第18話 ダンプリング

 

 突如現れた4体のラミアが乃亜達の退路を塞ぐように、僕や片瀬さんがいる場所とは乃亜達を挟んだ反対側でナイフを持って威嚇していた。

 すぐにその姿は消えて見えなくなってしまったけど、あえて姿を見せることで逃げづらくしたのか。


 冬乃は自身の背後を気にしつつ、先ほどまで対峙していた中川を睨みつけていた。


「魔物をテイムするスキルでも持ってるのかしら?」

「そんなスキルは生憎ないな。そもそもこのダンジョンにあんなラミアは存在しない。答えは単純明快だよ」


 中川は左手首を掲げてみせると、僕らがよく知る模様が描かれていた。


「っ、それ!?」

「私も君達と同じ、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】討伐者さ」

「あっ、それじゃあ先輩が赤ちゃんになったのは【典正装備】の力……」

「その通りだ。片瀬君の〔桃源鏡エンドレス デイリー〕だな。あの鏡は映した人型の生物を幼児化させる能力を持つ」

「何よその無茶苦茶な能力……!?」


 冬乃の言う通り、そんな力は強力すぎでしょ!

 人型限定とはいえ、赤ちゃんにされたら大抵の生物は勝ち目なんてないよ。


「もっとも使用者のレベルより100以下の生物にしか効果はないし、対象も1人だけだがな」


 レベル100も差があれば、わざわざ赤ちゃんにする必要はないことを考えると妥当なんだろうか?

 いや、レベル差はスキルで埋めれるだろうから、戦闘手段を奪う力は十分反則だよ。

 僕は元から大して戦闘力はないけど。


「それじゃあ、あのラミア達はあんたの【典正装備】ね」


 よく見ると門脇の方は、左手首に【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】討伐の証はなかったし、先ほど自分でラミアをしもべと言っていたので、中川の持つ【典正装備】の効果で従えているんだろう。


「〔御供スリー オは人ブ ミレッに非ずト ダンプリングス〕。能力は魔物の従属と強化だ」

「能力まで喋ってくれるなんて、随分と親切じゃない」

「言ったところで対策などだろ?」


 すでに使われた後で、強化済みの相手に対策なんてしようがない。

 でももしも装備するタイプなら、それを外せばあのラミア達は中川に従わないはずなんだけど、もう見えなくなってて、どこにいるかすら分からないよ……。


「くっ、私がラミア達を防ぐから、乃亜さん達がこいつらの相手をお願い! ラミア達の装備をひっぺ剝がして従属化を解いてみるわ!」

「何を言っているんだ貴様は?」

「何ですって?」

「言わなかったか? ダンプリングと」


 いや、分からないから。英語はあまり得意じゃないんだよ。

 一体どういう意味なんだ?


 僕が分からずに唸っていたら、おーよしよし、って体を揺らされてあやされた。

 いや、機嫌が悪いわけじゃないから。


 一体何なんだ、と顔をしかめていると、咲夜がボソリと答えた。


「ダンプリング……団子?」

「ほう、正解だよ」


 まさかの食べ物!?

【典正装備】なんでもありだな。


「私の【典正装備】はきびだんごだ。片瀬君と共に、【桃太郎】の【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を討伐した時に手に入れた【典正装備】だよ」


 きびだんごじゃ、魔物から【典正装備】を外して能力を無効にする、なんてことも出来ない。

 最悪な状況だ。


 僕と片瀬さんとのレベル差が100以上あることを考えると、そこの2人もそれに近いレベルがあると見ていい。

 片瀬さんは僕をあやすことに夢中のようなので問題ないけど、あの2に加え、4体の強化されたラミアも相手にしないといけないなんて……。

 そんな状況で僕の援護なしに3人で乗り切るのはハッキリ言って不可能だろう。


 マズイ。マズ過ぎる……!


「中川さん。会話する気ないってさっき言ってたのに、滅茶苦茶喋ってるじゃないですか」

「おっと、すまない。いや、君の気持ちがよく分かったよ。ユニーク持ちを絶望させるのは思いのほか気分がいいものだな」


 向こうはかなり余裕な表情をしていて、先ほどまでの戦闘はどう見てもラミア達が来るまでの時間稼ぎで、手を抜いていたんじゃないかと思われる。


 僕のスキルで3人を強化すれば、この状況でも戦えると思うけど、片瀬さんにスキルを使っているところを見られたら僕は殺される。

 くっ、何とかしてスキルを使えないだろうか。


 そう思いながら視線を片瀬さんの方へと向けると、


「うふふ、うふふ。私の赤ちゃん……」


 ひえっ。

 周りの状況など気にせず、ただ一点、僕だけを見続けていた。

 つ、使う隙がまるでないよ。


「さて、ではさっさと始末をしようじゃないか」

「分かりました中川さん」

「っ! 来るわよ。そっちの2人を何とか足止めして」

「「了解」」


 乃亜は向かって来た門脇に大楯を構え、とにかく時間を稼ぐために下手に攻撃せずに防御し続けて時間を稼ごうとするようだ。


「[貫通]」


 ――パンッ!


「きゃっ!?」

「ちっ。その大楯で防いでも衝撃は通ったはずなのに無傷か。中々厄介なスキルを所持しているな」


 槍を大楯で防いだはずなのに、乃亜の服の右袖がビリビリに破けてしまっていた。

 [損傷衣転]がなければ右腕にダメージを負っていただろう。


「厄介なのはどっちですか。防御無視とか相性が悪いです」

「ふん、僕なだけマシだと思うがな」


 門脇でマシとなると、この中では一番レベルが低いのだろうか。


「はっ!」


 門脇が再び乃亜へと襲い掛かり、乃亜はとっさにその大楯を構えてしまう。

 マズイ。また[貫通]でダメージを食らう!


 ――ガンッ


 そう思ったのに門脇はスキルを使わなかった。


「ああ、スキルのインターバルですか。さすがに連続で使われたら危ないところでした」

「[貫通]が使えなくても問題はない。時間はかかるだろうが確実に削って殺してやる」


 門脇は手に手裏剣を持ち、先ほどのように[投擲]と[誘導]のスキルで乃亜の体力を削っていこうとするようだ。

 くっ、何もできない自分が恨めしい。

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