第36話 動けるタイプのミミック
西洋の甲冑に擬態しているミミックたちは、あたかも人が中に入って動いているかのように擬態して移動しており、冒険者に近づいて襲ってくるらしい。
しかも宝箱よりも耐久度が高いため、ここから先は遠距離からの一方的な攻撃で倒せるほど甘くないという訳だ。
ガシャンガシャンと音を立てて近づいて来る甲冑。
これがもしも冒険者であるなら、あのような恰好をしている人は声を出して人間であるアピールをするのがマナーなんだけど、そういった事をしないし、1人だけなのでミミックに間違いない。
「[狐火]」
放たれた[狐火]がミミックへと当たるけど、宝箱とは違って甲冑ミミックはその衝撃で少し後退するだけで、火はすぐに消えてしまう。
「キシャー!」
「本性簡単に表したわね」
甲冑のお腹の部分が横に割れると、そこから大きなギザギザな歯と舌が現れる。
甲冑ミミックはまるで人が動かしているかのように走ってきて、手に持ってる剣を振り上げているので、それで攻撃する気満々なようだ。
……その大きな口は飾りなの? 噛みつかずに剣で攻撃してくるとか、ミミックとしてどうなの?
迫ってくる甲冑ミミックに、冬乃は再度[狐火]をその大きな口目掛けて放つけど、ミミックは[狐火]をサイドステップで俊敏に避けてしまう。
「意外と動きが機敏です、ねっ!」
言い終わるのと同時に乃亜が大楯を投擲する。
[狐火]よりは遅いけど、その巨大さと大楯を投擲するという意外性に戸惑ったのか、甲冑ミミック避ける事が出来ずに鎖骨辺りにぶつかって、金属音を周囲へと響かせていた。
普通の人間があの中に入っていたら、倒れ伏していそうな衝撃があったと思うのだけど、甲冑ミミックはまだ動けるのか起き上がって再びこちらへと向かってくる。
「頑丈ですね。20階層より下の階層になると、もはや別の魔物だと思ってもいいレベルです」
「それじゃあ今度は咲夜がいく」
乃亜の大楯が当たった箇所は思いっきり甲冑が凹んでいるけれど、甲冑ミミックはそれを全く気にしている様子はない。
そんなミミックに対して、咲夜はどうするつもりなのかと思っていたら、迫りくるミミックに対して素早くその背後へと回り込むと、腰の部分に強烈な回し蹴りを叩き込んだ。
足で蹴ったとは思えない音が甲冑とぶつかった時に響き、まるで金属同士がぶつかった様な音がしたけど、乃亜が大楯をぶつけたのと似たような感じだったし、これではまだ倒せてないかな?
そう思っていたら甲冑ミミックは咲夜に蹴り飛ばされて倒れ伏した場所で、その大きな口をだらしなく開いて舌を出しながらピクピクと震え、やがて光に包まれて消えてしまった。
「あれ? また立ち上がってくると思ったけど、そのまま倒せたね」
「本体がおそらくお腹の辺りだけで、手足や胸とかに当たってもほとんどダメージが無かったんだと思う。乃亜ちゃんの攻撃が当たった後のミミックを見て、そう予想して攻撃してみたら実際倒せた」
「存外面倒な相手ですね。とはいえ、お腹辺りを狙えばいいと分かったので、次からは問題ありませんね」
僕らはミミックのドロップアイテムを拾って再びダンジョンの探索をすると、しばらくしてまた甲冑ミミックと出くわした。
「それでは今度は狙いを間違えないでいきます」
乃亜が大楯を振りかぶって投げると、狙い通りの場所、腹部に大楯が飛んでいき甲冑が吹き飛んだ。
「よし、やりました!」
ミミックに避けられることなくクリーンヒットしたので間違いなく倒せた、そう僕らは思った。
「キシャー!」
「「「「はっ?」」」」
何事もなく立ち上がったミミックは、今度は右足がパックリと縦に割れてギザギザな歯と舌をむき出しにしていた。
「位置が個体ごとにバラバラなんですか!?」
「1回攻撃すればどこに本体があるのか分かるとは言え、遠距離から一方的に倒そうとするのは難しそうだね」
「足に口があるとか、ちょっと狙いづらいわね」
胴体とかに口がある個体と違って、手とか足にある個体を倒すのは面倒くさそうだ。
「もうこうなったらドンドン投げて意地でも倒してやりますよ!」
乃亜はその宣言通り大楯を投げまくって戦い、避けようと頑張っていた甲冑ミミックも、逆側の左足を吹き飛ばされたら俊敏に動けなくなり、最後は乃亜が近づいて大楯で潰していた。
「意外と倒すのに苦労しますね」
「20階層までだったら私の[狐火]で一撃なのに、急に倒しづらくなったわね」
「ここからがこの〔ミミックのダンジョン〕の本番だって意味がようやく分かったよ」
20階層までは下に降りる階段が降りた場所から近い位置にあるので、すぐに下の階層へと移動できるのだけど、20階層以降は離れた位置に下への階段があるので移動距離が長くなり時間がかかる。
だから放課後の短い時間では20階層までしか行けなかったため、宝箱型のミミックしか知らなかったけど、動けるタイプのミミックが意外と倒すのに時間がかかるとは思わなかったな。
僕らはその後、門限に間に合う様に時間を気にしながら移動したけれど、その日は31階層までしかたどり着くことが出来なかった。
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