第17話 ばぶっ!?
「うふふ。うふふ……」
や、やばい。殺される……。
僕は恐怖で漏らしそうだった。
まさか僕の人生がこの狂気的な女性に抱かれながら殺されて終わるだなんて、今日家を出る時は想像すらしなかったよ。
「ふん、別に今すぐ片瀬君に殺されることはないさ」
「ばぶ(なに)?」
中川が僕に顔を近づけて、何故か小声で話しかけてきた。
「片瀬君は昔、自分の夫と息子をユニークスキル持ちに目の前で殺されている。そのショックからか男の赤ん坊を見ると、まるで自分の息子のように接する。
故に私達であっても君を殺そうとすれば、片瀬君が君を守るために私達と敵対することになるのだ」
それを聞いて少しホッとした。
どうやらこの女性、片瀬さんには僕を殺そうという意思はない上に、この2人からは守ってもらえるのであれば、むしろ安全だということに――
「
はい?
「君が片瀬君の息子と違う行動をとった場合、片瀬君は激情し、君をむごたらしく殺そうとするだろう」
「ばぶっ(マジで)!?」
「前にチャラそうな若者が片瀬君に捕まった時、ユニークスキルを使用して逃げようとしたために片瀬君の逆鱗に触れ、息子ではないと悟られた。その結果、刃物でめった刺しにされていたよ。死んだ後も容赦なくな」
や、ヤバすぎる人の腕の中に僕はいるようだ。
言わば僕は爆弾に抱えられているのと同じという事じゃないか!?
しかし、何故わざわざそんな事を教えてくれたのだろうか?
黙っていれば僕はうっかりスキルを使って殺されていただろうに。
「君はあの者達への牽制もかねて生かしておいた方がいいと判断した。無駄な抵抗はよして、大人しく人質をしているんだな」
なるほど。
だから乃亜達には聞こえない様、僕にだけコッソリ教えたのか。
くっ、〔絆の指輪〕があれば、乃亜達に僕の事は気にせず戦うよう伝えられたのに……!
「さて、あとは君たちだな」
「先輩を解放してください!」
「あいにく私達では片瀬君から赤ん坊を引き離すのは無理だな。もっとも、可能だったとしてもそんな事はしないが」
「だったら力づくで取り返すまでよ。[複尾]!」
冬乃が真っ先に飛び出して中川へと攻撃を仕掛ける。
僕からのバフが減った分、[複尾]で身体能力を上げてカバーするようだ。
「させる訳がないだろ。[双剣術][身体強化]」
中川が中国の剣のような曲刀を両手で1本ずつ持って、僕を遮るように間に入ってくる。
「どきなさい。[幻惑]」
「ちっ、[先読み]」
中川は冬乃から放たれる紫の煙を、まるでどこに来るのかが分かっているかのように不定形の煙を簡単に避けている。
「門脇」
「分かってます」
門脇はいつの間にか左手に槍を、右手に複数の手裏剣を指で挟んで持っていた。
「[投擲][誘導]」
「させません!」
門脇が手裏剣を冬乃に向けて放ったのを止めようと、乃亜がその射線の間に入った。
「無駄です」
しかし手裏剣は途中まで真っ直ぐ向かっていたのに、急に弧を描くように軌道を変化し、楯を構えていた乃亜を避けて冬乃へと向かう。
「しまっ!?」
「大丈夫」
乃亜が慌てて振り返ると、咲夜が投げられた手裏剣を受け止めていたのを見てホッとした表情をしていた。
「[狐火]」
「当たらんよ」
冬乃は投げられた手裏剣を完全に乃亜達に任せて、中川へと[狐火]を複数放つも[先読み]の効果か全く当たりそうにない。
だけど当たらない原因はおそらく[先読み]だけじゃない。
相手が
今まで人型の魔物と何度も戦ってきたし、この〔ラミアのダンジョン〕なんか上半身は完全に女性の魔物とも戦ったことはある。
なんならほぼ人間と言っていい、【
だけど人間ではない。
あくまで魔物で、ダンジョンから生まれた生物だ。
【
しかし今回の敵は完全に人間であり、まだ余裕のある現状で人間と殺し合うなど、忌避感が強くて本気で攻撃できないんじゃないだろうか。
最初に[幻惑]を使ったことからも、出来れば戦闘を回避して僕を奪還後すぐに離脱しようとする意志が見える。
だけどその[幻惑]が当たらず、射出速度の速い[狐火]に切り替えたけどその忌避感から当てづらいんじゃないだろうか?
乃亜と咲夜もあまり積極的に攻撃しようとしてないし、この状況は凄くヤバい。
圧倒的な力量差があれば、僕を奪還してすぐに逃げられるだろうけど……。
くっ、3人の援護をしたいけど、片瀬さんが僕を放してくれない。
かと言って下手にスキルを使えば、僕は殺されるだろう。
一体どうすればいいんだ。
僕はこの状況をなんとか打破できないかと思ったその時だった。
――パンッ!
「きゃっ!?」
「咲夜さん!?」
「咲夜先輩!?」
急に何かに弾かれるように吹き飛ぶ咲夜。
どこかで見た光景。というか、さっき見たばかりの光景だけど、このタイミングで魔物が襲ってくるなんて最悪なタイミングだ。
透明になるラミアが僕らを追って――
「やれやれ、やっと来たか」
なに?
「どう言う事よ!」
僕の疑問を代弁するかのように、冬乃が中川へと問いかけていた。
「別に大したことではないさ」
そう言いながら、姿を現したラミアへと中川が視線を向ける。
「あれは私のしもべだ」
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