第9話 試験案内

 

 放課後〔ゴブリンのダンジョン〕に来て、ボス部屋をもはや作業のように周回して魔石の回収を終えた僕らは受付で魔石の売却を行ったけれど、その日はいつもと違った。


「鹿島様、高宮様、白波様は“迷宮氾濫デスパレード”への参加挑戦権がございますが、挑戦なされますか?」

「“迷宮氾濫デスパレード”って、毎年京都市で起きてるやつですよね?」

「はい、そうですね。御三方は【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】討伐経験者のため、挑戦権を得られておりますが、もしも挑戦されるようであれば今週の日曜日に試験がありますので、こちらに記載してある試験場へとお越しください」


 受付の人に〖“迷宮氾濫デスパレード”参加試験のご案内〗と書かれた紙を手渡されたので、それを受け取り僕らは受付を離れた。


「“迷宮氾濫デスパレード”って毎年テレビで風物詩みたいな扱いされてるあれよね?」

「毎年来る台風みたいな感じなあれですね」

「テレビで見てた時はどこか他人事のように感じてたけど、実際に参加するとなるとそんな悠長なこと言ってられないよね」


 僕らはそれぞれ手元の紙に視線を落としていると、乃亜が顔を上げて尋ねて来た。


「どうしましょう、先輩方。これ参加しますか?」

「そうだね……」


 どうしようか悩んでいると、視界の隅で何やら白い物がチラチラと動いているのが見えた。白波さんの尻尾だった。

 白波さんは表情に出さないよう努めていたけど、尻尾が激しく揺れて興奮しているようだ。


「私は出来れば参加したいわ。参加するだけでも報酬50万に、倒した魔物から得た戦利品は各自の物になるのだもの。正直、かなり美味しい話だわ」


 冷静な口調で言うけど、尻尾が異常なまでにその感情を表していた。


「これ、個人個人では参加できないみたいなので、参加する場合はわたし達3人1組での参加になるみたいですね」

「【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を討伐したパーティーで1セットってことね」

「そうなると参加するなら全員の合意がいるのか。白波さんは参加したいんだよね?」

「ええ、もちろんよ。さっきも言った通り報酬がいいしね」

「乃亜は?」


 僕が乃亜に話を振ると、乃亜は顎に手を当てて考える仕草をする。


「わたしは……先輩次第ですかね」

「僕? なんで?」

「先輩が参加したいなら参加しますし、辞退するならわたしもそうします。

 理由としましては、わたしがダンジョンに潜るのは、デメリットスキルを少しでも緩和させるためにレベルを上げることを目的としています。

 今回の迷宮氾濫デスパレードでは沢山魔物を倒す機会が多く、レベル上げもはかどりそうですが、先日出くわした【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に占拠されたダンジョンから出てくる魔物であることを考えると危険は高そうです。

 滅多にないそうですが迷宮氾濫デスパレードで【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が時たま出てくるらしいですし、レベル上げならこの近辺のダンジョンで自分に合った場所に行けばいいので、そこまで無理する必要もないんじゃないかと思うわけでして」

「確かにね。移動とかの時間も考えると、この近辺のダンジョンで魔物を狩る方がむしろ効率がいいかもしれないし」

「ですね。ただ迷宮氾濫デスパレードでどれくらい魔物を狩れるか実際に参加してみないことには分かりませんし、報酬は断然参加する方がいいので、賛成でも反対でもないと言ったところでしょうか」

「なるほど。乃亜の考えは分かったよ」


 つまりは僕次第だと言う事だけど、どうしようか。


「鹿島……」


 白波さんが不安げな表情をしており、狐耳と尻尾が若干垂れ下がっていた。


 もしも本物の狐だったら思わずモフリたくなる見事な垂れ具合。

 やったらセクハラ案件なので出来ないけど。


「よし、参加しよう」

「鹿島……!」


 参加を表明すると白波さんの耳がピンッと立ち、尻尾は嬉し気に揺れていた。

 くっ、可愛いじゃないか。


 いや、決して狐っ娘の可愛さに負けたわけではないよ。


 “迷宮氾濫デスパレード”ってやばそうな名前だけど、参加するのは大勢の冒険者なのは毎年テレビで紹介されて知っているので、仮に【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】がダンジョンから出てきたとしても、問題はないだろうと判断した。

 レベル上げと金稼ぎがはかどるのであれば、参加しない手はないよね。


「まあ参加できるかは試験に合格しないといけないのですが。ところで試験ってどんなのなんでしょうね?」

「普通に考えたら戦闘力を測るんじゃない?」

「えっ、僕絶望的なんだけど」


 ここのFランクの〔ゴブリンのダンジョン〕でも、1人じゃボス部屋まで行けないよ、絶対。


「いや、さすがにそれは言い過ぎですよ。それにこの案内用紙から見るに個人個人ではなく、パーティーとしての能力を測るんじゃないですか? そうでなかったら3人1組での参加を指示してないでしょうし」

「そうよね。それに私達だって鹿島がいなかったら試験に合格できるか怪しいんだから、戦闘力なんて気にしないで、バッチリ支援してよね」

「そうだね。だけどスリングショットくらいはキチンと扱えるよう練習しとくよ。もしかしたら墨が役に立つかもしれないし」


 いや、役に立つんだろうか?

 まあ試験では使わなくても、いつかは使うから練習するのは無駄じゃないからいいけど。


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