第12話 意趣返し

 

「エバノラが忙しそうだからマリとイザベルに聞きたいんだけど、アグネスって人がダンジョンを支配しようとしているんだよね?

 なんでそんな事をしているのか知ってるの?」


 明らかにこちらに構う余裕のなさそうなエバノラ達がどうしても気になったのもあり、桜さんの代わりに一体何でダンジョンを支配しようとしているのか聞くと、マリとイザベルはニヤニヤと面白そうなおもちゃを見つけたかのような目で僕を見てきた。


『あらまあ、教えて欲しいのかしら?』

『ま~態度によっては教えなくもないわよ?』

「……どうすればいいの?」


 うん。この2人が素直に教えるはずないよね。


『クシシシ、何をさせようかしら?』

『キシシシ、悩んじゃうわよね』


 やべぇ。空手形なんて渡すんじゃなかった。

 こっちからあれそれをすると提案する方がマシだったかもしれない。

 せめてまともな課題であって欲しいと祈るほかないな。


 内心の冷や汗を悟られたらさらに悪い事が起きそうな予感しかしなかったので、必死にポーカーフェイスを保ちつつ、どんな無理難題が来るのかと覚悟を決める。


『『それじゃあ――』』


 2人が何か言い出そうとした時だった。


『前にも言ったけど“憤怒”によって私達は常時人間を殺したくなる怒りに襲われているわ』

『『あっ、ちょっと!』』


 エバノラはこちらを見向きもせずにひたすら手を動かしながら淡々とそう言った。

 エバノラが2人の代わりに答えるであろう事を察したマリとイザベルがおもちゃを取り上げられた子供のような表情になる。……ありがとう、エバノラ。


『つまり最も人類に対して攻撃的かつ恨みを抱いているのはアグネスなのよ』


 “憤怒”によって怒りが抑えられない状態なんだね。

 分かりやすいところで言えば、ローリーのように何もしたくない状態と同じなんだろう。


『そこの双子に言われるまで気が付かなかったけど、アグネスは人類を虐殺するためにただひたすら【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を生み出さずリソースを貯め込み続けたわ。

 その莫大なリソースを用いて他のダンジョンを乗っ取り、自分のダンジョンとつなげる事で好きな場所から好きなタイミングで人類に対して迷宮氾濫デスパレードを仕掛けられるように企んでいるの』


 割とシャレにならない事を企んでいたようだ。


『あなた達人類に与えられた紋章はそのきっかけを作るためのものでもあるわね。

 どのダンジョンからも自分のいるダンジョンに侵入可能にするという制約をもって、他のダンジョンを少ないリソースでも支配できるようにしているわ。

 それに加え3カ月の猶予を与えている。つまり3カ月の間自分から攻めないという制約の重ね掛けで足りないリソースを補ってるのよ』

『はあ~もう、エバ姉様ったら酷いわ』

『そうよ。せっかく面白い事になりそうだったのに』

『手伝いもしないあなた達が悪いわ。

 普段なら多少は見逃したけど、今はまるで余裕がないからあなた達が愉快にしているだけでムカつくもの。

 少しくらい意趣返しするわよ』

『ちぇっ、残念。あ、ちなみに私達が地上にダンジョンを広げていたのは、ダンジョンを支配されにくくするためよ』

『地上にダンジョンを広げるのに必要なリソースは莫大だもの。それを支配しようとするのなら当然それ相応のリソースを払う必要があるわ』

「人間を滅ぼすためだったり、地上を自分達の支配下に置くためじゃなかったんだね」


 僕が2人にそう言ったら、キョトンとした表情になった後すぐに真顔になって首を傾げてきた。


『『そんなわけないじゃない。あの子が私達のものを奪おうとしたのが我慢ならなかっただけよ。もちろん人類が止めなかったらそのまま地上全てをダンジョン化していたわ』』


 さすが安定の“傲慢”と“強欲”だ。面構えが違う。


 それはさておきエバノラのお陰で2人におもちゃにされなくて済んだのはいいけど、とんでもない話を聞かされてしまった。

 しかし話を聞く限り全てのダンジョンは支配されてしまう感じだったけど、それならエバノラは何をしているんだろうか?


「じゃあ今エバノラ達は何を?」

『少しでも支配されるダンジョンを少なくして人類が殺されにくくなるように手を回しているのよ。

 いくら制約を重ね掛けしたとはいえ、ダンジョンの支配権を奪うのにはそれ相応のリソースが必要だもの。

 それをこっちも出来る限り少ないリソースで支配されないように防衛してるのよ』


 なるほど。だから少ないリソースをやり繰りするために、今ものすごく忙しそうにしているのか。


『分かったらとっとと帰りなさい。あなた達の相手をしている暇はないから、これ以上ここにいるなら双子のおもちゃになっても見捨てるわよ』


 エバノラがそう言った直後、僕らの目の前に魔法陣が現れる。


『あらあら、せっかく来たのだから遊びましょうよ』

『ええそうね。こんなにも早く帰っちゃうだなんてもったいないわ』


 あ、これはヤバい。

 この2人のおもちゃになったら、【ドッペルゲンガー】や【アリス】の時のような目に遭いかねない。


 僕がチラリと桜さんを見るとコクリと頷いてくれたので、僕らは早急にここからお暇することにした。


「じゃあさようなら~」

『『あ、ちょっと待ちなさいよ!』』


 マリとイザベルが何かをする前に、乃亜達と共に魔法陣に入って僕らはさっさと逃げ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る