幕間 四月一日咲夜(1)
≪咲夜SIDE≫
親ですら咲夜と必要最低限しか接してこなかった。
咲夜の家は4人家族。
父、母、妹そして咲夜の4人。
父と母と妹は普通に会話したりしているけど、咲夜と話す時だけ事務的で必要最小限にしか接しないようにしている。
理由は明確だ。
お金の問題ではない。
どちらかと言えば普通の一般家庭より裕福だと思う。
実は養子とかそう言うことも無い。
もちろん、どちらかが浮気した結果、片方とは血がつながってないわけでもない。
父にも母にも妹にも何の問題もなく、咲夜の容姿が人一倍醜くて嫌悪されているとかそういったこともない。
そう、なんの問題もないはずなんだ。
咲夜の怪力を除いては。
幼い頃から人よりも力が強かった咲夜は、3歳ぐらいのころすでに成人男性並みの力を発揮していたらしい。
与えたおもちゃが、子供ではへこますことも出来ないはずなのに、へし曲げられ破壊されているのを見た両親に病院に連れて行かれた。
その結果とある症状を発症していることが分かった。
それは命に別状があるようなものではなく、人にうつしてしまうようなものでもない。
<魔素親和症候群>
ダンジョン外でも怪物じみた力を発揮できるようになるようだ。
1000万人に1人らしいけど全く嬉しくない。
魔素親和症候群を発症した者は、専用の施設で少なくとも小学校を卒業するくらいの年までは、周囲の子供たちを怪我させないように隔離される。
それに例外はないため、親元を離れて強制的にその施設に入れられた咲夜だけど、同年代の人はおろか咲夜と同じ症候群の人すらいなかった。
当然だ。
1000万人に1人と言うことは、今の日本の人口が1億ほどであることを考えると日本には10人ほどしかいないのだから同年代の人間なんているはずもない。
咲夜はその施設で様々な事を学んだ。
普通の勉強だけでなく、生き物がいかに脆いものであるかと倫理や道徳を徹底的に教わった。
時には、あえてストレスを与えられてどの程度で暴れだすかの実験すら行われた。
もはやモルモットの様な扱いだったけど、咲夜は特に反抗することもなくただ大人しく粛々と
一応月に1度は両親と面会する機会もあったけれど、月に1度しか会えないせいかどう接すればいいかも分からず、施設内でもまともに話す人がいないせいで上手く話すことが出来なかった。
人のせいにする訳じゃないけど、両親も咲夜の力に怯えているようで、必要以上に近寄られず距離を取られていたこともあって、会うたびにギクシャクしていった。
そんな両親との微妙な関係が、もはや修復不可能になる出来事があった。
妹が産まれてしまった。
両親はおそらく咲夜への関心が妹に完全に移ってしまったんだと思う。
結果として、月に1度の面会はまるで業務的な会話となり、両親と咲夜の仲は完全に冷めてしまった。
「元気か?」
「ご飯はちゃんと食べてるの?」
「勉強はついていけてる?」
1月ごとの面会で交わされる会話はこれの繰り返しだった。
定型文を読み上げるかのような同じ会話の繰り返しに虚しくなった。
妹を抱えて会いに来るようになってから、囚人のようなアクリル板ごしで会話しているのもあるかもしれない。
まるで咲夜と両親たちの間に見えない壁があるかのようだった。
こちら側には咲夜1人。
向こう側には父と母、そして母に抱かれる妹。
面会の時間は、咲夜の心がより冷えていくのを感じる時間だった。
施設の職員も咲夜の力を恐れているため、必要最低限でしか接していないのもあり、咲夜は教育の時以外誰とも殆ど話さないまま12歳になった。
そしてその年、両親の元へ帰る事を許可された。
ストレス耐性と道徳心が十分育ったと判断されてのことだった。
長ければ成人するまで施設に入り続けることになった事を考えると早いのだろうけど、どうせならずっと施設にいた方がマシだったと思う。
もはや覚えのない家へと帰った時、咲夜は自身の異物感を大きく感じた。
施設での両親との接し方が悪く、距離感が分からずまともに会話出来なくなっていたせいだ。
そもそも施設内では授業以外ではろくに人と会話する機会がなかったこともあり、咲夜は上手く人と話せなくなっていたせいもある。
一緒に暮らしているはずなのに、家族のはずなのに他人のような感覚が強かった。
歩み寄ろうと近づいてみてもビクリと怯えられた。
咲夜は人を傷つけたことなんて1度もないのに、そういう反応をされるのは傷ついた。
大人ですら咲夜の力に怯える程であれば、まだ小学校に上がったばかりの妹に不用意に近づくのは躊躇われた。
下手に触れれば壊してしまうかもと考えると、とてもじゃないけど近づけれなかった。
結果として幼い妹も近づこうともせず、ろくに話もしない咲夜に関わろうとしないのは必然だったと思う。
もっとも近しい家族ですらまともにコミュニケーションがとれないのだから、中学校に通ったところで親しい人間なんて作れるはずもなかった。
「
「魔素親和症候群って、ダンジョンに行ってる人達みたいな力を持ってるんでしょ? 怖いよね」
「四月一日って暗いし近寄りがてえよ」
陰でそう言われているのは知っていたけど、正直どうすればいいのか分からなかった。
集団生活を学ぶはずだった小学校の6年間が咲夜にはない。
家族との会話もほとんどない。
コミュニケーションのとり方が分からない。
人と接するにはどうすればいいんだろ?
心の中で疑問を抱えながら、まともに人と接することが出来なかった咲夜だけど、高校生になって16歳になってユニークスキルに目覚めた時、ふとある言葉を思い出した。
ダンジョンに行ってる人は咲夜と同じような力を持っているという事を。
咲夜が誰とも上手く接することが出来なかったのは、同じ土俵に立っていないから。
だったら同じような力を持つ人となら仲良くなれるのではないのだろうか?
そう思い立った咲夜は早速冒険者になろうと動いた。
幸いにも咲夜のユニークスキルの
人を癒す力があれば誰かに頼りにされる可能性も高く、ダンジョンに行っている人物であれば必要以上に咲夜を恐れないだろう。
しかしその見通しは甘かった。
ダンジョンなんて命の危険がある場所で、見ず知らずの人物に背中なんて預けられるわけもなく、なんとか接してみようにも上手くいかなかった。
唯一、一度だけ他の人とダンジョンに潜った時があったけど、その人達はすぐに離れてしまった。
ダンジョン講習の後、初心者同士で組んでダンジョンに行ってみることになったのだけど、咲夜の
「悪いけど四月一日さんとはレベルが違いすぎてついていけないから、一緒には組めないよ」
声を震わせており、少し怯えているのが分かった。
こんな風に恐れられては、一緒にダンジョンに行くなんて到底無理だろう。
「……そう」
たった1度だけのチャンスを不意にしてしまった咲夜は、ダンジョンですら1人になってしまった。
寂しい……。
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