第12話 そういえばあったわ、そんな機能

 

 衝撃的な話を聞かされた翌日、何とかクラスの男子から逃げきれたので無事文化祭に参加できそうだと安堵しながら校門前でいつも通り登校してくる人に挨拶を先ほどまでしていた。


 はぁ。ソフィアさんとは恋仲でもなんでもないんだから、あんなに執拗に追いかけなくてもいいのに……。


 それはともかくオリヴィアさんからのお願いに関しては、話を聞いた後とりあえず保留というなんとも玉虫色の日本人らしい回答をした。

 なんせ今のところそんな依頼は来てないし、僕だけで決めていいことではないからね。


 だからその事を伝えようといつもの朝の挨拶を仕方なく早めに切り上げて、乃亜達3人と人気のない場所で合流したわけだけど、合流した矢先に悲し気な顔を僕に向けてきた。何故?


「……先輩」

「蒼汰……」

「蒼汰君、浮気はダメ」

「昨日の風評被害が今日になって返ってきた!?」


 いや、昨日もその風評被害で追い掛け回されてるから、通り過ぎたと思ったらUターンして戻って来ちゃったよ!?


「誤解なんだけど!」


 ソフィアさんに屋上で迫られたり、オルガにトイレで密着されたり、オリヴィアさんに壁ドンされたけど誤解なんだ。

 ……………………ご、誤解だ!


 心当たりがありすぎて誤解だと言い切れなくなってきたのが悲しい。

 でも彼女たちに対して一切恋愛感情を抱いていないし、その気持ちは僕に好意を向けてくれている乃亜達だけに向いているのだけは間違いない。

 なんとか誤解を解こうと少し焦りながらなんて言ったものかと考えていたら、予想外のことを乃亜は口にしてきた。


「でも先輩。昨日ソフィア先輩にチャイナ服を着せてお姫様抱っこで校内を徘徊していましたよね」

「言葉のインパクト!」


 その言葉だけ聞いたら、僕がコスプレ趣味をソフィアさんに押し付けた上に姫ポジションを満喫している事になってしまうよ?


「あれは暴走したクラスメイトから逃げるためにソフィアさんが協力してくれただけで、やましいことは何一つないよ……」

「そう……。でもそれじゃあなんでにチャイナ服なんて着せたのよ」

「え、だってチャイナ服なら脚力が20%上がるし、逃げるのにちょうど良かったから」


 あれ? お姫様抱っこより、コスプレさせた方を問題にしているような……。


「蒼汰君、咲夜達以外の人にあの服を着せるのはどうかと思う、よ?」

「えっ?」


 一瞬咲夜に何を言われているのか分からず、頭が真っ白になってしまった。


「咲夜先輩の言う通りです。確かに先輩の能力ですし完全に同じ服とは言い難いですが、それでもあれはわたし達と先輩が苦難を乗り越えてきた思い出の服と言っても過言ではありません。

 ですから緊急事態以外では他の人に着せるのは控えて欲しいです……」


 乃亜にそう言われてようやく僕は得心がいった。

 僕はあのコスプレ衣装が個人個人にアジャストするから同一の物だという認識が薄かったけれど、乃亜達にとっては同一の物であり思い出の品なんだ。

 それを乃亜達以外の女性に着せるのはあまりいい気分がしないのだろう。


 その事を理解できた僕はすぐさま乃亜達に頭を下げて謝ることにした。


「ゴメン。今後は他の人に使わないようにするよ」

「分かっていただけたのなら嬉しいです。

 もう、ダメですよ。先輩の[チーム編成]は人のスキルを調べられるのですから、そういった意味でも他の人とパーティーを組むのはよくないです。よくソフィア先輩はパーティーを組んでくれましたね」

「………………あっ」

「あっ、って、もしかして蒼汰、自分のスキルなのに効果を忘れてたの?!」


 冬乃が呆れ驚いた表情を僕に向け、僕は自身のやらかしに思わず頬が引きつってしまう。


「つ、使ってない機能だったからすっかり忘れてた」


 言われてみればそんな効果もあったよ。

 乃亜達とパーティー組んだ時、[チーム編成]の効果の1つである〈スキル〉でパーティーを組んだ相手のスキルや効果を見る事が出来ると伝えたら、見ないようにして欲しいって言われたから、その機能を一度も使った事がなくて存在すら忘れていた。


「さすがにそれはマズいんじゃないかしら? ソフィアさんが後でその事を知ったら、コッソリ自分のスキルを盗み見たと思われるかもしれないわよ」

「や、やっぱり?」


 ヤバい、どうしよう。

 乃亜達と和解(?)できたと思ったら、今度は別の問題が発生していたとか今日は厄日か!?


「ここは素直に謝っておくべきじゃない、かな?」

「そうだね。咲夜の言う通りだ。教室に行ったらすぐにこの事を伝えて謝ることにするよ」

「信じてもらえますかね?」

「分からないけど、言わないで後から発覚する方が問題だと思うからキチンと謝るよ」


 乃亜が心配そうにこちらを見つめてくるけど、とにかく謝る以外に出来ることはない以上どうしようもない。


「やっちゃったわね蒼汰。まあ蒼汰が何発か打撃を喰らうのはともかく――」


 スキルは見てないんだし、せめてビンタで済ましてくれないかな?


「何の用事で私達を呼んだの?」

「あ、うん、え~っと……」


 さっきまでの話の衝撃が大きくてなんで呼んだのか忘れかけていたけれど、オリヴィアさんのお願いについてだった事を思い出せたので昨日の話を3人に伝えた。

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