第10話 来ちゃった
“
いつものように校門前で挨拶し、いつものように学校で勉強し、いつものようにダンジョンへと潜った。
……嘘だ。
いつものようにと連呼し続けたけど、先週とは違うことがあった。
常にどこからか視線を感じ、声をかけようとすると逃げてしまう先輩が付きまとっていることだ。
ぶっちゃけちょっと怖い。
ダンジョンで突然襲って来たかと思えば、次の日からずっと監視をし続けるとか意味が分からないよ。
しかも話しかけようとすると何故か逃げるし。
なんだか人見知りで気まぐれな猫でも相手をしているかのようだ。
――ピンポーン
精神的に若干疲れている原因を考えていたらチャイムが鳴った。
ああ、今日は土曜だし、先週みたいに乃亜が朝からやってきたのかな?
――ガチャ
「……おはよう」
「嘘だと言ってよ」
玄関を開けたら疲れの元凶がいて、思わず口からついて出た。
普通は叫ぶところで漫画みたいなノリで言葉が出る辺り、内心予感していたのかもしれない。
なんせ帰ってる途中でも視線は感じたしね!
って、ストーカーじゃん!?
もうしばらく続くなら警察に相談とか悠長な事考えてなきゃよかった。
え、でも、美少女にストーカーされてるって言って対応してくれるもん?
羨ま氏ね! とか言われない?!
僕なら自慢乙とか言ってるかも。
もう頭の中がパニクッて考えが無茶苦茶で、どうすればいいのか分からなかった。
内心、あわわわっと思っていると、突然目の前に何かを突き出され、とっさに後ろに下がった。
「……箱?」
箱は箱なんだけど綺麗に梱包された箱で、何と言うか贈答品を目の前に突き出されているように見える。
「ごめんなさい」
「………………………………ん?」
謝ってきた理由は襲撃の件だと分かる。
だけど、ごめんなさい、の一言だけでそこから黙ったまま、丁寧に両手で持った箱を突き出し、頭を下げた姿勢で固まっているのはどうなの?
これ、受け取らないと話が進まないのかな?
とりあえず恐る恐る受け取ると、
「………」
いや、なにか喋ろうよ。
「えっと、ダンジョンで襲って来たことの謝罪、ですよね?」
「そう」
こちらがボールを投げないと会話が続かないとか、キャッチボールじゃなくて壁当てかな?
「なんで襲って来たんですか?」
会話が続かないのはしょうがないとして、少なくともこれだけは聞きたかった。
納得できる理由がもしもあるなら――
「……友達が、欲しかった」
「はい? え、なんで友達が欲しくて襲ってきたんです?!」
全く理解できなかった。
「父が持ってた漫画に、殴り合うと友達になれるとあった」
「いつの時代の友情ですか」
そんなバイオレンスな友情を育んでいる人、聞いたことないよ。
「じゃ、じゃあ、ちなみになんで僕らを? 同学年の人と友達になろうと思わなかったんですか?」
同い年じゃなくて年下と友達になろうとしたのは何故?
「みんな、逃げる」
近づかないどころか逃げ出すんですね。
「一度、同じ学年のユニークスキル持ちとダンジョンに行って怖がられた。それから誰もが逃げるようになった」
そう言えば大樹もそんな事言ってたね。
まさか相手がユニークスキル持ちだと思わなかったけど、その人かその現場を見ていた人が言いふらして、怖がられてしまったんだろう。
「【
まさかの【
「でもまさか、あんな事になるなんて思わなかった。だから、ごめんなさい」
「理由は分かりましたけど、もう襲ったりしないんですね?」
「しない」
「ちなみにですけど、昨日までの5日間ずっと見てた理由って……」
「謝るタイミングを計ってた」
もっと早く声をかけてくれたら、こんなに気疲れしなくて済んだんだけどな……。
「じゃ」
言いたいことを言えたからか、
「さすがにあんな事があった後だから、一緒にダンジョンに行きましょうなんて言えないけどさ。
まあ月曜からは昨日までみたいに変に気疲れしなくて済みそうだから、良かったと言えば良かったのかな」
その後、ダンジョンに潜るために乃亜や白波さんと合流したら、2人のところにも
「何と言うか
「でもコミュニケーション能力が低いからって、漫画を鵜吞みにして襲うのはダメでしょ」
「恨み辛みで襲ってきたわけじゃないし、もう襲われる心配はないからいいけどね」
少なくとも、これで明日の試験に余計な気がかりを抱えて、挑まずに済んだのは良かった。
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