第8話 <魔素親和症候群>

 

 <魔素親和症候群>


 それは空気中に漂う魔素と呼ばれる魔力の元となる物質と非常に親和性がよい体質の者のこと。


 普通の人間であれば空気中に魔素が漂っていたところで何の影響も受けず、スキル持ちなら漂う魔素をレベルに応じて吸収し身体能力を向上させる程度。


 だけど魔素親和症候群に罹った者はこの魔素をレベルに関係なく吸収し、怪物じみた力を発揮できるようになってしまうらしい。


 その症候群は1000万人に1人の確率でしか発症しないうえに、四月一日先輩は幼少期から小学校まではそれ専用の施設で育ったために、同年代はおろか、人とまともに会話したことがないらしい。


「しかし、大樹。どこからそんな話を聞いてくるんだ。はっ、まさかお前……」

「違うからな!? 普通に生活してりゃ、周囲がそういう噂話をするから耳に入ってくるだけだから」


 どこでそんな噂を聞いてくるんだろうか?

 しかし、強い力を発揮するのであればダンジョン探索には有利そうだ。


「勧誘しなかったの?」

「あん?」

「魔素親和症候群ってのはよく分からないけど、要するに凄い力で動けるんならダンジョン探索にも役立ってくれそうじゃん。だから勧誘とかしなかったのかな、って思って」

「ああそう言う事か。勧誘はしてねえな。オレは中学の頃に志を同じくする連中とダンジョンに行くことを決めてたからな」

「そうなんだ。まあそれだけ凄そうな人なら、勧誘しようとした時にはすでに誰かとパーティーを組んでそうだけど」

「いや、今は四月一日先輩とパーティーを組んでダンジョンに行ってる奴はいないみてえだぞ」

「へっ、なんで? 強いんでしょ?」


 どれだけ強いかは謎だけど、昨日のあの動きを見る限りでは〔ゴブリンのダンジョン〕程度ならものともしなさそうだけど。


んだとよ」

「それの何が問題だと?」

「聞いた話によると、一緒にダンジョンに潜ったやつが、レベルが違いすぎて足を引っ張るから一緒には組めないと言って逃げ出したらしい」

「どれだけ強いんだ……」

「さあな? ただそれ以降1度も他の人間とパーティーを組んでないらしいから、よっぽど戦闘力に差があるんじゃないか?」

「それだけ強いなら他の人に勧誘されそうなものだけど」

「どうだろうな。

 同レベルだと実力差がありすぎてさっき言ったみたいに逃げられるし、強いやつはレベルが高いからレベルの低い四月一日先輩と組むのは遠慮するだろうし。

 それに何より、上手くコミュニケーションが取れない人間とダンジョンに行くのは危険だろ」


 なるほどなー。

 ところで、なんで僕はそんな人に観察? 監視? されてるんでしょうかね?


「でも強いのなら一度勧誘してみるのもありかな」

「あん!? てめえ、エロい後輩ちゃんに狐っ娘がすでにいるのに、さらにコミュ障先輩までパーティーに加える気か!? その空いてる一枠、是非ともオレを入れてダンジョンに……だった?」


 ヒートアップしていた大樹が途中でピタリと止まって、首を傾げる。


「だった、ってことは今は勧誘する気はねえのか?」

「昨日のことがなかったら勧誘もありだったかもしれないけどねー」

「ん? 何があったんだい?」

「唐突に会話に入ってきたな彰人」

「なんだか面白そうな話になりそうだったからね」


 そう言えば彰人には、乃亜に僕の住所を教えた件を問い詰めてなかったな。

 しかし、今ここでそれを言えば大樹が間違いなくウザがらみをしてくるから聞くことが出来ない。

 まあ被害があった訳でもないし、黙っていることにするかな。


「それで昨日は何があったんだい?」


 彰人に促されて、僕は昨日の出来事を簡潔に語った。


「どうして襲われたんだ?」

「それは僕が聞きたい」

「……っ、……っ!」


 襲われなければダンジョンで全裸を晒さなくても済んだはずだからね。


「おい、いつまで笑いをこらえてるんだ彰人」

「ぷっ、くくっ、いや、だってダンジョンで……ぷぷっ!」


 彰人は笑いをこらえるためか、口に手を当てて必死に耐えようとしているけど、まるで耐えれてないからね?


「別に笑われるのはいいけど、ホント大変な目に遭ったんだからね」

「いや、くくっ、それは、分かってるんだけど」

「蒼汰のスキルがなかったら、ダンジョンから出るのも一苦労だったろうな」

「〔マジックポーチ〕で局部を必死に隠しながら脱出することになったかもね」

「ぶはっ!」


 彰人が耐え切れずについには噴き出していた。


 これ、笑いごとで済んでるけど、[フレンドガチャ]なかったらしばらく家で引きこもっていたかもしれないくらいの精神的ダメージを負ってたよ、きっと。


「まあ蒼汰の全裸はともかく――」


 男の裸に価値がないのは同感。


「そんな目に遭った後じゃ、勧誘なんてしねえわな」

「まあね。今のままでも十分やっていけてるから無理に勧誘はしないけど」


 白波さんがパーティーに加わったことで〔ゴブリンのダンジョン〕を余裕で周回出来ているので、後一枠埋めてより上のランクのダンジョンに行けるようになれば、さらにレベル上げの効率が上がるんだけどね。


 ちょうどいい人材がいればいいのだけど、僕らぐらいの年齢だと冒険者になってる人は少ないし、大抵決まったパーティーがあるので勧誘できる人はいない。

 しばらくは3人でダンジョンに潜るしかないかなー。

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