第15話 文化祭・1日目(2)

 

 乃亜と冬乃と待ち合わせている場所に向かうと、すでに2人が待っていた。


「ごめん、待たせたかな?」

「いえ、わたし達も今さっき来たところですよ」

「ええ、だから気にしなくていいわ」


 2人の声は弾んでいていつもよりテンションが若干高く、この文化祭を楽しみにしていたのだと感じ取れた。


「2人ともワクワクしてるね」

「はい! 初めての文化祭ですし、見る物全てが新鮮に見えます」

「私は2回目だけど、前回はお金を気にしてほとんど見てるだけだったもの。今回は思いっきり楽しむわよ!」


 そう言えば僕も前回の文化祭は金欠だったから見てるだけだったなぁ。

 金が無かった理由なんて課金一択だから言うまでもないことだけど。


「それじゃあ行こうか。まずはここに行こうと思うけどいいよね?」

「もちろんです!」

「むしろここ以外ないわよ」


 僕が全員に配られているパンフレットに記載されているとある場所を指し示すと、2人がそれに賛同したので早速向かう事にした。

 テンションの高い2人と共にまず真っ先に行こうと思っていた場所に着くと、そこには既に行列が出来ており、沢山の人がこの催し物に注目しているのが分かる。


「結構人がいるね」

「当然じゃないかしら? だって文化祭で〈ジェットコースター〉なのよ」


 僕ら3人は咲夜のクラスが出し物として〈ジェットコースター〉をやっていると聞いたので、早速それを見に来たんだ。

 もっとも、〈ジェットコースター〉でなくても咲夜が店番をしているなら、どんな催しでも顔を見せに来ただろうけど。


 しかしでどうやって〈ジェットコースター〉をやるんだろうか?

 全然イメージが湧かないんだけど、〈ジェットコースター〉って言ったら普通屋外だよね?


 そんな疑問を抱きながらしばらく待っていると、意外と回転率はいいのかすぐに僕らの番に回って来た。


「あ、蒼汰君達。来たんだ」

「うん。咲夜のクラスでやってる催しってのもあるけど、〈ジェットコースター〉なんてどうやってやってるのかも気になったからね」


 そう言いながら教室内を覗くと椅子や机などは全て撤去されていて、代わりに木とベニヤを組み合わせて作られた緩やかな滑り台を彷彿させる教室全体を使ったコースと、人一人が入れる程度の箱に小さい車輪を下と横に付けた木箱が置いてあった。


「それにしても凄いねこれ。よくこんなの作れたよ」

「ネットに載ってたみたい。他の学校の文化祭でも手作りジェットコースターがブームらしい、よ?」

「変わったブームね。それよりもこれ、壁がベニヤだけどコーナー曲がるときは大丈夫なのかしら?」


 確かにベニヤ1枚だと人と木の箱の重量を支え切れずにコースアウトしかねないような……。


「そこは人がベニヤを後ろから支えるから大丈夫」

「まさかの人力ですか?!」


 この企画、割と力技で成立してないだろうか?


「じゃあ早速乗る?」


 そう言って咲夜はゴール地点の場所にあった木の箱をひょいっと片手で持ち上げて、スタート地点の高い場所へと持っていった。

 見た目は重そうだけど、以外と軽いんだろうか?


「四月一日さんがいると助かるよな。あれ2人がかりで運ばないといけないくらいには地味に重いんだよ」

「普段何考えてるか分からないけど、力仕事を率先して動いてくれるからマジ救世主だわ」


 やはり重いようだ。

 2人がかりで運ぶものを2リットルの水が入ったペットボトルを持ち上げるかのように運べるとか凄いな。

 僕もレベルが上がってるはずなのに、身体能力が乃亜達3人に比べると低いからその身体能力が羨ましいよ。


「ん、準備できた。誰から乗る?」

「3人で乗れたら良かったのですが……」

「さすがにそれは危ないからダメだよ乃亜ちゃん」


 3人分の重量をコーナー曲がる際に壁と人の力で支えきれないだろうし仕方ないね。

 そもそも狭くて入れたとしてもキツイせいで〈ジェットコースター〉を楽しめないだろうけど。


「それじゃあ蒼汰から乗っていいわよ」

「そうですね。先輩に一番手を譲ります」

「あ、うん、分かった」


 まあここでうだうだしてると後ろにいる人達に迷惑だろうし、言われた通り僕から乗ろう。


 高い位置に設置された木箱に乗り込むと、後ろからゆっくりと押されていく。

 平坦な場所から斜めに傾いた場所に移動すると、そこからは勢いよく木箱がコースを走っていった。


 うおっ、結構スピードが出るな!


 思いの外速いのとコーナーを曲がる際の遠心力に驚いている間にあっという間にゴールに辿り着いてしまった。


「おおっ、結構面白かったなぁ」

「楽しんでくれたなら良かった」


 コーナーの箇所で本物のジェットコースターのようにスリルを味わえたので、これは十分ジェットコースターと言っていいだろう。

 ……脱線するかもしれない恐怖だったのでスリルに違いがあるような?


 やっぱりちょっと違うかと思っている間に乃亜と冬乃も〈ジェットコースター〉を満喫したのか、楽し気な表情をしていた。


「楽しかったですよ咲夜先輩!」

「思ったよりスピードが出るものなのね」

「3人ともわざわざ来てくれてありがと、ね」


 咲夜も僕らが楽しんだ様子を見て嬉しそうな笑顔でそう言った。









 ◆


≪???SIDE≫


「あ、いた」


 〈ジェットコースター〉の催し物をやってるクラスであの人がいるのを物陰からこっそり確認した。

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