第29話 ゴブリンナイト

 

「はっ!」

「[狐火]!」

「………」


 僕らは今7階層に来ていた。

 ほんのお試しのつもりでパーティーを組んでいたので、始めは昨日まで乃亜と探索していた5階層に行ったのだけど、このの組み合わせではゴブリンたちがまるで相手にならなかった。

 さらに僕の[チーム編成]の育成で、白波さんに試しに〔成長の種〕を10個だけ使って強化したところ[狐火]の威力が増幅し、白波さん1人でゴブリンソルジャーやメイジ相手でも余裕で3匹まとめて相手どれてしまった。


 結果としてこの階層では力試しにもならないと判断して下の階層へと移ったが、まとめて現れる数が3匹が4匹になった程度だったので、さらに下でも大丈夫だろうと7階層に行くことになった。


 そして今、そんな2人の活躍をほぼ見るだけになった僕。

 いや僕だって戦いに参加したいとは思ってるけど、攻撃を受け止めるのは乃亜だけで十分だし、攻撃はヘタにしようものなら白波さんの[狐火]に巻き込まれてしまうんだ。


「……僕がいる意味」

「鹿島が魔石とか拾って運んでくれてるから助かってるわよ?」

「ポーターかな?」

「先輩がいてくれるお陰で力が増してますよ」

「ステータスを上げるアクセサリーかな?」

「喉が渇いたら飲み物出してくれるじゃない」

「ドリンクサーバーかな?」


 いけない、泣きたくなってきた。

 自分の役目があまりにもあんまりなので心から虚しいものがこみ上げてくる。


「でも鹿島が前に出るのは危ないわよ?」

「白波先輩の言う通りですよ。先輩は後ろでドンと構えてくださってればいいんです!」

「それにいざとなったらアイテムを色々使ってくれるんでしょ? 頼りにしてるわ」


 2人の温かい言葉に若干気持ちが回復した。

 うん、とりあえず自分の出来る範囲で頑張ることにしよう。

 それに白波さんと乃亜の仲が良くなったので僕が戦闘で役に立てない程度気にすることないよね。


 始めは2人ともギクシャクしていたけれど、共闘することで互いを認め合ったのか今ではいい雰囲気で探索できているので、白波さんをパーティーに誘ってよかったと思う。

 これでダンジョンや学校ですれ違う度に妙な空気にならずに済むね。


 最初は軽い気持ちで誘ったけれど、いい方向に向かったので誘ってよかったよ。

 逆に険悪になった可能性もあったけれど、なってない未来は気にしてもしょうがないので気にしない。


「あっ、またゴブリンが現れましたね」

「今度はソルジャー2匹、メイジ1匹、ナイトが1匹ね。今まで会った組み合わせでは一番強力じゃないかしら? 2人とも油断しないようにね」

「分かっています白波先輩!」


 乃亜が大楯を構え、白波さんが[狐火]を放つ。


「ギャッ!」


 全身鎧を着たゴブリンナイトがメイジへ向かって何かを指示すると、メイジが頷いてバリアーを張って白波さんの[狐火]を防いでしまった。


「メイジってファイヤーボールしか使わないんじゃなかったっけ?」

「それはナイトと組んでいないときね。ゴブリンナイトはパーティー内のゴブリンを強化するからメイジはバリアーを使うし、ソルジャーも力が強くなるわよ」

「なるほど」


 ゴブリンナイトはこの階層から出てくるから知らなかったよ。


「それじゃあ先にナイトを始末した方がいいですよね?」

「それが出来れば理想だけど、ソルジャーが前に出てきてるしメイジが遠距離攻撃を潰してくるからそう簡単にはいかないわよ」

「厄介だね。じゃあ試しにアイテムを使ってみていいかな?」

「[狐火]連打してメイジのガス欠を狙うのも、高宮さんがソルジャーを倒すまで待つのも大変だから何とか出来るならして欲しいわね」

「上手くいくかは分からないけど試す価値はあると思うよ?」

「じゃあお願い」

「了解」


 僕は早速スマホからあるアイテムを取り出す。

 レア度はNノーマルのもので〔気配四散薬〕のように超常現象が起こせるわけじゃないけど、メイジが結局ファイヤーボールかバリアーしか使わないなら十分効果があるはず。


 僕はビンに入ったこのアイテムをゴブリンたち目掛けて投げつける。


 メイジのバリアーに当たったビンはそのままはじかれて地面へと落ち、ビンが割れて中身の液体が飛び散る。


「ギャギャッ!」


 しかしそんな物気にしないと言わんばかりにナイトが今度はソルジャーに指示を出し、ソルジャー達は前へ出てくる。

 飛び散った液体を踏みつけて。


「「ギギッ!?」」


 2匹のソルジャーは仲良く2人そろって滑って転んでしまい、その全身を床に広がっている液体まみれになってしまう。

 2匹はすぐさま起き上がろうとするけれど上手く立てないのか何度も転んでいた。


「何あれ?」

「油」

「はい?」

「だから油」

「……そんなので無力化するのは鹿島くらいね。わざわざ油なんて持ってきてダンジョン探索するやつなんていないでしょうし」

「日用品も馬鹿にできないね。と言うわけで[狐火]をよろしく」

「はぁ、分かってるわよ」


 白波さんが放った[狐火]をメイジが防ごうとするも地面にまではバリアーを展開しきれず、油に着火した火が地面を伝ってソルジャーを丸焼きにした。


「これでソルジャーは片付いたね」

「微妙に釈然としないけどまあいいわ。残りはメイジとナイトね」

「ならわたしがナイトの方を受け持ちますのでメイジをお願いします」

「分かったわ」


 乃亜がナイトへと駆けていき、その後ろについていくように白波さんが追いかける。


「はっ!」

「ギッ!」


 ナイトは乃亜の攻撃を防ぎ反撃する。

 しかし乃亜の防御は突破できず、乃亜からの攻撃を防ぐことにかかりきりとなった結果、メイジに指示を出すことは出来ず、その間に白波さんがメイジへと近づきバリアーを蹴りで破壊していた。

 えっ、あのバリアーの壊れる音が木をへし折ったような鈍い音なんだけど。

 相当硬そうなのに蹴りで壊すとかすごっ!


 そのまま白波さんはバリアーの無くなったメイジを[狐火]で燃やし、ナイトが1匹だけ残った。


「後はそいつを倒せばお終いね」


 誰もがそう思った時だった。


 突然ゴブリンナイトと僕らの間に青白い炎が立ち上り、そこからその炎を纏った魔女の格好をした骸骨がいきなり現れた。

 ここはゴブリンしか出ないはずなのになんだこいつは?


「なっ、まさか【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】!?」

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