第30話 第三の試練〝月の問答〟(6)

 

 さて、この試練の突破方法だけど……さっきカッとなって殴った時にようやく気が付いたけど、よくよく考えたら今回の試練では禁則事項が存在しないな。

 ということは、この試練は正直に問いに答え続けて“存在”を大きくして大仏をしばき倒せば試練突破にならないかな?


『おい、こっちが主と話している間に何を物騒な考えをしている。禁則事項はあくまで試練を受ける人間同士が争ったりしないためのもので、仮に貴様が我を粉々にしたとしても我はすぐに復活するだけだぞ』

「しかし試してみないことには確証が……」

『その子の言っていることは本当よ~。まあでも、無駄になるけど1回くらいだったら砕いても構わないわ』

『あ、主!?』


 エバノラがそう言うってことは本当に無駄になりそうだな。

 でもさっきまでの恨みも込めて――


「ていっ!」

『ぶほっ! こ、こやつ、本当にやりよった!?』

「10回も殴れば砕けれないかな?」

『た、助けてくれ主よ!』


 まあこれ以上殴っても本当に無駄そうだし、本気で砕きにいく気はないけれど。

 そもそもこれが“三枚のお札”をモチーフにしているのであれば、おそらく試練のクリア方法はストーリーに沿って行動することのはず。


 そうなると僕は身体が動けなくなるまで限界まで正直に答えた後、身体が浮くんじゃないかと思うほど嘘を答え続ける必要があるのだと思うのだけど……。


 それはともかくとして、この試練考えたやつ、というかエバノラは馬鹿なんじゃないかと思うよ。


 “三枚のお札”をモチーフにしてることを踏まえ、第一の試練がお札の代わりにお花を3枚手に入れる事で、第二の試練が山姥が追いかけてくる代わりに二足歩行の花が追いかけてくるとか、これで“三枚のお札”を想像するのはまず無理でしょ。

 しかも無駄に発情させてくるから、そのせいで余計に何がモチーフなのか予想できないし。


 僕はたまたま大仏が失言してくれたお陰でギリギリ分かったけど、第三の試練が“三枚のお札”をモチーフにしていることに気付かなければ達成条件を予想できない時点で、試練をクリアさせる気がないとしか思えないよ。


『……主は昔から試練を作るのが下手だったのだ』

『ぶち壊されたいのかしら?』

『ひっ!?』


 この分かりにくい試練を今まで何とかクリアできていたのは、発情することによるヒントがあったからなんだけど、この第三の試練ではそれらしきものがない。

 ヒントがあるのなら乃亜達が気づいていてもおかしくないのだけど、乃亜達はヒントがあったなんて言わなかったし、もしかして今回はヒント無しなの?

 まだ乃亜達ほど発情していないから何とも言えないけど、ヒント無しだとどれだけ正直に答え続ければいいかが分からないな。


『お、おい貴様。早く試練の続きをやるぞ! 試練中であれば主は手出しできないからな!』

『だったら試練が終わった後にボコボコにするだけじゃない』

『に、逃げられぬか……』


 もうちょっとコントをやってて欲しかったんだけどな。

 これ以上発情すればおそらくまともに頭が回らなくなるだろうから、それまでに考えられるだけ考えておきたかったのに。


『油断も隙もないやつめ。だがこれ以上貴様に時間などくれてやるものか。あと10秒以内に次の回答者を決めねば試練は失敗になるぞ』

「あとでエバノラに骨の髄まで砕かれればいいのに。僕が回答する」

『くっ、嫌な事を言うでないわ! では第十二問――』


 それから僕は大仏に試練と称したセクハラを受け続けた。

 酷い質問ばかりで辟易してくる――なんてことを感じる余裕なんてなかった。


「はぁはぁはぁはぁ」

『ふっ、さすがの貴様も23問目まできたら発情が最大にまで膨れ上がったようだな。辛かろう辛かろう、フハハハハハ!』


 愉快に笑う大仏に返答する余裕はなく、うずくまって後ろにいる乃亜達を見ない様にして耐えるしかなかった。


 い、今乃亜達の方を見たら、間違いなく発情しきってるせいで何をしでかすか自分でも分からない……。

 身体が重くて動けないのだけが幸いだ。


『愉悦、ユエツ、UA2! 貴様の苦しむ姿が楽しくて仕方がないぞ。第二十四問、3人も恋人がいるくせに、なぜ性欲を頑なに抑えようとするのだ?』

「好きだから、ずっと一緒にいたいから今は手を出さないんだ!」


 朦朧とした頭では深い事は何も考えられず、反射的に常日頃から思っていたそれを口にしていた。


『そろそろ身体も限界だろうにまた正直に回答したな。それにしても今の回答、少し興味が湧いたな。掘り下げてみるか』


 頭が朦朧とする。

 次でおそらく、限界か。


『第二十五問、先ほどの回答を固辞する理由は?』

「……僕の両親は、離婚した。

 離婚するくらいなら何で結婚したのか母さんに聞いたら、僕が、理由だった」

『ほう、できちゃった婚か』

「子供ができるような関係だったんだから、お互いに好きだったのは間違いないんだ。

 だけど結婚した理由に一生を共にしたい気持ちだけじゃなくて、子供がからというのもあったんだと思う。

 それってつまり、仕方がなかったという言い訳もあったんじゃないか?

 しょうがないから結婚して、相手に我慢できなくなったから離婚する。

 僕は、そんな結婚は嫌だ。

 結婚するならその相手とは生涯ずっと一緒に生きていきたいと、そう思うから……。うぐっ!?」


 あ、もう……無理だ。


 自分の中を駆け巡る熱が限界に達し、大仏の光沢にすら妙な気分になりかけた時、文字が見えた。

 大仏の身体に浮かぶ“+25→-25”の文字が。

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