第20話 おかしな思考

 

「すごく微妙な気分だ……」

『気持ちは分かるのですが、まともにやり合ったら下手すれば大怪我していたのですよ』

『うむ。あの手の輩はシンプルが故に意外と厄介だからな』


 複雑そうな表情を浮かべながら、オリヴィアさんはその手に持つ聖剣で男にトドメを刺していた。


 まあ大した被害もなく勝てたのだから勘弁して欲しい。


『それにしても相手を強制的に最大まで発情させるとか、酷い効果なのです』

「正確には違うけどね」


 男を生かさず殺さず無効化できたのは〔緊縛こそノーボンデージ我が人生ノーライフ〕の疑似的な〔典外回状〕の効果が相手の発情度合いのだったからだ。

 それにより性的絶頂できない程度の発情を男に与えることで、男の股間が膨れ上がるも鎧に無理やり押さえつけられるという結果を生み出せた。


 絶頂させて体力気力を奪う方が確実だったかもしれないし、男のブツのサイズによっては鎧に押さえつけられるほどではなかったかもしれないけど、さすがに男をイカせるのは色々と嫌だったのでこの方法にした。


『それ、なんてR18アイテムなのです?』

「〔典外回状〕の効果を発揮する前からR18アイテムなんだよ」


 元々の効果が縛った相手を徐々に発情させるんだから今更だ。


 僕らが〔緊縛こそノーボンデージ我が人生ノーライフ〕の効果を再確認し、改めてこの【典正装備】に呆れていると、サラがすっごく微妙な表情でこちらを見ていた。


『その【典正装備】、明らかにエバお姉さまね。

 ううっ、まさかこんな方法でクリアされるだなんて……。マリお姉さまとイザベルお姉さまが言っていたのはこういう事だったの……?』


 なんだか怖いものを見ているかのような目でこちらを見てくるサラは置いておくとしよう。

 それよりも男を倒した後に出てきた看板だ。


 さっきは看板が出ずにサラが説明していたから、この看板は敵を倒すと自動で出てくるのだろう。

 そんな看板にはこう書いてあった。


 ――――――――――――――――――


 真なる聖剣と鞘を持って次に進め

 ※岩から抜いた方の剣は置いていくこと


 ――――――――――――――――――


「真なる聖剣と鞘とは、この落ちている物のことでいいんだろうか?」


 オリヴィアさんが男を倒した後、その場に残っている鞘に入った剣を見下ろしていた。


 ……見下ろすだけで中々その剣を手に取ろうとしないのは、先ほどまであの男が使っていたからだろうか。

 性的に興奮して倒れた男が持っていた物だと考えると、触りたくない気持ちは分からなくもない。


 仕方がないので代わりに僕がそれを拾い上げると、鞘が一瞬輝いた。


「ん? 今鹿島先輩の身体も少し光らなかったか? 具体的にはさっき男の攻撃が当たった辺りの箇所が」

「え、そうなの?」


 オリヴィアさんにそう言われたけど、鞘の方に意識がいっていた全く気が付かなかったな。


『ふむ。それが真なる聖剣と鞘の効果なのかもしれんな。真なるというくらいだから、何かしら特殊な効果があってもおかしくなかろう』

「なるほどな。その聖剣がエクスカリバーなら鞘が光ったのは治癒効果が発動したのかもしれないな。

 エクスカリバーの鞘は持ち主のあらゆる傷を癒すと聞いたことがある」


 シロの予想にオリヴィアさんが頷きながら僕が拾い上げた剣と鞘を見ていた。


 僕は〔替玉の数珠〕を身に着けていたから戦いで怪我したわけじゃないけど、ダメージを受けた箇所に対して治癒効果が発動したってことかな?


『フ、フヒッ。今回はたまたま上手くいったかもしれないけど、次はこんなふざけた勝ち方ができると思わない事ね』

『いえ、毎回こんな勝ち方とか普通に嫌なのですよ』


 僕だって微妙だと思っているんだから、味方にマジレスで嫌がられるとさすがに凹むよ?


『つ、次の試練はあの扉の先よ。死にたくなければUターンして自分達の恋人のところに戻るといいわ』

「僕はともかくシロの恋人、というか夫は君が拉致監禁してるじゃん」


 むしろクロを取り返しに来たというのにどうして帰らないといけないといのか。


「鹿島先輩はともかく私には恋人などいないぞ」

『ワタシもなのです』


 そうか。オリヴィアさんとアヤメに恋人はいないのか。

 ……あれ? 今なんかおかしな思考だったような?


『あなた達は恋人がいないのならそこの男の子達に対して何も思わないの?』

「何がだ?」

『ご主人さまやママに対して何を思えと?』

『す、少しは嫉妬しなさいよ』


 オリヴィアさんとアヤメの発言にサラが悔し気な表情を浮かべており、その様子から何かを狙っているであろうことが分かった。

 おかしな思考になっているのも“嫉妬”か【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の力のせいなのかもしれない。となると――


「“嫉妬”の魔女だし、少しでも嫉妬すればそれが増幅して仲違い、か」

『な、なんで分かったの?!』


 ただの当てずっぽ、いやまあ今まで何人もの魔女と相対してきた経験からそうなんじゃないかな~と思っただけだけど、どうやらドンピシャで当たりだったようだ。


「そんな企みがあったのか。だが残念だったな。鹿島先輩がハーレムを築いていることなど百も承知だからそれに対して嫉妬などしないな」

『まだ生まれて数カ月のワタシには恋とか愛とか言われてもよく分からないのです』


 幸いにも2人が嫉妬でおかしくなることはないようだ。


 それにしてもこの試練、僕らだからこの程度で済んでいるけど、サラに囁かれるだけで嫉妬が増幅して一気にパーティー崩壊しかねないとか、難易度の高い試練だなぁ。

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