第28話 戦争
パトリシアさんと別れ、扉を潜った僕らは雑草が生えているだけのだだっ広い丘へと出た。
周囲を見渡す限り特に危険なものはなさそうなので、一旦[画面の向こう側]を解除して外へと出る。
ついでにシロも周囲を索敵してもらうためにスマホから出した。
『ふぅ、ようやく出れた。ところで主様よ』
「どうしたのシロ?」
スマホから出たシロにいきなり話しかけられた。一体何だろうか?
『主様の世界に避難している間に思ったのじゃが、あの女のような
石化は対象外というのであれば、なんなら石化になっている像を砕けば死んだことにならんかの?』
「あっ……」
よくよく考えればそうだった。
シロの言う通り、わざわざ石化から解放しなくても矢沢さんのスキルがあったんだった。
「もしかして僕ら、無駄に聖剣の鞘を失った……?」
思わず膝を着き、四つん這いになってしまうほどに自分のアホさ加減に嘆かずにはいられなかった。
[
つまり死亡状態に限らず、毒だろうが石化だろうがそうなる前の状態で矢沢さんのスキルで呼び寄せられるということ。
死者蘇生の印象が強すぎたせいで、その考えに全く至らなかったことにもう泣くしかなかった。
「お、落ち込まないでくれ鹿島先輩。私も友人が石化していたせいでそれに動揺してしまい気づけなかったのだから、鹿島先輩1人の責任ではないのだぞ」
『そうなのですよ。正直本人の見た目と能力のインパクトが強すぎるせいで、あのスキルを誤認してしまうのは仕方ないのです』
……アヤメ。それ、矢沢さんに言わないでね。見た目について言われたら物凄くショックを受けるだろうから。
もはややらかしてしまった事を嘆いていても仕方がないと諦め……ちょっと、いやかなり引きずりながらもとにかくまずは周囲の確認だ。
こうして見渡す限り自然物ばかりで何もないように見える。
そのせいで丘にポツンとある扉がシュールだ。
「また変な場所に来てしまったな。空に太陽まであるし、ダンジョンの中とは思えんな」
「〔ドラゴンのダンジョン〕について詳しく知らないんだけど、こういう場所もあるの?」
「いや、お祖母様に聞いたかぎりでは浅い階層は基本的にものすごく広い洞窟みたいな場所だと言っていたから、こんな浅い階層にまるで外のような場所はないはずだ」
そうなると、岩から剣を抜いた後の小さい扉と大きい扉は、魔女の試練と通常の〔ドラゴンのダンジョン〕の分かれ道だったのかな?
まるでエバノラ達から試練を受けていた時の事を彷彿させるような展開に、なんとなくそう思っていた時だった。
『『『うおおおおーーー!!』』』
突如として男達の雄叫びが周囲に響いた。
『な、何なのです? アイドルの人がこっちに移動してきてコンサートでもやっているのです?』
「いや、それにしては雄叫びの声がさっきのとは違うような気が……」
アイドルに熱狂している人の雄叫びではなく、まるで自分を鼓舞するかのような雄叫びな気がするのは気のせいだろうか?
「どうやらあの丘の向こうからのようだな。どうする鹿島先輩?」
「……悩むところだけど、行ってみるしかないよね」
オリヴィアさんに問いかけられ、僕はとりあえず様子を見に行こうと提案した。
その提案に全員が頷いた後、念のため僕は[画面の向こう側]で退避し、全員がいつでも戦えるように警戒しながら移動し始める。
『『『うおおおおーーー!!』』』
―ーキン、キキン!!
丘を登るにつれ、どんどん人の声は大きくなり金属同士がぶつかっているような音まで聞こえてきた。
誰かが戦っているんだろうか?
音を聞く限りかなりの大人数が戦っているような感じがするんだけど、ここが〔ドラゴンのダンジョン〕であってもドラゴンを相手に大勢で戦っているってわけではなさそうだ。
もしそうなら金属同士がぶつかり合っている音がこんなにもうるさく聞こえてくるのはおかしい。
そう思いながら丘を登った先にあった光景。それは――
『殺せーーー!!』
『死ね、死ね、死ね!』
『蹂躙しろー!!』
人と人が大勢で殺し合っている、戦争だった。
持っている武器は銃などの近代兵器は一切なく、今時の冒険者が使うような剣や槍などの武器に似た古めかしいもので戦い合っているようだ。
「な、なんなんだこれは? まるで戦争だな……」
オリヴィアさんが慄きながらそう呟くけど、まるででもなんでもなく、これはまごうことなく戦争だ。
戦争を見たことがなくても、大勢の人間同士の殺し合いという悲惨なこの光景、そして漂ってくる吐き気を催すほどの血の匂いは否が応でも戦争を連想させるものだ。
『おい、主様よ。こんな所に看板があるぞ』
凄惨な光景に気を取られていたせいで、シロに言われてようやくすぐ近くに看板がある事に気が付いた。
おそらく試練の内容が書いてあるのだろうけど、今度は一体どんな試練なんだ……。
――――――――――――――――――
〖反逆の騎士 モルドレッドを撃破せよ!〗
戦場にいるモルドレッドを撃破することで次の試練へと進むことができます。
この戦場では赤い髪の人間はあなた達の敵となり襲い掛かってきますが、
金色の髪の人間はあなた達の味方となって敵を殲滅してくれます。
しかし味方の数5万に対し敵の数は10万と不利な状況です。
円卓の騎士を解放してこの逆境を覆し、モルドレッドを倒してください。
P.S. 敵は真っ先にあなた達を狙って攻撃を仕掛けてきます。ご武運を。
――――――――――――――――――
「最後の追伸になんか物騒なこと書いてあるんだけど!?」
敵から隠れてコッソリとモルドレッドを探して倒すことが出来ないとかなかなかに酷い。
しかもその上、敵との戦力差が倍とか絶望的すぎる状況じゃないか。
もうこんなの嫉妬と何の関係もないよ……。
今までの試練の中でもダントツにヤバい試練、しかも看板には次の試練について示唆しており、まだこの先があると思うとある程度温存しなければいけないとかきつすぎる。
せめてこれでモルドレッド=サラで終わりだったらよかったのに……!
あまりの事にみんな何も言えずにいると、看板がパンッと音を立てて弾けた。
『いたぞ、あそこだ!』
『殺せ!』
『アーサー王達を討ち取るんだ!!』
ヤバい!
敵である赤い髪の人間達が一斉にこちらを向いて、攻撃を仕掛けようとしてきた。
聖剣を持っているからか、僕らをアーサー王と認識しているようだ。
『させるか!』
『我らの王を守るのだ!』
『押し返せ!』
幸いにも味方である金色の髪の人間が今のところ僕らを守ってくれているけれど、どうやら戦闘力は完全に互角なようで1人倒すごとに1人やられている。
このまま放置すれば僕らは残った5万の敵に蹂躙されてしまうことになるだろう。
だけどこんな大勢の中、しかも戦争をしている最中でモルドレッドを見つけるだなんて不可能に近い。
ただモルドレッドよりも先に看板が示唆していた円卓の騎士を解放するように書いてあったけど、それは一体どういう事なんだ。
『こちらです。我が君』
僕らが困惑している最中、現れたのは全く見覚えのない1人の執事だった。
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