第31話 第三の試練〝月の問答〟(7)

 

「……+25、-25?」

『こやつ嘘だろ? 我の今のこの身体に欲情しおったぞ!?』


 どうやら発情によるヒントはあったらしい。

 今は大仏の身体には何も文字は浮かんでいないけれど、あの一瞬確かに見えた……ぐっ。


 だ、ダメだ。せっかくヒントが見えたのにそれが何か考える事もできない……。


『ふっ、まで来たが、残念ながらここで終わりの様だな。さて次の回答者を選べ』


 答えないといけない。

 だけどもう、むり……。


「はぁはぁ、私が行くわ」

『ぬっ!? 最初に脱落した狐っ娘か』

「ごめん、蒼汰ばかりに任せちゃって。でもお陰で少しマシになったわ。できるだけ頑張るからしばらく休んでいて。

 ……蒼汰、あなたの気持ち、とっても嬉しかったわ。

 あなたがそこまで想ってくれてたんだもの。私だって耐えてみせる!」


 冬乃……。


『よかろう。だが一度発情に倒れた貴様が長く耐えられると思うなよ』

「はぁはぁ、私だけじゃないわよ」

『なに?』

「ふっ、ふふ。先輩がそんなにも真剣に考えてくださっていたなんて……。もうこんなの、結婚するしかないじゃないですか!!」

「嬉しい。咲夜も蒼汰君のために頑張る!」


 乃亜、咲夜……。


『こ、こやつら、この男の回答でテンション爆上がりで発情が吹き飛んでおる!?』


 よく分からないけど、しばらく……お願い。

 僕は頭が回らなすぎて会話をほとんど理解できなかったけど、しばらく乃亜達が時間を稼いでくれることだけは分かった。


 少しでも身体を巡る熱が霧散するように、ジッとその場でうずくまり続けた。


 ◆


 僕の頭が冷静になってきて、〝+25→-25〟の意味が何なのか考えられるほど落ち着いてきた時、伏せていた頭を起こしたら――


「「「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」」」


 目の前が色々大変な事になっていた。


『まるで肉食獣に囲われたエサそのものだな』

「もう食われるばかりの肉扱い!?」


 生きてすらいない生肉扱いは酷いと思うよ。


『ちっ、ギリギリで復活しよったか。女どもが正直に答え続けて自ら身動きできなくしたのが幸いしたな。お陰で貴様は襲われなかったわけだ』

「腕が三方向から伸びてきていて怖いんですが、何とかなりません?」


 これ、ちょっとでも触れたらそのまま捕まって引きずり込まれるやつでは?


『知るか。それよりも次の回答者だが……、貴様、もう分かっているな?』

「この試練の達成条件なら何となく」


 難しい話ではなく、“三枚のお札”の話の最後が山姥が大きくなった後、小さくなるのだから、〝+25→-25〟は25回正直に回答し続けた後、50回嘘を言い続ける――と思ったのだけど、頭がぼんやりしていた状態でも先ほどこの大仏は確かに『折り返し』と言っていたのを覚えている。


 つまりこの試練、25回正直に答えたら25回嘘を言い続ければいいと言う事になるんだけど……それなら普通〝+25→0〟になるような……?


『ふっ。ヒントが見えた者でかつ25回まで正直に回答できた者に限り伝えてもいいことになっているが、20回分正直に回答した者は、それ以降嘘を言った場合マイナスされる数値が実は倍となるのだ』


 途中まで正直に答え続けて、中途半端なところで嘘をついたらより試練が厳しくなるシステムか。

 それにしてもわざわざ教えてくれるんだ。


『どうせここから先は嘘の回答しかしないのだからな。

 ちなみに貴様は〝+25→-25〟しか見ていなかったようだが、他にも〝1000〟や〝-50→+25〟もあった』


 〝1000〟だと1000回回答するってことかな? それを見ていたら間違いなくもう無理だと判断して諦めていただろうな……。

 それにしても達成条件をこんなにベラベラと話して良かったんだろうか?


『問題ない。貴様は達成条件を知った上に、今から他の達成条件に切り替える方が困難なのだからな。それに25回の回答で性欲の限界がきた貴様では、残り25問を罰ありで性欲に耐えながら答え続けるなどできるとは思わんよ』


 確かに厳しいかもしれない。

 今は乃亜達が時間を稼いでくれたお陰でだいぶ性欲が治まっているけれど、素面の状態で25回で限界だったのに、まだ性欲がくすぶっている状態で誰の手助けもなく今から25回回答するのは無理だと普通なら思うだろう。

 だけど――


「ゴールが分かってるなら、耐えられるさ」

『やせ我慢もそこまでいくと見事だな。ならばよかろう。最後の試練、耐え抜いて見せよ!』


 大仏が嘘をついた場合、どんな罰が与えられるのかが書かれた看板を地面へと突き刺してきた。


 《嘘をついた者には以下の天罰が下る》

 ・ケツバット


 おや?


「さっきまでのセクハラみたいな罰じゃないんだ」

『……ふん! 先ほどの貴様の回答を聞いた後で、そんな罰を与えられるものか』


 ツンデレかな?


『違う!!』


 だけど助かった。

 もしも性的な罰がきていたらどうなっていたか。


「「「はぁはぁ」」」


 仮に罰がディープキスだったとしても、その1回で次の回答ができなくなるところだった気がするよ。


『ではいくぞ。貴様への第二十六問――』


 その後、僕は全ての回答で嘘をつき続けた。

 幸いだったのが罰のほとんどが体罰系であり、痛みのおかげで性欲はある程度抑えられていた。


 問題だったのが体が軽くなっていくことにより、身動きが取れる様になってしまったことか。


「はぁはぁ、ゴクッ」

『すでに40問目だ。あと少しで試練を達成できるが、少し踏み出すだけで届いてしまう目の前の欲望をどれだけ我慢できる?』


 手を伸ばせば届いてしまう乃亜達の姿に思わず喉が鳴ってしまっていた。


 ダメだ! 落ち着け。落ち着くんだ。

 性欲を意識せず、絶望と怒りにまみれたガチャの記憶を回想しろ!


『狂っとるな』


 身体の痛みで足りないなら、心の痛みで耐えるんだ!


 僕がどれだけガチャで敗走していると思っている。

 痛み爆死の引き出しが容易く尽きると思うなよ。

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