幕間 四月一日咲夜(2)
ダンジョンにすら希望が持てなかったため、冒険者になったにも関わらずダンジョンの探索に全く行かずに、今まで通りの無機質な日々を過ごしていたある日、こんな噂を耳にした。
『【
……【
最初はそんな風に思った。
だって1年半くらい前に冒険者登録した時に受けた講習のことなんて、かなりうろ覚えになってしまっているのだから仕方ない。
ただうろ覚えながらも、【
そう思ったけど、どうやって接触しに行けばいいか分からない。
困った。
会いに行って仲間にして欲しいって言えばいいんだろうか?
いきなりそんな事言って仲間にしてくれるだろうか?
前みたいに恐れられたりしないだろうか?
そもそも人とどうやって喋ればいいんだろうか?
仲良くなりたいのにどうしたらいいか分からず困っていると、ふと本棚にあった父の漫画が目に入った。
かなり昔の漫画の再録本で、敵同士の男の人たちが戦い合うことで何故か友達になる話。
……なんで殴り合って友達になれるんだろうか?
意味が分からなかったけど、なるほどとも思った。
こうやって友達を作る方法もあるのかと。
やってみた。
◆
――パンッ!
「ぐはっ!」
◆
やってしまった……。
いくら人付き合いが皆無な咲夜でも、あれはないと分かる。
殴って全裸にしたあげく、キチンと謝らずに逃げてしまったのだから。
と言うか、せっかく[治癒術]のスキルを持ってるのだからスキルで癒せば良かったのに、気が動転して忘れていた。
……はぁ。どうすればいいだろうか?
友達云々の前にキチンと謝るべきではないだろうか?
……うん。
もう友達にはなれないだろうけど、少なくともそこはちゃんとしないといけない。
よし、謝りに行こう、と思った時、ふと思った。
どのタイミングで謝ればいいんだろう?
施設では悪いことをしたら謝る、と習ったけど、謝り方までは習っていない。
とりあえず真っ先に謝らなければいけないのは、咲夜が怪我をさせてしまった男の人だ。
いつも校門前で1人で挨拶をしている不思議な人。
なんであんなところで挨拶し続けているんだろうか?
疑問には思うけど、あの人が挨拶し始める前までは誰ともまともに挨拶をしてなかったので、久しぶりにまともに挨拶できたから、少し嬉しかったけど。
それはともかく、多分正面から近づいて行っても逃げられてしまうだろう。
バレないように後ろで覗いて、人が途切れたタイミングを見計らって声をかけてみようか。
あ、ダンジョンで男の人と一緒にいた女の子が現れた。
こっちを見ているような?
「あの……」
「っ!?」
逆に声をかけられてしまい、驚いて逃げてしまった。
ちゃんと隠れていたはずなのに、見つかってしまうなんて思わなかったから、凄いビックリした。
って、しまった。
せっかく声をかけられたんだから、そのまま謝れば良かったのに……。
こうなったらまたタイミングのいい時を狙うしかない。
しかし声をかけようにも、果たして今、声をかけてもいいんだろうか? と思ってしまい、中々踏ん切りがつけられず躊躇ってタイミングを逃すこと5日。
たまに見つかって声をかけられるけど、いきなりだと心の準備が出来てないせいで、つい逃げてしまう。
いけないいけない。
そんな考えだから5日も経ってるのに謝れないんだ。
よし、こうなったら直接家に行って謝ろう。
あ、そうだ。
ちゃんと謝るんだから、なにか買って行ったほうがいいかな?
お菓子なら貰っても困らないだろうし、箱に入ったクッキーを持っていこう。
菓子折りを持ち、家の前まで来て準備万端。
「……よし」
――ピンポーン
緊張で指が少し震えながら、咲夜はチャイムを押した。
――ガチャ
寝起きなのか寝ぐせがついていた。
とりあえず挨拶から。
「……おはよう」
「嘘だと言ってよ」
何がだろうか?
嘘だと言って欲しいことなんて咲夜は言ってない、はず。
無意識に何か口に出してしまったのだろうか?
いや、今はそんな事はどうでもいい。
ここで謝るタイミングを逃せば、いつ謝ればいいか分からなくなる。
咲夜は勢い任せに、持っていた菓子折りを突き出して頭を下げた。
その後、何とか受け取ってもらえ、キチンと謝ることも出来てホッとした。
謝罪の延長だけど色々会話できたのも良かった。
こんなにも人と喋ったのはかなり久しぶりだった。
だから帰る時、少し寂しかった。
あの場を離れるのが名残惜しくて、いつまでも話せたらと思ってしまったけど、謝りに来たのに長居するのは迷惑だから仕方ない。
気持ちを切り替えて、他の2人にも謝りに行こう。
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