第27話 プライド

 

≪蒼汰SIDE≫


 オリヴィアさんがアヤメの力を借りながらも必死に駆けていくけど、パトリシアさんを振り切れないでいた。


「食らいなさい。[トリックオアトリート]!」

「そう簡単に受けるか! [シールドコート]」


 パトリシアさんが手を伸ばして触れようとしてきたのに対して、オリヴィアさんは[聖騎士]の派生スキル、[シールドコート]でパトリシアさんと自身の間に膜を作ってそれを防いでいた。


「ちっ、相変わらず厄介な!」

「パティのそれは直接触らないと効果がないのは分かっている。知っていれば対処も容易だ」

「言ってくれるじゃない。それならこれはどう?」


 パトリシアさんとオリヴィアさんは走りながらお互い相手の足を止めさせようとしたり、それを防いだりしていた。


「ま、待ちやがれー!」

「ゼーハー、セーハー……」

「ハァハァ、か、体が熱い。もう我慢できない! 抱いて!」


 なお、他にもいたはずの石像化していた方々は置いてきぼりである。


 本来であれば大勢の人間との鬼ごっこに苦戦するところだったんだろうけど、ほぼパトリシアさんのお陰で試練がかなり楽になっていた。

 自分が〔緊縛こそノーボンデージ我が人生ノーライフ〕で縛ってしまった人に関しては、近くにいた男の人たちを捕まえているけど考えないこととする。

 足止めとしては有効な手ではあったけど、いや本当にごめんなさい。


 謝ったからよし。


 それはさておきパトリシアさんだ。

 石像になっていたからか幸いにも武器を持っておらず、剣などの武器で足を攻撃されて機動力を失うといったことにはならなさそうではある。


 ただ使ってくるユニークスキルが厄介だ。

 カスリでもしただけで強制的に選択させられるのだけど、こちらが遅くなればパトリシアさん以外の人にも追いつかれる可能性が高くなるため、パトリシアさんへのバフを選ぶ以外ない。

 しかしすでに現状追いつかれて互角のスピードであることを考えると、これ以上強化されたら手に負えなくなるだろう。


「こうなったら[助っ人召喚]を使って、パトリシアさんを追い払うしかないかな?」


 オリヴィアさんの友達であることを考えると怪我させるような事はしたくないけれど、下手にこのまま放置したら事態が悪化しかねない。


 そう思った僕は一瞬だけ[画面の向こう側]を解除して、[助っ人召喚]を使おうとした時だった。


「待ってくれないか鹿島先輩。パティは私に任せてくれないだろうか?」

「オリヴィアさん? でもこのままじゃ……」

「分かっている。だがパティは私自身がどうにかしたいのだ。すでに鹿島先輩やアヤメの力を借りていて何を言っているんだと思われるかもしれないが……。ダメだろうか?」


 心苦し気な表情でオリヴィアさんからそのような事を言われたので少し驚いてしまった。


 日本に来てまで僕に近づき国を救ってほしいと言ってきたり、強くなりたいとレベルを頑張って上げていたりしていたのも、この国のためにと動いていたはず。

 なのにここにきて個人の感情を優先しているということは、よっぽどパトリシアさんはオリヴィアさんにとって色々と特別なんだろう。


 そういう事であれば仕方ないかな。うん。


「ヤバそうだったら手を出すから」

『え、撃っちゃダメなのです?』


 アヤメは空気読んでくれないかな?


「感謝するぞ鹿島先輩!」


 オリヴィアさんはそう言いながら、手に持っている聖剣をパトリシアさんに振るった。


「っ! 危ないわね」

「避けておいてよく言う。尋常じゃないバフを得ているお前にそう容易く攻撃は当たらんか」

「そのバフありのうちと同等の速さで走ってるあんたは何だっていうのよ!」


 2人は言い争いながらもお互いに攻撃を仕掛け続けている。

 だけど幾度となく繰り広げられる互いの攻撃は当たることなく、ついには次の試練へと向かう扉が見え始めてきた。


 扉に辿り着いたとしてもその扉を閉まっているため、開けてから通らなければならない以上その隙に攻撃されるなり聖剣を奪われてしまうだろう。

 それが分かっているからか、パトリシアさんはニヤリとほくそ笑んでいた。


「残念だったわね。あの扉が開きっぱなしだったらこのまま逃げ切られたでしょうけど、あれが閉まっている以上うちからは逃げられないわよ!」


 そんなパトリシアさんに対しオリヴィアさんは悩んだり悔しそうな表情を浮かべるわけでもなく、何故か清々しく笑った。


「やっぱりすごいなパティは。レベルを上げて、鹿島先輩達の力を借りているにも拘わらず互角とはな」

「っ!?」


 オリヴィアさんの言葉が予想外だったのか、パトリシアさんは動揺を示していた。


「子供のころからそうだったよな。私が陰でどれだけ努力していても、パティは他の者たちと違って私以上に努力して追いつき、追い越してきた。

 そんなお前を見て私はもっと頑張らないとと思ったものだ」


 オリヴィアさんの言葉には先ほどまでわずかにあったはずの嫉妬心などまるで感じさせなかった。


「………………はぁ~~。もう、馬鹿ね。こんな時に言うことなの?」


 パトリシアさんはそんなオリヴィアさんを見て大きくため息をつくと、先ほどまでの険しい顔から一転して、まるで先ほどまで滲み出ていた嫉妬心がどこかにいってしまったかのような、慈愛を含んだような優し気な瞳を向けていた。


「あと、互角云々言うのはうちの方よ。百何十人からバフを得たうちと同等なのよ?

 本当ならこれ以上何が起こるか分からない試練にリヴィを行かせたくはなかったわ。

 ……だけどこれだけ強化したうちに肉薄されたら認めないわけにはいかないわよね」


 扉へとたどり着いた2人は互いに攻撃し合うのではなく、足を止め向き合っていた。


「リヴィがうちの先をドンドン行っているようで悔しかった。うちが出来なかった試練を乗り越えていた事に嫉妬もした。

 その気持ちにかられてリヴィの邪魔をしたかったのもあるけど、うちが失敗したような試練がこの先にまだあるのかと思うと、リヴィをこの先に進ませることへの不安な気持ちが大きかったわ」


 この2人、お互いを認め、認められることで嫉妬の気持ちがどこかにいってしまったのだろう。

 今はどちらも嫉妬心など感じされることは一切なかった。


「でもそれだけの力を示されてこれ以上邪魔なんてしようものなら、本当にただの嫉妬心でリヴィを妨害しているだけだわ。そんなのうちのプライドが許さない」


 そう言うとパトリシアさんは扉を開いてオリヴィアさんに通るように促していた。


「行きなさいよリヴィ。でも戻ってこなかったら許さないんだからね」

「ああ、【四天王】を倒して必ず戻るさ」


 扉を通るためにパトリシアさんをオリヴィアさんが横切った時、パトリシアさんは清々しい笑みを浮かべていた。

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