第9話 修羅場ってます?

 

≪蒼汰SIDE≫


 2日目の朝、割り振られた時間となったため、昨日戦闘をしていた地点へと再び訪れたわけなのだけど、ロシア、中国の軍人達が夜中も頑張って魔物を間引いているお陰か、数は昨日よりは減ってるように見えた。

 ただし昨日よりはマシというだけで、魔物は沢山いるのだけど。


「昨日結構な数を倒したはずなんだけど、まだまだ大量に群がってるね」

「今日の午後に安全地帯を設置する手はずですが、その予定通り行われるのでしょうか?」


 乃亜は疑問を口にすると、すぐさま近くで僕らの護衛兼引率をしている人に尋ねにいった。

 実は1日目に割と自由に戦闘をさせてくれていたのは日本政府から派遣された護衛の人達がいて、いざとなればその身を犠牲にしてでも僕らを守る為傍にいたからだ。


 安全地帯を設置するために呼んだのに戦闘で倒れてしまっては元も子もないと、最初は僕らが戦闘に参加することに反対されていたのだけど、乃亜の派生スキル[セーブ&ロード]を日本の政府の人にだけ開示することで護衛付きではあるけどあっさりと許可された。


 [セーブ&ロード]は死が条件とはいえ、時間の巻き戻り能力のため物凄く驚かれたが。


 冒険者組合でこのスキルの危険度は丙種判定を受け、ダンジョン外でも好きにスキルを使用してもいいスキルとして登録されているはずなのだけど、安全地帯を設置できることばかりに注目がいっていたのだろう。


「先輩達、やはり予定通りに行うみたいです。午前中にできるかぎり間引いた後、集団で一気に中央へ固まって行動し、魔物達を中央から退けた後でわたし達が安全地帯を張るようです」

「一応作戦通りってわけだ」

「随分ハイリスクな作戦だけど、よくこの作戦に参加する人達がいたものよね」

「【魔女が紡ぐ物語織田信長】と戦う前の冬乃先輩なら分かるかもしれませんが、矢沢さんが死んでも生き返らせてくれる上に、作戦に参加すれば多額の危険手当が支給されるそうです」

「なら参加するわね」

「即決なんだ、ね」


 さすがに今は十分お金を持っているから、そんな危険なことをしたりしないだろうけど。


「ソウタ!」

「ん、なにソフィアさ、うぇ!?」

「ふふっ、今日も昨日みたいによろしくね」


 急にソフィアさんが腕に抱き着いてきたから変な声が出てしまった。

 何やら胸を押し付けるみたいにくっ付いてくるせいで、むにゅっと柔らかい感触が腕に伝わってくるよ。


「ちょっ、何をやって――」

「何をやっている貴様!」

「えっ?」


 乃亜がソフィアさんに詰め寄る前にオリヴィアさんが怒声を上げながら、無理やり僕からソフィアさんを引きはがした。

 そこまでは良かったのに、何故かそのまま正面から僕を抱きしめてきたのはなんで!?


「鹿島先輩には是非とも私の手助けをして欲しい。むろん望むのであればこの身体を差し出す所存だ」

「何言ってんの?!」


 言ってる意味が分からない上に、いきなりすぎて頭が回らず混乱してしまう。


「ダメ。蒼汰君から離れて」

「ぬっ!?」


 今度は咲夜に引きはがされることで、オリヴィアさんから逃れることができた。

 昨日の今日で一体なんなの?


 もう訳が分からず気が付いたら、ソフィアさんとオリヴィアさんを乃亜達が警戒し、3人が2人に対して僕の壁になるように立ちふさがっていった。

 しかしまだ1人残っていた。


「……ずるい」

「また!?」

「……ボクも」


 ソフィアさん達だけを警戒していたからか、オルガが乃亜達に気付かれずに僕に接近してしがみついてきた。


「なっ、いつの間に!?」

「一応警戒していたはずなのにどうやって……!」

「うぅ~」


 これから戦闘が始まる直前だというのに、海外組はどうして急に強引なアプローチをかけてきたのかサッパリ分からなかった。

 とりあえずオルガも離れてくれないかなぁと思いながら顔を下に向けてオルガの顔を見ると、どことなく寂しそうで嬉しそうななんとも言えない表情をしていたせいで、離れて欲しいと口に出来なかった。


 ソフィアさんとオリヴィアさんと違い、僕にアプローチをかけてるというより、どことなく迷子になってしまった子供を連想してしまう。

 年は1つ上のはずなのに、その容姿も相まって無理に引きはがすのは躊躇われてしまった。


 しかしいつまでもこうしている訳にもいかないし、乃亜達がオルガを僕から引きはがそうと動き始めたので、自分から離れてもらうとしよう。


「悪いけど離れてくれないかな」

「……ん」


 肯定とも否定とも言い難い返答だったけど、名残惜しそうにオルガは離れてくれた。


「もう、一体全体なんなんですか!」

「あはは、ゴメンね~。でもソウタにはこの迷宮氾濫デスパレードの騒動が収束した後もレベル上げとか協力して欲しいからサービスしちゃった」

「そういうのは間に合ってます!」


 ソフィアさんがとんでもない事言ってるけど、乃亜の言う通り実際十分なくらい間に合ってるんだよなぁ。

 もう学校とかではスキンシップやラッキースケベが当たり前になってるせいで、仮に日記を書いたとしても特筆すべきことじゃなくなってすらいるくらいだ。


「ふむ、そうか。ならば金銭などではどうだろうか?」

「今は金銭よりも経験値が欲しいかな。

 それよりもオリヴィアさん。レベル差50以上がある人同士がパーティーを組んだら高い方に経験値がいっちゃうから、僕の方がレベルが高かったら経験値得られないよね。ちなみに今はレベル348」

「む、確かに私のレベルは270だからその通りだな。昨日の様にパーティーを組まずに支援だけするのではダメだろうか?」

「それ、僕になんの得もないよね」


 パーティーを組んでいない状態で、レベルの高い方が魔物に対して直接戦闘に関わらなければレベルの低い方に経験値はいくはずだからオリヴィアさんがそんな提案するのは分からなくもないけどね。


 はぁ。3人とも強くなりたいのは分かったけど、露骨にこんな事されても僕は自分のレベル上げをしたいから協力は無理だよ。


「……違う」


 ん? 今オルガがなにかボソッと言った気がするけど、気のせいかな?

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