第16話 私の赤ちゃんんんんんんんんん!!!!!!!!

 

「誰って聞いてるでしょ?」


 冬乃が突然現れた謎の男達を強く睨みつけながら、再度何者かを問いかけていた。


「はぁ、お前らのような奴らと会話する気などないのだがな」

「まあいいじゃないですか。分からないまま死ぬよりは絶望して死んでくれた方が気分がいいです」

「だったら門脇君がやりたまえ。私は会話すらしたくないのだ」

「分かりました」


 見た目は普通の冒険者の格好をしていて、にこやかな笑顔を見せながら門脇と呼ばれた男の人がこちらを見てくるけど、目は明らかに笑っておらず、むしろ憎いものでも見ているような目をしていた。


「とは言え、僕もあまり会話をしたいとは思わないので簡潔にいきましょうか。我々は“平穏の翼”に所属している、と言えばある程度察してくれますかね」

「“平穏の翼”……少し後ろ暗いところのある組織だとは聞いていましたが、噂は本当でしたか」

「おやおや。ご存じ頂けていたのであれば話は早いですね」

「ちょっと乃亜さん。何よ“平穏の翼”って?」

「“平穏の翼”はわたし達のようなユニークスキル持ちを隔離するべきだと、世間に訴えていている組織で――」


 乃亜の口から語られたのは、そんな組織があったのかと初めて聞いた組織についてだった。


 ユニークスキル持ちは低レベルであってもダンジョン外で、レベルアップで上がった身体能力やスキルの力を発揮できる。

 その力がダンジョン攻略のみに向けられているのであれば問題なかったのだろうけど、ユニークスキル持ちになった人間の中にはその力を使って犯罪を犯す者も現れた。

 それによる被害は通常の犯罪よりも悲惨なものが多く、被害者とその家族の心に深い傷を負わせてしまう。

 ユニークスキル持ちは危険だという思想と共に。


 その結果、被害を受けた者達がユニークスキル持ちは隔離するべきだと訴える団体が現れるようになった。

 それが“平穏の翼”。


 もっとも、ダンジョン外でスキルを行使できる人間が犯罪を犯した場合、その罪は通常よりも重くなるし、そもそもそれだけの力を持つのであればお金を十分に稼げるため、そういった人間の犯罪は少ない。

 そのため“平穏の翼”に所属する人間の数は多くとも、排除を試みようとする人間はかなり少ないらしい。


「その通りだよ。君たちのような害悪は滅ぼすべきだと訴えたところで、それに賛同するのは本当に被害にあった僕らの様な人間だけさ。中には被害に遭ったにも拘わらず、殺すのはダメだと言う人間もいるのだから度し難いよ」

「それはそうでしょう。自覚がないようだから言ってあげますけど、あなた達がしていることは正義面して自分のうっ憤を晴らしているだけです。

 あなた達がしていることは自分達を襲ったそのユニークスキル持ちと、なんら変わりありませんよ」

「なん……だと……! ふざけるな! 取り消せ! 僕らはお前らみたいな悪とは違う!!」

「悪だの正義だの、自分の物差しで勝手に決めてる人こそが身勝手で周囲を傷つける本当の悪ですよ」

「貴様っ……!」

「もう止めるんだ門脇君。君の気持ちは痛いほど分かるが、あれらと会話するなど無意味な事をした君が悪い。話の通じない相手に何を言っても無駄だよ」

「はい、中川さん……」


 門脇が中川と呼ぶおじさんに諭され、その荒ぶる感情を抑えられたようだけど、話が通じないのはどっちの方だと強く言いたいよ。今、おぎゃあしか言えないけど。


「あなた達の事はどうでもいい。それよりも蒼汰君を元に戻して」

「おぎゃあ(まさにそれ)」


 そう言いながら、咲夜が脱げ落ちてる服で僕を包んで抱き上げてくれた時だった。


「私の赤ちゃんんんんんんんんん!!!!!!!!」

「おぎゃ(ひえっ)!?」


 血走った目でこっちに向かって走ってくる女性、すげえ怖い!!

 手に持っていた鏡はいつの間にか無くなっており、両手をこちらにむけて走るその姿には狂気しか感じない。


「さ、させない!」


 そのあまりの様相に咲夜は体を一瞬ビクつかせて避けようとした時だった。


「あっ……」


 女性を避けようとしたはずの咲夜が、何故かあまり動けておらずその場を少し横にずれただけだった。

 理由は分からないけど、あまり動けなかった動揺と女性の狂気による一瞬の体の強張り。

 この2つが重なったことにより――


「うふふ。私の赤ちゃん……」

「おぎゃああああ!!」


 僕は狂気的な女性に捕まってしまった。


 だ、誰か助けてーーーー!!!


 女性は僕を咲夜から奪い取って、すぐさまその場を離れ男達の後ろへと隠れてしまった。

 咲夜もすぐさま奪い返そうと動こうとしていたけど、男達が牽制したせいで動けなかったようだ。


「ごめん、体が上手く動かなかった」

「ん? あれ? 私もなんだか調子がおかしい?」

「これ……先輩のスキルの効果が消えてます!?」


 咲夜があまり動けなかったのは、どうやら僕からのバフがいつの間にか無くなっていたことによる感覚のズレが動揺を生んでしまったようだ。


 僕が赤ん坊になってしまったことにより、スキルも解除されてしまったというのか。

 しかも赤ん坊になった時に〔絆の指輪〕も落としちゃったから、3人に指示することも出来ない。

 どうしよう……。


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