第9話 ウエルカ~ム!
≪蒼汰SIDE≫
嬉し恥ずかしな混浴イベントの後、浴衣に着替えた僕らは食事を楽しんだ。
このレジャー迷宮は結構ガバガバなルールなのか、宿泊所の中なら浴衣を着れるようで今は全員が浴衣を着ている。
正直寝る時もずっと水着じゃないのは凄く助かるよ。
「ここの食事が全て無料だったのも驚きだったけど、それよりも色々な意味で凄かったわね」
「確かに。机の上にあるメニューから好きなの選べば食べたい物が現れたから驚いた。でも、ここまで至れり尽くせりだといつまでもここに居着く人が出そう」
「それは無いみたいですよ咲夜先輩。最大で3日以上このレジャー迷宮に滞在していると、勝手に追い出されるそうです」
「それでも3日も居られるんだね」
普通の宿なら経営破綻待ったなしの大出血サービスだよ。
いや、2000円取ってるのは冒険者組合でこの施設を運営(?)している人にお金を払ってる訳じゃないから、この施設そのものはタダか。
考えれば考えるほどこの場所は不思議で満ちているね。
冒険者組合がこの特殊な場所を利用して宿泊施設を作ったのなら分かるんだけど、宿泊施設とセットでこの場所があるのだから意味が分からない。
まあ考えるだけ無駄なんだろうけど。
…………さて、現実逃避の時間が終わりに近づいてきたぞ。
「ところで先輩、どこで寝たいですか?」
「……床じゃダメ?」
「許すわけないじゃないですか」
僕らに割り当てられた部屋には、トイレ、リビングのような部屋の他に寝室が1つ。
初めてこの場所を割り当てられた時は寝室なんて見に行かなかったので気付かなかったけど、夕飯を食べて改めて部屋の中を見た時にようやく気付いた。
なんでベッドが1つしかないんだよ!
ベッドが1つと言っても4人が並んで余裕で寝れるほど大きいのだけど、いくら大きくてもベッドが1つである事に変わりなく、そこで一緒に寝るのは問題じゃないかと思ってしまうんだ。
だから別の場所で寝ようと思ったのだけど、リビングにはソファーなど無く、テーブルやイスが置いてあるだけで寝るには適さない物しかない。
[フレンドガチャ]で寝具でも取り出せばいいんだろうけど、残念ながら2つだけガチャで引き当てていた布団は冬乃の家族が引っ越した時にプレゼントしてしまったので、せいぜい寝袋しかない。
しかし一緒に寝るよりはマシだと思うので、それで寝ると言ったら反対されてしまった。
「今更何を抵抗しているんですか? 冒険者学校でダンジョン遠征に行った時は同じテントの中で一緒に寝たというのに」
「それとこれとは違うというか、あの時はテントでダンジョンの中だったから、間違いなんて犯そうものならすぐに周囲に気付かれるから問題なかったんだよ」
「じゃあ今なら尚更一緒に寝ても問題ない、よね? 誰にも見られない、よ」
「誰も止める人がいないから問題なんだけど!?」
まだ責任も取れないのに手を出すなんてできるはずがないよ。
「………」
冬乃なんかこの話題になった途端無言になってしまっているし、さすがに僕らにはまだ早いと思う。
「先輩は身持ちが固いですね。分かっていた事ですけど。
ただ手を出す云々は置いておいて、せっかく旅行に来たのに先輩だけ寝袋で寝るのはありえません。
先輩は満足に疲れが取れませんし、わたし達は先輩を追い出したみたいで気が引けて眠れません」
「別に気にしなくていいのに」
「それは無理。蒼汰君が床で寝て咲夜達だけベッドを使うのは気が気じゃない」
「咲夜先輩の言う通りですよ。それにこれだけベッドが広いんですから一緒に寝ても全然窮屈じゃないですよ」
乃亜が僕の手を引いて無理やりベッドの上へと乗せてきた。
室内のほとんどを占拠しているだけあって、僕と乃亜が乗ってもまだまだ余裕があるね。
「冬乃ちゃんも」
「わっ、咲夜さん!?」
立ち尽くしていた冬乃の背中を押して、咲夜は冬乃と一緒に倒れ込むようにベッドの上へと乗ってきた。
こうして改めて見ても僕ら全員がベッドに乗ってもスペースには余裕が――
――カッ
「「「「は?」」」」
ベッドが急に光り輝いたと思ったら、次の瞬間には景色が変わっていた。
『ウエルカ~ム! ようこそ私のダンジョンへ!』
真っ白で大きな空間にいつの間にか移動していたと思ったら、その中央で紐みたいな水着を着た妙な2頭身の女が空中に浮かんでおり、両手を広げて僕らを歓迎していた。
「何だてめえは!?」
いや、僕らだけじゃなかった。
男の人の声がした方に視線を向けると、僕らと同様に大きなベッドの上で――って、全裸じゃないか!?
いや、この人だけじゃない。
叫んでいた男のグループの他にも2組の男女がベッドの上で困惑していた。
……全裸で。
ナニしてたんですかね……?
『はいはい、まずは服を着ようね~』
2頭身の女がパチンっと指を鳴らすと、全裸だった人達は全員水着となり、僕らもその人達同様昼間に着ていた水着に早変わりした。
『さてさて自己紹介。私の名前はエバノラよ。短い間だけどよろしくね~』
うふんっと腰をくねらせてこちらに投げキッスしてくる珍妙な女が陽気に名乗ってきた。
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