エピローグ1

 

≪蒼汰SIDE≫


 迷宮氾濫デスパレード騒動から1週間が経過し、僕らは日常へと戻ってきた。


 ――カリカリカリ


 学生にとっての日常。

 それはつまり――


「ここテストに出るからな」


 勉強だ。

 しかも、今から1週間後に1学期期末試験がある。

 だから教師の話をしっかり聞いて黒板に書かれていることをノートに必死に書き写す。


 迷宮氾濫デスパレードに参加してきたんだから温情とかないんですかね?

 乃亜のスキルのお陰で怪我なんかないし、大樹達もポーション飲んだら全快する程度の怪我しかしなかったので身体的には問題ないんだけど、精神的にはかなりキツイです。


「1週間前に厳しい戦いを乗り越えたばかりなのに、これは辛い」


 僕は誰にも聞こえないよう小声でぼやきながら、学生にとっての義務を必死にこなしていた。

 そして授業が終わったら即行で体を机の上に投げ出してぐったりとする。


「あ~疲れた」

「いつもと変わらない授業スピードだったと思うけど、そんなに疲れたの?」


 彰人がいつの間にか近くに来ていた。


「授業がというか、先週頑張ったばかりだから」

「ああ迷宮氾濫デスパレードね。大樹も最近大人しいしつまらないよ。テストが終わったら少しは元に戻るかな?」

「せめてそれは乗り切らないとどうしようもないかな」


 赤点取って補習なんてことになったら、ダンジョンに行く時間が減るし。


 そう言えばあのSランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の討伐、結局失敗したみたいなんだよね。

 もしも討伐に成功していたら報道で大々的に言うだろうし。

 まあ謙信の討伐で報酬は貰ってるし、ダンジョンでの討伐には関わってないからどっちでもいいんだけどさ。


「先週大変だったのは聞いたけど、2人がダウンしてると面白くないんだよね」

「そんな事言われても……。こっちは非日常から日常へのギャップでキツイんだよ」


 テストがあるから終わるまではダンジョンにはいかない事になってるから、赤点だけはならないようにしないと。

 テストが終わったら試験場のダンジョンに行ってみるのも悪くないかな?

 Dランクの〔ラミアのダンジョン〕はどのくらい効率的にレベルが上げられるかを楽しみに、テスト勉強頑張りますか……。



≪???SIDE≫


迷宮氾濫デスパレードの時期がやってきました。ですが皆様ご安心ください。今年も大勢の冒険者と自衛隊の方々が集まって魔物の討伐にあたっています』


 俺は暗い部屋の中、何と無しにつけたテレビのニュースを見ながら酒を飲んでいた。


 冒険者、ね。

 自分の命を危険に晒してまで金を稼ぐとかよくやるな~。


 そんな事を思いながらテレビをボーっと見ていたら――


『ズバリ、あなたと他の女性との関係は? いわゆるハーレム関係なのでしょうか!?』

『はい、わたしがハーレムの1人目です!』

「ぶっ! ゴホッゴホッ!」


 アナウンサーのふざけた質問にとんでもない答えが返って来て、思わずむせちまった。

 こいつらまだ学生だろうに、ハーレム構築してるとかどんな学生だよ。


 小さいのに大きいのに獣人に選り取り見取りで羨ましい限り、って、ん?


「あれ? こいつ……」


 獣人の女をよく見ると、ある人物の姿が脳裏によぎった。

 テレビに映るその姿は、髪が白くなっていて獣耳が生えているが間違いない。

 もう会わなくなってから3年経って成長しているが、この顔立ちは間違いなくあいつだ。


「こいつ、俺の娘だ」



≪試験官SIDE≫


「あの化け物迷宮氾濫デスパレードで生き残ったのか。

 わざわざもっともらしい理由をつけて一緒に配置されるように手を回した上に、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】をというのに……!」


 俺は自室で“迷宮氾濫デスパレード”参加試験に来ていた少年1人、少女3人を思い出しながら苛立ち混じりに、地団駄を踏んでいた。


「他のユニークスキル持ちはこの騒動で数人始末できたが、被害が少ない。

 化け物あの4人の相手は化け物クレイジーテラーがいいと思ったが、当てが外れたな」


 生贄を使ってまで呼び寄せたのに今回の成果は思ったよりもしょぼかった。

 10年前は今回よりも小規模の生贄で、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を1体だけ呼び出した時は相当な被害を与えられたというのに残念なことだ。


 上の連中も想定した結果よりも被害が少なく、この計画に関わった人間の評価を軒並み下げているらしいがどうでもいいことだ。

 評価が上がれば得られる利益は大きいが、復讐だけを目的として動いている俺の様な人間には関係ない。


「ダンジョン以外でもスキルが使える人間なんて全て滅んでしまえばいいんだ」

「ふ~ん。だからあなたはあんなくだらない計画を企てたのさね」

「誰だ!?」


 マンションの1室を借りている俺は1人暮らしであり、今日は誰もこの部屋に呼んだりなどしていない。

 俺はすぐさま声のした方へと振り向くと、そこにはどこかの制服を着た少女が立っていた。


「もう一度聞くぞ。お前は誰だ?」

「あはは、そんな凄んで見せても無駄さ。それにその質問、意味があるのかな?」

「どう言う意味だ?」

「だっておじさん、これから死んじゃうんだよ。そんな事知ってもあの世では何の役にも立たないさ。あの世なんてないけど」


 まるで100均で友達と小物を物色しているかのようなトーンで、殺害予告をしてきた少女にさらに俺は警戒を高める。


「なるほど。お前、魔女か」

「その言われ方は好きじゃないさ。今は魔術師って言うんだよお、じ、さ、ん」

「そんな事はどっちだっていい。それよりも何故俺を殺そうとする?」

「それ聞く? ま、強いて言うのならあなた達はやり過ぎたのさ。

 ユニーク持ちを隔離するよう叫ぶ程度なら上も見逃してたけど、ここまで大掛かりなことされたら動かない訳にはいかないさ」


 面倒だけど、と付け加えて少女はため息を吐いた。


「あなたが勧んで関わった計画で人が死んだんだ。なのに自分が殺されないなんて甘すぎさね」

「ふん、それの何が悪い? 俺は社会の悪を滅ぼしただけだ」


 ダンジョン外でもスキルが使える人間はみな等しく悪だ。


「俺の妻と子供はユニークスキル持ちに殺された。あんな害虫ども滅んでしまえばいいんだ!」

「あっそ」


 ――ズブッ


「なっ……」


 気が付けば少女は目の前にいて、俺の胸にはナイフが刺さっていた。


「くだらない事さ。復讐するならそいつだけを殺すべきだったんだ」


 冷徹な目で俺を見る少女に掴みかかりたくても体に力が入らなくなり膝から崩れ落ちてしまう。


 ふざけるな! まだだ、まだ俺は死ねない!

 この世から害虫どもを滅ぼす、まで……わ…………。


「1人だけならともかく、集団でユニークスキル持ちを殺しに来るから面倒なやつらさ」


 最後に俺の耳に聞こえてきたのは、ため息交じりの陰鬱そうな少女の声だった。


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