第13話 模擬戦(2)


「ボクは[身体強化]を発動させる」


 そう宣言すると、宙に浮いていたカードが1枚砕けて光となり彼に吸い込まれていく。


「行くぞ!」


 彼は一番近くにいた咲夜目掛けて、持っている剣を使い攻撃を仕掛けてきた。


『咲夜チャンスだよ。単独で攻撃してきてエルフの人の援護もない今なら、舞台の外に容易に追い出せる』

『うん、分かった』


 咲夜は振り下ろされる剣に対して、左腕でガードをすると同時に蹴りを放って場外へと吹き飛ばそうとした。


 ――ゴガンッ!!


 人体を蹴り飛ばしたとは思えない音が周囲へと響く。


「ぐおっ! 雄介に[性質付与]してもらったのになんて威力だ……!」


 あれ? 思ったより吹き飛ばなかったな。

 舞台の端近くのところで止まって片膝ついてるし。


「なんと!? 拙者が省吾殿の“城壁”を付与したのに智弘殿がそこまで苦しむなんて、どんな威力の蹴りでござるよ!? 省吾殿、智弘殿に[修復]をお願いしますぞ! 拙者も念のためこっちの城壁を強化するでござる」


 雄介さんがそう言うと、智弘さんの体が光り、まるでダメージなんて無かったとでも言わんばかりに立ち上がって、再び咲夜に向かって駆けてきた。


「ボクはカードを1枚生贄に捧げ、[金剛]を発動させる」


 いつの間にか再び5枚あったカードの内、2枚のカードが砕けて彼に吸い込まれる。

 [スキルデッキ]がどんなスキルなのかよく分からないけど、スキル名と発言からして複数のスキルを使えるスキルと思っていいはず。

 そしてダメージが無くなったのはあの城壁を展開した省吾さんの力か?

 くっ、聞いたこともないスキルを使用してくるから、“平穏の翼”と相対してた時より状況把握がしづらいな。


『[金剛]でより硬くなってることを考えると、かなり防御力は上がってるはずだけど攻撃力はそのまま。なら彼は乃亜が足止めして、回復させてるであろう省吾さんを咲夜が城壁を飛び越えて先に倒して。冬乃は乃亜の援護をしつつ、エルフの人が攻撃してきたらその妨害をお願い』

『『『了解』』』


 〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕が使えれば、智弘さんと城壁に放っていたところだったけど、それは出来ない。

 〔典外回状〕を発動してまだ1週間経ってないせいで、〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕が使えないんだよね。

 〔典外回状〕のリスクが思ったよりも重いな。


 まあ〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕は結界の効果を反転させるから、[金剛]や城壁に効くかは微妙なところだったけど。


「はっ!」

「この程度なら十分防げますね。お返しです!」

「ぐっ」


 乃亜が大楯で智弘さんの攻撃を防ぎ、逆に大楯を振るって反撃する余裕まであるように……ん?

 乃亜の攻撃が智弘さんに当たった瞬間、浮かんでいるカードが1枚増えたように見えたぞ。


 乃亜が攻撃したから手札が増えた?

 ターンがどうのとか言っていたし、こちらの行動もスキルに影響があるのかもしれない。

 しかし相手にスキルを使わせない為にこちらが攻撃しないのでは、結局倒すことは出来ないので考えるだけ無駄かな。

 5枚以上カードが増えることはないようだけど、5枚ある事を考えると攻撃せずにスキル全てを枯渇させるのは難しいだろうし。


 そんな事をするくらいなら、舞台から外に出した方が手っ取り早いだろう。


「火耐性の魔道具を持ってなかったら、矢を放っただけで危うく退場してたでやんす。リーダーより先にこっちを倒しに来るようでやんすが、そう簡単にはさせないでやんすよ!」

「あんたの攻撃は私が防ぐわよ。[狐火]!」


 海晴さんはまた城壁の上から矢を放つも、冬乃が地面に届く前にドンドン燃やし尽くしてしまう。


「拙者もいくでござる! [性質付与][投擲]!」


 雄介さんの手にはどこかでも見た手裏剣。[投擲]のスキル持ちは、その武器を使いたがるんだろうか?


「この程度当たっても――っ!?」


 パンッと音がして咲夜のズボンが一部破け、咲夜自身も吹き飛ばされていた。

 傷がつかない程度の攻撃であれば、当たったとしても乃亜の[損傷衣転]で服が破ける事はないのに、今の攻撃が咲夜に効いたと言う事は、あの攻撃は咲夜に傷をつけることが出来ると言う事。


 だけどおかしい。

 咲夜は迷宮氾濫デスパレードの時、スケルトン達に槍や剣の攻撃を受けても肌に傷1つつくことはなかった。

 だからたかが手裏剣程度で傷がつくことはないはずなのに、どういう事だ?


「ふふん。驚いているでようでござるな! しかし休む暇は与えぬでござるよ! その無粋なズボンは拙者がはぎ取ってみせるでござる」

「「「うわっ、サイテー……」」」


 この会場内にいる女子、および心が乙女の方はかなり冷ややかな目で雄介さんを見ており、男達のほとんどは声には出さないが期待するような目で咲夜を凝視している。

 サイテーだなお前ら!?


「当たらなければいいだけ。咲夜の肌を見ていいのは蒼汰君だけ」

「……攻撃対象変えたくなったでござるな」


 血の涙を流しかねない表情でこちらを見るのは止めてください。


「気持ちは分かるでやんすが、あの女子に近づかれるのはこっちが不利でやんすよ」

「分かってるでござる! [性質付与][投擲]!」


 こちらを見ながらも、自身の役割をこなそうと咲夜へと手裏剣を放ってきた。


「当たらない」

「なんと?!」


 今咲夜が着ているチャイナ服は脚力が20%上昇するから、いつもより素早く動いて余裕で放たれる手裏剣を避けながら徐々に城壁へと近づいて行ってる。


「むむっ、ならこれならどうでござるか! [性質付与][投擲]」


 ――パンッ


「んっ!」

「“風”では速度が追い付かなくても、“雷”の速度は避けられないようでござるな。そう簡単に近づけると思わない事でござるよ!」

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