第13話 異界の住人

 

 エバノラ達から聞いた話は桜さん経由で国に報告がいくだろうけど、ハッキリ言って【魔王】討伐には特に関係のない話だった。


「攻略の役に立つような話ではなかったけど、最悪な事態の対策だけはできそうだから問題ないさね」


 桜さんはそう言ってたけど、確かに討伐出来なければあらゆる場所のダンジョンからいつ起こるか分からない迷宮氾濫デスパレードに怯えて暮らすことになるという、最悪な情報を得たからその対策ができるだけマシか。


 3カ月経った後いきなり命を失う訳ではなく、迷宮氾濫デスパレードがあっちこっちで起こるだけ――

 京都の時の迷宮氾濫デスパレードみたいに防壁固めているならともかく、中国とロシアの時みたいな迷宮氾濫デスパレードになるだろうから、間違いなく人類の生存域はかなり狭くなるし、死人も大量に出るからヤバいな。


 それを考えるとやはり【魔王】討伐は必ず成し遂げなければいけないだろう。


 もっともそれにはまだ準備というか、海外とのスケジュールの調整などしているようで声がまだかからないけど。

 なので僕らは今のところ普通に学校生活を送っている。


「でもこんな事していていいのかな、って思うよね」

「先輩の焦る気持ちは分かりますけど、特に何も指示されていない以上わたし達には何もできる事はありませんよ」


 昼休みに集まった僕らは一緒にお昼を食べていた。

 【魔王】の宣戦布告以前と変わりない行動だ。

 あまりにも以前と同じせいで焦る気持ちが湧いてきてしまうんだ。


「……焦っても出来ることはないから、今は全力で体と心を休めていた方が良い」

「分かってはいるんだけどね」


 心を読んだオルガにもそう言われてしまったけど、さすがにこればかりは意思でどうにかなるものじゃない。

 とりあえずガチャでもして心を落ち着けよう。


「焦ってるのになんでガチャを回そうとしてるのよ」

「ガチャは心の清涼剤」

「もうあんたはずっと焦ったままでいなさい」

「なんで?!」


 冬乃にジト目で見られてしまった。

 いいじゃないか。これが一番僕が精神的に落ち着くルーティンなんだから。

 まあ、逆に精神が興奮したり落ち込んだりとアップダウンが激しくなるのは否定できないけど。


「蒼汰は相変わらずだな」

「そうだよね。ボクらと違って【魔王】討伐に参戦しないといけないのに」

「その右手の紋章が金色じゃなくても参戦させられたんだろうけどな」


 大樹達が若干同情を含んだ目で見てくるけど、大樹達だって銅色なんだから戦う機会があるなら頑張って欲しい。


 それにしても彰人まで銅色なのは意外だ。

 冒険者じゃないのにどんな評価でポイントが増えたんだろうか?

 まあ結構おかしな評価ポイントだし、女性100人に告白されるとか、そんなふざけたことでポイントが入ったんだろう。 


 それはともかくとして紋章が金色じゃなくても参戦させられる話だけど、それに関しては、まあそうだろうなと思うしかない。


「安全地帯の設置という理由だけで2回も呼ばれてるからそうだろうね。

 そっちはともかく、僕は直接戦闘にかかわる事ってほとんどないんだけど、それでもこの紋章って効果あるのかな?」

「効果がないってことはないと思う、よ? ゲームでもバフの倍率が上がったり、バフをかけた相手が特定の相手に対して有利になったりするし」

四月一日わたぬき先輩。それはゲームの話で合って現実にもそうなるとは限らないんじゃないか?」

「ん~どうだろ? ゲームの話だからって現実は違うとも言い切れないんじゃないかな? その辺は実際に戦ってみない事には分からないと思う」


 オリヴィアさんが咲夜の意見に否定的だけど、ソフィアさんはそうでもないようだ。

 確かに実際戦わない事には分からないし、そもそもこの紋章がどれだけ効果を発揮するかなんて比べるのは難しいと思うから、あまり気にしない方がいいのかな?


 だから世間もこんな紋章なんて気にせずに、SNSで『#高校生勇者』とかハッシュタグついて広まるのとかいい加減落ち着いて欲しい。

 今日も今日とて校門前にマスコミが来ているせいで、挨拶運動が校内でしか出来なかったし。


 少なくとも【魔王】をどうにかするまでこのままなんだろうなと思っていた時だった。


「うげっ。これは面倒なことになったさね」

「どうしたのよ桜?」


 先ほどから黙ってスマホをいじっていた桜さんが、見ていたスマホを僕らにも見える様に机に置いた。

 その画面にはニュースの報道が映っており、その内容が僕らが驚愕するような内容だった。


『世界各地で同一のユニークスキル持ちのような謎の集団が現れました。

 冒険者組合の発表によりますと、彼らは異界の住人と呼ばれる者達であり、ダンジョンから生まれた魔物ではなく異世界からの移住者であるとのことです。

 そのため意思疎通が出来るかを確認し、魔物かそうでないかの判断をすることで不用意な戦闘は避けて欲しいそうです』


 【魔王】によって世界が混乱しているところに、異界の住人という更なる問題が降って湧いてきたようだ。

 異世界の存在はエバノラから聞いていたけれど、まさかそこに住んでいた人達がこっちに来ているとまでは思いもしなかったな。


 僕がそんな風に思っていたら、彰人がスマホでニヤニヤと笑いながらニュースを見ていた。


「ふふっ、なるほど。今までダンジョンに隠れ潜んでいたけど【魔王】によって追い出されたってところかな?

 殺さずに追い出されただけで済んだのは、【魔王】がダンジョンを掌握するのに精一杯でそこまで余力がなかったのかもね」


 割と愉快そうにそんな感想をもらしていた。

 異界の住人に何か思うところでもあるんだろうか?


 まあ彰人がどう思っているかはともかくとして、ただでさえ【魔王】をどうにかしないといけない時に更なる面倒ごとがやってきてしまったのが問題だ。

 このせいで【魔王】を討伐するのに遅れが出るとかないよね?


『続いてのニュースです。世界各地の刑務所で重犯罪者達が突如として失踪しました。消息不明であり、現在警察の方でその行方を追っているとのことです』


 これは間違いなく遅れそうだ。

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