そう思った瞬間、キングがジェネラルの首をその手に持つ剣で斬り落とした。
「「「えっ?」」」
あまりの光景に唖然としていると、キングはジェネラルの首を持ち上げて吼える。
「ガアアアアアアアア!!」
自分で味方の首をはねたくせに怒ってるのか?
意味の分からない光景だったけど、その理由はすぐに分かることになった。
ジェネラルの死体が水の中に沈んでいき、頭だけがキングの手元に残る。
キングの手に持つ残った頭が光り輝き消えていくけれど、それはいつもの消滅していき光が薄くなっていく光景ではなく、光だけはその場で残り強く輝き続けるものだった。
その光がやがて一点に収束していき限界まで小さくなったその時だった。
まるで風船が膨らむかのように幾何学模様を描いて大きくなった。
「なっ、この魔法陣は!?」
たった1度だけだけど見覚えのある模様。
モンスターハウスで見た魔法陣と全く同じものが、だけどあの時と比べものにならないサイズで展開され、そこから大量のゴブリンが現れた。
「「「グギャー!!」」」
ジェネラルは生贄だったんだ。
キングはジェネラルを糧にし大量のゴブリンを召喚した。
しかも現れたゴブリンはあの時と違い全てゴブリンナイトであり、完全にこちらを物量で潰すつもりのようだ。
「ははっ……これは、まずいね」
「一体何体いるんですか! 300体以上は確実にいますよね!?」
「これがキングの能力ってことなのかしらね……」
幸いなのはナイトしかいないことだろうか?
これでもしもゴブリンメイジまでいたら遠距離から絨毯爆撃でもされて終わっていただろう。
そう思った。
しかし僕らはまだ見誤っていた。
泉の女神である【
「「「ギャッ」」」
「は?」
ナイト達全員が手に持つ剣を床へと落とし、それは吸い込まれるように水の中に消えた。
『あなた達が落としたのはこの魔剣? それともこちらの魔剣?』
「「「ギャッ!」」」
『正直者なあなた達にはこれらを上げましょう』
「そんなの……ありなの?」
どこからどう見ても完全にマッチポンプであり反則以外のなにものでもなかった。
女神のような顔で悪魔みたいにいやらしく笑う女は完全に僕らを殺しに来ていた。
「ガアア!!」
「「「ギャーー!!」」」
キングの号令に従い、ナイト達がゆっくりと確実にこちらを半包囲しながら向かって来た。
「ちっ、[狐火]」
ジェネラルを葬った[狐火]はナイト達へもその威力を発揮した。しかし――
「……全然減った気がしないわね」
粗野なゴブリンとは思えぬほど一糸乱れぬ動きでナイト達はこちらにゆっくりと、だが確実に向かって来ており、魔剣の効果で強化されているのか[狐火]で削れたのは前方にいた数匹だけだった。
「このままなら確実に私達は死ぬわね。出し惜しみしている場合じゃなさそうよ」
白波さんが何か覚悟を決めたとき、ナイト達に動きがあった。
ある程度の距離まで近づいて来た前にいるナイト達が、魔剣の剣先をこちらへと向けて来た。
「「「グギャ!」」」
「2人とも下がってください!」
乃亜が咄嗟に前に出て迫りくる水弾をその大楯で防ぐ。
「ぐっ、重い……」
十数匹が一点に集中して放つ水弾はジェネラルの攻撃を受け止めていた乃亜でもキツイのか、先ほどよりも苦しげな表情をしていた。
「[幻惑]」
白波さんから紫の煙のようなものが放たれるけど、それは煙とは思えない速度で瞬時に前方にいたナイト達の身を包んだ。
「水弾が逸れてく?」
段々と別の方向へと水弾が放たれ、終いには全く見当はずれの方向に水弾を放ち続けていた。
「[幻惑]で私達が逃げようとする幻を見せてるわ。その幻を追って攻撃してるけど、後ろのゴブリンが叩くなり何なりしたらすぐに解けちゃうから時間稼ぎ程度ね」
そう言いながら白波さんは何故か靴と靴下を脱いで素足になった。
「あまりこっち見ないでね。[獣化]」
極力使いたくないと言っていたスキル[獣化]を使うと、すぐに変化が始まった。
手足が若干大きくなり狐のような手足となって毛でおおわれていき、顔が人間の顔だったのが完全に狐へと変身していた。
「ふぅ、この姿は好きじゃないわ。まるで魔物にでもなったかのようでいい気分じゃないわね」
「そうですか? 結構カッコイイですよ」
「そうだね。そのモフモフは思わず撫でたい」
「撫でさせないわよ!? まったく、調子狂うわ」
そう言いながらも白波さんの顔はどこか笑っているように見えた。
「白波先輩が、ご自身が好きじゃないスキルを使ったのですから、わたしも覚悟を決めないといけませんね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます