第29話 第三の試練〝月の問答〟(5)

 

『第三問、貴様は獣少女と夜のフレンズになりたいか?』

「……なりたいです」

『第四問、貴様はバニーガール姿の先輩の夢を見たいか?』

「……はい」

『第五問、貴様はEDか?』

「違います」

『第六問、貴様は初めての希望体位はあるか?』

「特にないよ」

『第七問、貴様は巨乳好きか?』

「特別好きという訳ではないね。強いて言うなら好きな女性の胸が好きなんだろうけど」

『第八問、貴様はコスプレエッチに興味あるか?』

「……ないとは言わない」

『第九問、貴様はムッツリスケベか?』

「……否定はしない」

『第十問、貴様は全裸より半脱ぎ派であるか?』

「いい加減にしてよ! どう考えても質問の内容が変な方に偏りすぎでしょ!?」


 エロ方面の質問しかしないつもりなのか、この大仏!!


『ん、どうした? 答えないのか?』


 お前は難聴系主人公か!?


「くっ、半脱ぎで!」


 なんで試練で僕の性癖をカミングアウトし続けなければいけないんだ!


 身体が重くなっていくよりも、性欲が高まっていくよりも、質問の内容そのものが辛すぎる。

 もう、ギブアップしてはダメですか?


「「「はぁはぁはぁ」」」


 後ろから聞こえるのは荒い息だけでまともな言語が何一つ聞こえないのだけど、性欲が高まるのは回答者である僕だけのはずなのに、乃亜達はさっきよりも発情してないかな?


『第十一問、貴様はお兄ちゃんと呼ばれてみたいか?』

「……興味はある」

「「「お兄ちゃぁん……」」」


 頭がおかしくなりそうだ。

 この試練、実は精神攻撃に耐える試練なのだろうかと疑うよ。


『ふっ、中々耐えるじゃないか。性欲が高まっているはずなのに、まだまだ平気そうだな』


 上から目線で偉そうに……!


「やかましいわ」

『ぐほっ!』

「は?」


 暴力行為の禁則事項がないとか頭になくて、つい衝動的に目の前にいる大仏を平手打ちしたら、思いの外吹っ飛んでビックリしてしまった。


 おかしくない?

 僕の力はこんなにも強くないはずなのに、僕より2倍は大きい大仏が吹き飛んだんだけど。


『何をする貴様! 今の貴様はが大きくなっているんだから、暴力は止めよ!』

「存在が大きく?」

『ぬっ、しまっ!? い、今のは忘れよ!』


 試練の内容は簡潔に言えば、正直に答えれば身体が重くなり、嘘を答えれば身体が軽くなるもの――だと思っていたのだけど……。

 看板にも身体が重くなったり軽くなったりするって書いてあったけれど、何かが影響を及ぼした結果体重が変動しているってことか?


『こらこら、何を呆けておる。次の回答者を選ぶがよい』

「あ、ちょっと待って」

『ぬおおおお! 貴様は深い事を考えずに我の質問に答えていればよいのだ!』


 焦っている大仏を見ると溜飲が下がるなあ。


 それはともかく何かが影響を及ぼしたってのは、大仏が言っていた“存在”の事なのは間違いない。

 つまり正直に言えば存在が大きくなり、嘘を言えば存在が小さくなる……。


 なんか大きくなったり小さくなったりするような話はいくつかあった気がするな。


『くっ、早く回答者を決めねば棄権とみなすぞ!』

「アンッアンッ!」

「まだいたのか」


 大仏の横で早く回答者を選べと言わんばかりに飛び跳ねている、罰を与える時にたびたび姿を現すアンを見て、ふと今までの試練が頭によぎった。


 第一の試練では3つの花を採取。

 第二の試練では迷路からの脱出。


 アンの姿を見ていると第二の試練の印象が強く、そちらに意識が逸れた時、ふとある物語を思い出した。


「“三枚のお札”?」

『ぐぅっ!?』

「あ、正解っぽい」


 第二の試練で3つの花を使ってアンから逃げているのが頭によぎった時、今の状況からそれが推察できたけど、どうやら仏の様子から見ても正解のようだ。


 “三枚のお札”って、和尚さんが小僧にお札を3枚渡して、山姥が出たらこれを使って逃げろって言ってくるのだったけ。

 最後に和尚と術比べをして、山姥が山ほど大きくなった後、豆みたいに小さくなって食われるやつ。


『ふっ、分かったからなんだと言うのだ。今までもごくわずかにその思考に辿り着いたものはいたが、結局途中でリタイアしていったぞ』


 今の立場だと僕らが山姥役なのか。


 第二の試練だとアンが山姥役だったのに、いつの間にか配役が変わっているのが謎だ。

 いや、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】は物語を題材とした固有の能力を発揮してくる敵だけど、そもそも【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】らしきものと今まで遭遇していない。


 エバノラは【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】であることは否定していたし、どちらかと言えばこの試練は“三枚のお札”の要素を盛り込んだだけのもの、という印象だ。


『ふん、その通りだ。これまでの試練は物語をベースに生み出されたもので、そもそも主の言っていた通り、ここに貴様の考えている【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】などというのは存在しないのだからな』

「教えてくれるんだ」

『そこまでバレてしまった以上、話した方が試練の進行が早いだろうしな。

 そもそも本来は【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】ではなく【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】と呼ばれるもので――』

『そこまでよ』


 大仏がこの試練そのものや、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】について教えてくれそうだったところで、エバノラが突然大仏の前に現れて話を遮ってしまった。


『何余計な事を話しているの。あなたは試練を淡々と進行させなさい』

『ですが主よ。やはり我は我慢できません! どうして主達が――』

『いいの。それに今の子達には、昔あんな事があったから今はそんな事をしないようにしよう、程度の認識でいてほしいの。あんな事をあまり深く知ってほしくはないわ』


 なにやら深い事情がありそうなんだけど、試練途中の僕は一体どうすればいいんだろうか?

 ……とりあえず今の内にどうすればこの試練を突破できるか考えておこう。

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