第16話 文化祭・1日目(3)
≪蒼汰SIDE≫
僕は咲夜のクラスで〈ジェットコースター〉を楽しんだ後、乃亜と冬乃と一緒に咲夜のクラスの方に来たついでに3年生の色々な展示物や催し物を見て回った。
普段3年の教室に行くことなんてないし、文化祭で様変わりしているのも相まって新鮮な気分だ。
「おい、ハーレム野郎が来たぞ」
「くそう。同級生、後輩とコンボ決めるとか羨ましすぎる……」
「裏山死ねの怨嗟を浴びながら毎日校門前で挨拶して全学年に顔を売るとか、斬新な自殺方法だよなって、あいつ見る度に思うんだよな」
普通なら他の学年の人に顔を覚えられることはないのだけど、僕は登校日は毎日挨拶運動をしているせいで顔を知られている。
同級生なら今更すぎて僕を見てこんな事をヒソヒソと言ったりしないんだけど、違う学年のいる人達が大勢いるところだと僕は話のネタになってしまうんだろう。
「校内で堂々とセクハラしまくってるんだろ?」
「赤ちゃんになって授乳プレイもしてたらしいぞ」
「なんであいつ不純異性交遊で退学になってないんだ?」
それらは全部不可抗力や事故であって、やましい事を自分からした事はないんですけど?!
弁解したいけれど、ほぼ至る所でヒソヒソと話をされているので、それらを1つ1つ誤解を解いていったら文化祭を楽しむ時間なんて無くなってしまうから、泣く泣くスルーするしかない。
……事実がほぼニアピンしているせいで、「誤解でもなんでもねえ!」と言われてしまいそうなのもあるけれど。
「みんな、お待たせ」
「お疲れ様です咲夜先輩」
「蒼汰が12時からクラスにいないといけないから、早めにお昼を食べようかって話していたところよ」
周囲の声を意識しないように校内を歩いて催し物を見て回っていると、すでに11時になっていたのか咲夜が僕らと合流してきた。
「「「フルコンボだドン」」」
周囲の声がシャットアウトしきれない……。
あの人達はただ太鼓の〇人をやっているだけであって、咲夜が合流したことで先輩、同級生、後輩が揃った乃亜達を見てそんな事を言った訳ではないと思いたい。
というか、文化祭でゲームセンターにあるような太鼓の〇人を再現してる催しまであるとか凄いな!
「先輩なにボーっとしているんですか? せっかくですからみんなで色んなものを分け合って食べましょうよ」
「蒼汰がクラスに戻る時間も考えると、あまりもたもたしてる暇なんてないんだから早く行きましょ」
「普通のお祭りの屋台では売ってないのもあるから楽しみだ、ね」
「うん、そうだね。それじゃあ早速屋外の方に行こうか」
乃亜達と共に僕らは屋外にある屋台へと移動した。
そこにはお祭りで定番のお好み焼き、たこ焼きといった粉ものから、りんご飴やクッキー、変わり種のフライ・ド・バナナまで様々な食べ物系の屋台が並んでいた。
「色々なものがあって目移りしますね~。あっ、そうです。それぞれが思い思いの商品を買ってきて分け合うのはどうでしょうか?」
「面白いわねそれ。でも色々なものを食べれるのは悪くないけど、同じ物を買ってきてしまう場合もあるんじゃないかしら?」
「買ってくる数を1人分だけにすれば、たとえ被っても問題ないと思う、よ?」
「確かにそれなら問題ないかな? それじゃあ10分後にまたここで」
昼にはまだ早い時間だから行列なんてほとんど出来てないし、10分もあれば選んで戻ってくるのに十分な時間だろう。
乃亜達と別れた僕は何を買おうか悩みながら屋台を見渡す。
う~ん、分け合う前提だし昼食であることを考えるとやっぱりたこ焼きなんかが無難かな?
あ、でも乃亜達もそう考えてるかもしれないことを考えると、やっぱり別なものにした方が良いか……。
なんだか人と被らないようにするゲームみたいでちょっと面白いな。
「よし、決めた」
やはりここは無難にたこ焼きでいこう。
4人全員が被ったところで1人1パック食べるだけなのだから何の問題もないし。
僕はたこ焼きを買って集合場所へと戻ると、すでに冬乃が待っている様子だった。
「早いね冬乃」
「これが食べたいなって乃亜さんが提案する前から決めてたもの。蒼汰は……たこ焼きを買ってきたのね」
「これなら簡単に分け合えるからね。冬乃は……唐揚げか」
「節約ばかりしていた反動かしらね? ついお肉を食べたくなるのよ」
その気持ちは分かるな。
モヤシとかで乗り切ってた時なんか肉なんて高いと感じて買えなかったからね。
ようやく仕送りやバイト代が入った時、久々に食べた唐揚げやハンバーグは本当に美味いと感じたものだよ。
まあそうなったのはガチャしたくて仕送りやバイト代の大半を課金に3カ月間使ったせいで、その期間一切肉なんて食べられなかったからなんだけど。
「先輩達、早いですね」
「買ってきた、よ」
おっと、冬乃と話している間に乃亜達が同時に戻って来たよ。
えっと、その手に持っているのは――
「お好み焼きとじゃがバター?」
僕や冬乃のなら複数入っているから分けやすいけど、お好み焼きとじゃがバターだとちょっと分け辛いんじゃないかな?
まあ初めに4等分すれば済む話、ってあれ?
「ねえあなた達、割りばしがそれぞれ1つしかないみたいだけど?」
冬乃も同じ疑問に辿り着いたみたいで乃亜達の手元を見てそう問いかけたけど、2人は首を傾げてそれが何かと言わんばかりの表情をした。
「食べさせ合えば問題ないですよね」
「だよね」
「え、学校で?」
文化祭だから人がいない場所なんて基本的にないのに、食べさせ合うとかマジ?
「ちょっ、あなた達人目があるんだから、少しは自重しなさいよ!」
「ですがもうこの学校ではわたし達の関係は知れ渡っていますし今更ですよね。というわけで、はい先輩。あーん」
「咲夜も。蒼汰君あーん」
「うっ、確かに乃亜さんの言う通りだし、こ、この流れはあれよね。うん、私だけしない訳にはいかないし、文化祭だもの。少しくらい羽目を外してもいいわよね。
ほ、ほら蒼汰。あーんしてあげるわ」
乃亜達3人からそれぞれが持つ食べ物を食べさせようとしてきた。
めっちゃ人目のある屋台が並んでいる近くで。
「許せねえよな!」
「壁を。殴り壊せる壁をいますぐ俺の前に!」
「はっはっは、殺す!」
せめて少しくらい人気のない場所に移動してからにして欲しかった……。
嫉妬の目が突き刺さる中、どこか期待した様子の乃亜達を裏切ることなどできず、僕は差し出された食べ物を口にした。
◆
≪???SIDE≫
「本当に噂通りハーレムなんだ……」
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