第30話 【魔女が紡ぐ物語】
講習の際に【
【
そしてこの魔物は基本的にどの冒険者も相対したくないと思っている。
その一番の理由が何と言ってもその強さだ。
ダンジョンにはランクがS~Fまであり、普通は自身の適正ランクの場所で探索を行うけれど、【
それ故に、もしも偶然それに遭遇してしまったら命の危機だと教わった。
そんな危険な存在が今、僕らの目の前にいた。
「に、逃げるわよ!!」
白波さんの声に僕らは突き動かされるように、急いで【
『ケケケケケ!』
しかしそれは無駄な努力だと言わんばかりに、金切り声を上げて笑った【
「なっ、どこここ?!」
一瞬で僕らは体育館の2倍はありそうな空間へと移動しており、そこに出口らしきものは見当たらなかった。どうやら僕らは閉じ込められてしまったようだ。
『泉に落ちたのは何? それはあなたの大切な物? それはあなたのいらない物? どんな物でも私は拾って問いかける。あなたが落としたのはどっち?』
魔女の格好をした骸骨が膨れ上がった青白い炎に包まれると、そこには何もいなかった。
だけど“声”は途絶えることなく空間に響き続けていた。
『正直者にはどちらもあげましょう。嘘つきには罰を与えましょう。それが泉たる私の役目なのだから』
床のあちこちから水があふれだし、水たまり程度の深さの水が床を覆いつくす。
「ガッ、ガボボ!」
「先輩、ゴブリンナイトが
「そんなバカな!? 沈むどころか浸かれるほど深くないのに?」
水の中へと完全にゴブリンナイトは消えていき、そこには何も無くなった時、半透明の薄そうな服を着た女がどこからともなく現れて僕らへと問いかけてきた。
『あなた達が落としたのはこのゴブリンジェネラル?』
女が指示した場所の水の中から、先ほどのゴブリンナイトとは比較にならないほど立派な全身鎧を身に着けたゴブリンが這い出てきた。
『それともこちらのゴブリンキング?』
同じように這い出てきたのは王冠を被った、今まで見てきたゴブリンよりも段違いに体の大きい、2メートルはあるゴブリンだった。
「そっ、そんなのどっちも――」
「待って高宮さん! これは明らかに【金の斧・銀の斧】をモチーフにしてるわよ!」
【
この敵は先ほどのセリフから考えると、白波さんの言う通りきこりが鉄の斧を泉に落として泉の女神が問いかける、あの有名な物語で間違いないだろう。
つまりはここで馬鹿正直に違うと言えばジェネラルとキング両方と相手をしなければいけなくなるわけだ。
「ならここは嘘をつくべきなんだろうけど、嘘つきには罰と言っていたのが気になるところだね」
「そうだけど少なくともジェネラルとキングの両方よりはマシなはずよ」
「白波先輩の言う通りですね。では――わたし達が落としたのはそちらのジェネラルです!」
さあどうなる?
『嘘つきなあなた達には罰を。ゴブリンキング、ゴブリンジェネラルこの3人を始末なさい』
「結局どっちも変わらないじゃない!?」
正直に言っても嘘ついてもキングとジェネラルを差し向けるなら答える意味って……。
「「ガアァーー!!」」
「ちっ、白波さんをすぐに〔成長の種〕で限界まで強化する! 乃亜達はその間あいつらの攻撃を防いでいて!」
「分かりました!」
「分かったわ」
僕はすぐさまスキルでスマホを呼び出すと、[チーム編成]の派生スキルで白波さんの箇所をタップする。
「ガァッ!」
「くっ!」
ジェネラルが乃亜を襲っているのが横目で見えており、ジェネラルが持つ剣の一撃をその大楯で防いだはずなのに乃亜の服の袖が弾けていた。
まずい。相手はかなり強敵で、レベルが上がり僕のスキルでも強化しているはずの乃亜でも攻撃が防ぎきれていない。
焦って指が震える。
何度もタップし続けたスマホだけどこの時ばかりはうまく操作が出来ず、何度か操作ミスをしてしまった。
「落ち着きなさい鹿島! あんたの役目は私達のサポートをすることで前に出る必要はないのだから、存分にその能力を発揮させなさい」
「そうですよ先輩。わたし達が先輩を守ります! だから先輩は安心していつも通りわたし達を手助けしてください!」
白波さんと乃亜の言葉に心が少し落ち着きを取り戻し、[チーム編成]で白波さんを選択し、育成で〔成長の種〕を残り20回分タップする事が出来た。
「よし、白波さん強化が終わったよ!」
「オッケー、と言ってもさっきからキングの方を警戒しているのだけど一向に攻めてこないのよね。一体どういうつもりなのかしら?」
何故かキングはジェネラルの後ろで仁王立ちしており動く気配を見せなかった。
「なんで攻めてこないか分からないけど今のうちにジェネラルを倒した方がいいんじゃないかな?」
「それもそうね。高宮さん避けて! [狐火]」
白波さんが放った[狐火]はおそらく牽制であり前に見たのと同じソフトボール大の火球を数発ジェネラルへと向けて射出した。
「へ?」
しかし手元から離れたそれらはみるみる大きくなり、バスケットボール並みのサイズとなって乃亜を巻き込んでジェネラルへと着弾した。
「きゃああああ!!」
「乃亜ーーー!?」
「高宮さん!?」
乃亜が爆発でこちらに吹き飛んできたので、慌てて落下地点へと駆けて受け止める。
「ビッ、ビックリしました……」
「ちょっ、乃亜凄い格好になってるよ……」
「えっ、きゃ!?」
乃亜をお姫様抱っこで受け止めたけど服は申し訳程度に引っかかってるだけで下着も今にもちぎれそうな有様だった。
「ごめんなさい高宮さん! まさか[狐火]があんなにも強力になってるだなんて思わなくて……」
「いえ、大丈夫です白波先輩。被害は服だけなので。先輩、その、そろそろ降ろしていただいて服を直してもらってもいいですか?」
「わ、分かったよ」
僕は乃亜を降ろしてスマホを操作すると、すぐに乃亜の服は元通りになった。
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