第7話 弟妹

 

≪冬乃SIDE≫


「今日は楽しかったわ。それじゃあまた明日ね」

「うん、また明日〔ラミアのダンジョン〕に集合だけどいいよね?」


 蒼汰達と一緒に今日1日遊んだけれど、夕方になりそろそろ家に帰って弟達のご飯を作らないといけない時間になったから、解散することになった。

 その際、蒼汰が確認するように明日の予定、ダンジョンに潜ることに問題がないかの確認をしてきたけど、当然問題ないわ。


「もちろんよ。明日も頑張って稼ぎましょ」


 なんせDランクの魔石の買い取り価格は5000円からなのだから、1体倒すだけでもかなり稼げる。

 放課後は2、3時間程度だから、昨日みたいに大物とその取り巻きでも見つけない限り5、6体程度だけど、それでも3万以上稼げて1人8000円近く、時給換算で3、4000円なんだから笑いが止まらないわ。

 もう学校なんてサボって毎日でも行きたいほどだけど、母が絶対にそれを許してくれないのよね……。


 まあ家族が爪に火を点す生活をしてまで学校に通わせてくれているのだから、そんな事しないけど。


「僕はお金よりもレベルを上げたい。そろそろ次の派生スキルが生えると思うんだけど……。いい加減無課金から解放されたい」

「……あんたの金だからあまりとやかく言いたくないけど、蒼汰は一生無課金でいた方がいいと思うわ」

「なんで!?」


 ガチャ狂いに対してわざわざ口に出して言う必要ないでしょ。

 目の前でガチャに1万円をポンポン使われた時には吐き気が酷かったわ。


 あれで気晴らし程度なんだから、スマホのガチャに対してどれだけつぎ込んでいるのか怖くて聞けないわ。


「先輩がもしも課金が出来るようになったとして、月に使う金額の上限を守っていただけるのであればわたしは問題ありませんよ」

「奥さんが財布の紐を握っておけば、家庭は円満」

「恋人通り越しちゃったか……」


 乃亜さんと咲夜さんが蒼汰と結婚する気満々なのが凄いのよね。

 まだ高校生でその決断をするのって中々出来ることじゃないわよ。

 しかもハーレム。

 蒼汰は微妙に認めていない感じだけど、あれは押し切られるタイプだから結局この3人は夫婦になるでしょうね。


 乃亜さんに会う前まではハーレムなんてって思ってたけど、乃亜さんの家族を見るとああいう家庭もありなのかなって思うわ。

 なんせハーレムが作れないくせに、浮気して自分の妻を捨てて逃げるようなくそ野郎も……忘れましょ。

 せっかくいい気分なのに、ゴミを思い出しても良いことなんてないわ。


 私は蒼汰達と別れて帰り道につく。


 久々に休日に友達と遊んだけれど、とても楽しかったわ。

 [獣人化(狐)]のスキルが身に着く前だと、いつもバイトを入れていたから遊ぶ暇なんてなかったし。

 そう思うと友人の桜には悪いと思うわね。

 うちの事情を知っているから無理に誘ったりしないし、私が相手できる時間を見計らって絡んでくるだけだから、1日ガッツリと遊んだことないのよね。


 お金に余裕が出来て来たし、このペースを維持できるなら弟達を大学まで学ばせてあげる事だって出来るだろうから、1日くらい遊びに誘ってみてもいいかもしれない。


 そんな事を思いながらマンションの部屋へと帰ると、弟の秋斗が洗濯物を畳んでいた。


「おかえりなさい、お姉ちゃん」

「ただいま、秋斗。悪いわね、洗濯物任せちゃって」

「ううん、気にしないで。いつもお姉ちゃんがご飯作ってくれるし、お金も稼いできてくれるんだからこのくらいするよ」

「ありがとね」


 私は正座をしている秋斗の頭撫でて感謝の意を示す。

 ところでうちにはもう1人妹がいたはずなのに、秋斗1人で家事をしているのはどう言う事だろうか。


 いや、なんとなく理由は分かっているんだけど……。


「ところで夏希は?」

「……あっちの部屋で寝てるよ」


 秋斗は苦笑いを浮かべていて、それを見た私はため息が出ていた。


「全く、秋斗にだけ任せるなんてしょうがない子ね」

「仕方ないよ。夏希はまだまだ子供なんだからさ」

「……夏希は秋斗と1歳しか年は違わないわよ」


 女性の方が精神的な成長が早いと聞くけれど、秋斗は同学年の女の子達よりも精神的に大人なんじゃないかと思う。

 私が秋斗くらいの年齢の時、このくらい物分かりが良かったかしら?


「家事を手伝ってくれる秋斗にはお菓子を選ぶ権利があるわ。どっちの味がいいかしら?」


 そう言いながら、私は蒼汰に貰ったチョコチップのクッキーといちごのビスケットをカバンから取り出した時だった。


「お菓子!」


 襖がスパンっと開け放たれて、斜め上に髪をまとめてポニーにしている夏希が現れた。

 お菓子に釣られて出てくるんじゃないわよ……。


「お姉ちゃん、わたしこっちのいちごの方がいい!」

「何図々しいこと言ってるのよ。家事を手伝ってくれた秋斗が優先に決まってるでしょ」

「え~」

「え~、じゃないわよ全く」

「お姉ちゃん、ぼくはチョコの方がいいから夏希にはいちごの方を上げてあげてよ」

「ホントにそっちでいいの? 我慢してない?」

「うん」


 聞き分けが良すぎる……。

 いや、チョコの方が本当に好きなのかもしれないけど。


「わーい! あ、お兄ちゃん、チョコの方もちょっとちょうだい」

「夏希がいちごの方を分けてくれるならいいよ」

「え~お兄ちゃんなんだから、可愛い妹にお菓子の1つや2つ恵んでもバチは当たらないと思うんだけどな~」

「しょうがないな」

「はぁ、いい加減にしなさいよ」


 どうして弟と妹でここまで性格が違うのかしら。


「夏希、あんた家事もロクに手伝わないくせにお菓子まで秋斗から強請る気……?」


 ビクッと夏希は肩を震わせると、下手な笑顔でこちらを見てきた。


「や、やだなお姉ちゃん。もちろん仲良く分けるつもりだった、よ?」

「調子が良いこと言って。次、秋斗ばかりに要求を押し付けたらどうなるか……分かってるわよね?」


 そう言うと夏希は私を見ないで、タックルするかのように頭から秋斗に向かって飛びついた。


「お兄ちゃん、今度は洗濯もの一緒に畳むからね!」

「うん、その時はお願い」


 飛びついて来た夏希を易々と受け止めた秋斗は、そのまま夏希の頭を優しく撫でていた。

 秋斗は夏希に甘いわね。


 今後はもっと厳しく夏希に接するべきかしら?

 そう思いながら、私は弟妹達を眺めていた


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