第10話 戦わない試練?


『私はここのダンジョンの管理者よ。暇つぶしに見込みのある子達を呼んで面白おかしく遊んでるわ』


 脳が追いつかない。

 部屋でまったり(?)していたら、急に訳の分からない所に連れられてきたんだから、当たり前なのかもしれないけど。


「ダンジョンの管理者だと!? じゃあ【典正装備】が手に入るって言う都市伝説も本当なのか!」


 何その都市伝説!?

 それじゃあ目の前のこれはもしかして【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】!?


「つまり【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】であるてめえをぶっ殺せば、【典正装備】が手に入る訳だな!」

『いや〜ん、そんな可愛くない言い方してもらいたくないわね。

 あと、仮に私を殺せたとしても【典正装備】は手に入らないわよ』

「なんだと?」

『だって私、あなた達の言うクレイジーなんちゃらじゃないし〜』


 エバノラは2頭身の身体を揺らして、唇を尖らせながら不満そうにしていた。


 いや、こんな人間をデフォルメしたような生物が【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】じゃなかったら、一体何なのかと問いただしたい。


『でも~私の試練をクリアした子にはそれ相応の報酬、あなたの言う【典正装備】だって手に入るわよ。挑戦する?』

「当たり前だ! そのためにレジャー迷宮に来たようなもんだからな」


 そんなつもりは全くなくてただ遊びに来ただけなのに、こんな事に巻き込まれるなんて思いもよらなかった……。


『他の子達はどうするの~?』

「……それ、拒否したらどうなるんですか?」


 とりあえず参加しない場合について聞いておかないと。


『別にどうにもならないし、元いた場所に戻ってもらうわよ? 私としては沢山参加してくれた方が嬉しいけど、無理強いをするつもりはないし』

「そうなんですか? 武器も何もない状態で試練と言われても戦えないのでありがたいですけど」


 まあ乃亜と冬乃は【典正装備】の大楯と剣があるし、咲夜は元から素手で、僕はスマホをいじってるくらいだから普段と大して変わらないんだけど。

 ……スリングショットがなくても普段と大して変わらない事に涙が出るのは何故?


『あー、ごめんなさい。勘違いさせちゃったわね。試練と言ったけれど、別に戦ったりはしないから安心していいわ』

「戦わない試練?」

『そうよ。あとついでに言うなら命の危険ないわ』

「おいおい、いつまで喋ってやがるんだよ。試練をするなら早く始めようぜ」


 真っ先にエバノラに食って掛かっていた人、よくよく見るとお風呂の前で僕らを横切っていった男性がやる気になっているようで、ベッドから降りて手をボキボキと鳴らしていた。


 いや、やる気になっているのはあの人だけでなく、他にもここに呼ばれた人達も参加に乗り気なのか前向きな相談をしている。


「どうする? 命の危険がないならせっかくのチャンスだし、参加してもいいんじゃないか?」

「いいわね。それで【典正装備】が手に入るなら、今潜ってるダンジョンよりも上のダンジョンを目指せるかもしれないわ」

「私達の稼ぎだと結婚できるかギリギリだし、このチャンスはものにしたいわよ」


「もちろん参加する。お前たちもそれでいいな」

「「「はい」」」


「ふふ、いいじゃない。変な所に連れて来られた時はどうしたものかと思ったけど死ぬ危険がないなら悪くないわ」

「で、でもあのエバノラってのが嘘をついてたり……」

「嘘をついていたとしたなら尚更試練に参加しねえと、あたい達が元いた場所に戻してくれるかも怪しいじゃないか。しっかりしな、あたいらの旦那なんだから!」


 他のグループの人達は全員参加するということでいいだろう。

 さて、僕たちはどうするかだけど……。


「参加、するしかないかな?」

「そうですね。あそこの人達が言っていた通り、エバノラという人が嘘をついている可能性もありますから」

「それじゃあ試練をクリアしてこの謎の空間から脱出を目指しましょ」

「ついでに【典正装備】が手に入ったらラッキー」


 確かに咲夜の言う通り【典正装備】が手に入れば嬉しいね。


『は~い、それじゃあ全員参加する意思を確認したから試練を開始するわね』


 エバノラが先ほどのようにパチンっと指を鳴らすと、ベッドが消えて真っ白な空間に1つの扉が現れる。


『まずは第一の試練、〝花の道〟』

「第一だ? 試験はいくつあるんだよ」


 真っ先にエバノラに突っかかっていた男の人が、眉間にしわを寄せて問いただしていた。


『3つよ。第一の試練ではある条件に抵触した場合失格になって、その場で退場してもらうわ』

「退場って……人生からって訳じゃねえよな?」

『さっきも言った通り、私はあなた達で面白おかしく遊んでるだけだから、殺したりなんて野蛮な事はしないわ。ただここでの記憶は失ってもらうけど』

「あ゛あ゛? 記憶が残らねえなら何で都市伝説が伝わってやがる? ハーレム用の風呂に入った奴が【典正装備】を手に入れられるなんて胡散臭い話は誰が広めやがったんだ?」


 マジで!?

 え、そんな馬鹿みたいなありえない都市伝説があったの!?


「そっちの都市伝説は知りませんでした……。調査不足でしたね」

「え、他にも都市伝説あるの?」

「気にしてはダメです先輩」


 いや、ここで気にするなとか無理でしょ。

 だけどそんな事を気にするよりも、エバノラの発言に注意を向けざるを得ないので、乃亜にこれ以上追及している場合じゃないけど。


『都市伝説を広めたのはもちろん私よ。あなた達みたいに噂につられてのこのこと来た子達をターゲットにしているもの。

 もっとも今まで1組もクリアした子達がいないのだから悲しいわよね……。

 ま、それはあなた達が気にする事じゃないし、早速試練を始めましょ。それじゃあ全員、あの扉に向かいなさい』


 遊びに来たはずがとんでもない事に巻き込まれてしまったよ。


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