第11話 くっそ忙しい
「おーいエバノラー。会いに来たよー」
レジャー迷宮に入った僕は早速エバノラの名前を呼ぶ。
この施設内でエバノラを呼べば会ってくれると言っていたものの、あの試練以来ここに来てなかったから本当にこれでエバノラと会えるかは分からないけど。
「先輩、反応がありませんね?」
「試練が終わった後、遊びに来なさいって言ってたくらいだから、呼ばれたらすぐに反応するのかと思ったけど、何も起きないわね」
「エバノラさんなら嬉々として呼び寄せる、はず」
エバノラの事を知る乃亜達は口々にまるで反応が無い事に首を傾げていた。
「これはもう温泉という正規ルートで会いに行くしかありませんね」
「混浴を正規ルートと言うのは止めよう」
レジャー迷宮で噂されている都市伝説に、ハーレム用の風呂に入ると【典正装備】を手に入れられるというエバノラ自身が流した噂がある。
実際、ハーレム用の風呂を利用するとその日の夜にエバノラのいる所に呼び寄せられて試練を受け、【典正装備】を手に入れたから間違いではないけど。
………………今思うと、あの時の混浴がもしかして分岐点だったのでは?
あそこで混浴しなければ[ダンジョン操作権限]のスキルなんて手に入らずに、それをきっかけに【織田信長】の【
まあ今更か……。
「それじゃあサクッとお風呂に入るさね」
「ちょっと待ちなさい。なんであんたが率先して行動するのよ。普通躊躇するもんでしょうが!」
乃亜達ならともかく桜さんは明らかに僕に対して恋愛感情がないのは分かっているので、そんな彼女があっさりとそう言った事に驚いてしまう。
もっとも、桜さんが平然とそう言ったのは至極単純な理由だった。
「別に水着を着て入ればプールと変わらないさね」
「あ、確かにそうね」
「ん~? まさか冬っちは素っ裸で愛しの彼氏と組んずほぐれずとお風呂に入る気だったのかニャ~」
「ふんっ!」
「顔ーーー!!?」
顔を真っ赤にした冬乃に桜さんがアイアンクローで顔面を鷲掴みにされていた。
そんな和気藹々としている時だった。
『クシシシ、相変わらず面白い子達ね』
『キシシシ、見ていて飽きないわね』
……この特徴的な笑い方。
「なんで君らがいるの?」
『むしろなんでいないと思ったのかしら?』
『あなた達に試練を達成された後、エバ姉様の元に身を寄せたからに決まってるじゃない』
中国とロシアで起こった【
『『それじゃあ早速行きましょ』』
「いや、ちょっ?!」
こちらの返事など一切待たず、マリとイザベルはパチンッと指を鳴らして見覚えのある空間に僕らを移動させた。
『『連れて来たわよ』』
『すやー』
連れて来られて真っ先に目に入っのたは“怠惰”の魔女であるローリーが相変わらず惰眠を貪っている姿だった。
“傲慢”と“強欲”の魔女であるマリとイザベルがいるんだから、当然ローリーもいたか。
マリとイザベルとは違い、最後に思いっきり刀で斬ったから本当にエバノラの言った通り無事なんだろうかと思っていただけに、元気にぐーたらしているようで良かった。
「ふむ、魔女と言っても普通の人間と変わらないように見えるな」
「そうだね。ただその隣で猫がキーボードを叩いている姿は奇妙な光景だけど」
オリヴィアさんとソフィアさんの視線の先にいたのは元気がないように見える1人と1匹だった。
『このくそ忙しい時に連れて来ないでくださいよ』
『くっ、侵食が早すぎる!? あなた達も手伝いなさいよ!』
『『い・や♪』』
『すぴー』
『他の子達だったらまだ手伝ってくれるのに、どうしてこの場にはこの面子しかいないのよ!』
エバノラと黒猫のアンリが必死にキーボードのようなものをカタカタと叩いており、何やら作業中だ。
どこか殺伐とした雰囲気をまとっており、なんだか凄くお疲れに見える。
「何やってるの、あれ?」
『アグネスが今まで貯えていた力の全てを使って、ダンジョンを支配しようとしているのを阻止しているところよ』
「アグネス?」
聞いた事がない名前だけど誰だろう?
『今世間を賑わせている【魔王】。“憤怒”の魔女、アグネスのことよ』
『私達魔女の中で一番年下の子ね。キシシシ、いくら“憤怒”だからって、ここまで大それた事をする子じゃなかったのに。やるわねあの子』
『褒めてる場合じゃないでしょうが!?』
エバノラがひたすらに作業しながら顔も向けずに、マリとイザベルを怒鳴っていた。
『あなた達、いい加減手を貸しなさいよ! 分かってるの? このままじゃ本当に人類が滅びるのよ?』
『クシシシ、別にいいじゃない』
『キシシシ、過去の人間の不始末を今の人間が清算するだけなんだから』
『人類が滅びてもいいって言うの?』
『『それは今の人類の頑張り次第。過去に迫害した魔女に頼る方が間違いなのだから、自分達でなんとかするべきよ』』
何を言っているのか分からないけど、割と深刻な状況でありエバノラとアンリは手が離せない状況のようだ。
「あーこんな時に悪いけど、詳しい事情を教えてもらいたいから協力いいさね?」
『『そんな暇はない(わよ)』』
桜さんが申し訳なさそうにそう尋ねるも、エバノラとアンリからは袖にされてしまった。
「じゃあこっちに話を――」
『『絶対嫌』』
マリとイザベルは食い気味に断っていた。
わがままだってエバノラが言っていたし、見ず知らずの人間に対して素っ気ないのは当然なのかもしれない。
「は、話……」
『すぴー』
ローリー相手にはどうあがいても話を聞くなんて無理だ。
“怠惰”を超えられない限り会話すら出来ないんだから。
「話を聞いてくるだけのはずなのに、難易度高すぎなのさ……」
まあ間が悪かったんだよ。
まだまともなエバノラとアンリが忙しい時点で、事情なんて聞けそうにないね。
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・あとがき
混浴回にして『魔女じゃないのかよ』とか読者に思わせたかったけど、テンポ悪くなるので泣く泣く自重。
〔久々の混浴回~人数を増やして~〕、みたいなサブタイにできなくてすまない。
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