第11話 ハニトラ!! あれ?
「あの、オルガさん?」
「……オルガでいい」
年上の女性に対して呼び捨てとか……咲夜に対しては割と早い段階で呼び捨てだったから別にいいんだけど、それよりも今の状況だ。
「何故僕らはここに?」
「……誰も来ない」
今、僕らがいる場所。
それは女子トイレの個室だ。
しかも特別棟の理科室なんかがあるような授業とかでしか使わない部屋ばかりの建物のため、オルガさん、いやオルガの言う通り確かに誰も来ないから、大樹達から逃げている今は非常にありがたいし、ソフィアさんやオリヴィアさんのいざこざにも巻き込まれる心配はない安全な場所である。
……僕が社会的に死んでしまいかねないこと以外はね!!
いくら逃げたかったからってここはマズイでしょ?!
「……座って」
「え、いや、それよりここから出ないと」
「……座って」
「座ってる場合じゃ」
「……座って」
「エンドレス!」
ダメだ話が通じない。
強引にここから出ようにも意外とオルガの力が強くて、その小さい手に掴まれている僕の腕を振りほどいて外すとか出来そうにない。
というか全く動かないんですけど、その小さい身体にどれだけのパワーがあるんですかね?
僕はオルガに促されるまま渋々洋式トイレのフタの上に座ると、何故かそのままオルガは僕の上に座って来た。
「ちょっ、何してるのオルガ?!」
僕の抗議には全く耳も貸さず、オルガはその背中を僕に預けるようにもたれかかってきて密着してきた。
「……温かい」
なんというマイペース。
少しは人の話を聞いてくれませんかね?
「……これ、好き」
そう言ってオルガは体の向きを横向きに変え僕にすり着くように顔を僕の胸板に当てると、そのまま目を瞑って寝息を立て始めてしまった。
……え~、どういう状況?
オルガを抱えてトイレから出ようものなら、それを見られた日には社会的抹殺確定だしどうしたものか。
〔絆の指輪〕で乃亜達を呼ぶのも、もしまだ文化祭の準備をしていたら悪いし、そもそももたれ掛かられてるだけだから大した事ないと言えば大した事ないんだけど……。
うん。さすがにこの状況は乃亜達に悪いし、やっぱり呼ぶか。
大樹達が諦めて帰るまでここで待つという選択肢も無くはなかったけど、この体勢でそれはない。
さて呼ぶか、と思った瞬間、ムクリとオルガが少し身体を起こして密着していた姿勢から僕の膝に座っている程度の体勢になった。
膝に座っているのだけでも十分あれではあるけど、これならさっきよりはマシか。
「……襲う?」
「急にどうしたの」
唐突すぎて問いかけることしかできないよ。
「……そう」
スッと僕の膝に座るのを止めて立ち上がると、そのまま女子トイレから出て行こうとしたので、さすがにここに1人残されるのはマズイので慌ててオルガの背中についていく。
「おっ」
「あっ」
女子トイレから出た瞬間、廊下の向こうに1人の処刑人と目が合ってしまった。
「いたぞーーー!! 今度は別の美少女とイチャコラしてやがったーー!」
「風評被害!?」
事実無根、とは言い難いけれど、少なくともやましい気持ちなんか1つもなかったのに!
僕はオルガを置いて処刑人がいるのとは反対側へと走り出す。
しかし多勢に無勢とはこのことなのか、すぐに別の処刑人が現れて僕は幾度となく方向転換を余儀なくされてしまい、徐々に追い込まれてしまった。
「くんくん、リア充の臭え匂いがこっちからしやがる」
「リア充は悪。リア充は悪。リア充は悪」
「安心しろ鹿島。動画の準備は十分だぞ……」
今は姿が見えないけれど、こちらの不安を煽るような声が聞こえてげんなりとしてしまう。
やばい。そろそろマジで捕まりそうだ。
「おい、こっちだ」
「見つかった!? ……あれ、オリヴィアさん?」
「早く来い。捕まったらマズイのだろ?」
「あ、うん」
オリヴィアさんに促されるままについていくと、幸いにも処刑人達と遭遇する事なく校舎裏まで逃げる事が出来た。
「助かったよオリヴィアさん」
「気にするな。私も鹿島先輩にお願いしたいことがあるんだ」
なんだろうと思った時にはオリヴィアさんに壁ドンされていた。ヒェッ。
「私は駆け引きなど苦手だから単刀直入に言わせてもらう」
「な、なんでしょう……?」
「もしも鹿島先輩達に外国からダンジョン攻略の依頼が来た時、我が祖国、イギリスから先にその依頼を受けてもらえないだろうか?」
「はい?」
想定外のお願いに僕は首を傾げざるを得なかった。
「鹿島先輩はイギリスがどうなっているかご存じだろうか?」
「えっと、ゴメン。あまり詳しくは知らないな」
「そうか。なら簡単に説明させてもらうと、滅亡一歩手前くらいにヤバい状況だ」
「簡潔にとんでもないこと言われた!?」
「もちろん国は国民に現状問題ないと言ってはいるが、一歩間違えればお終いだ。なんせ
鹿島先輩はイギリスのSランクダンジョンがどんなダンジョンか知っているか?」
「
「ああその通りだ」
もっとも攻略が難しいダンジョンと言われていて、Aランクのボス相当の相手がモブエネミーとして巡回しているふざけたダンジョンだ。
同じSランクなのに〔スケルトンのダンジョン〕とはえらい差だよ。
「今は【
だから頼む。もし依頼が来たらイギリスを優先してくれないか?」
「なんでオリヴィアさんがそこまで……」
「ん? 気付いてなかったか? 私は、いや私だけでなくソフィア・グティレスもオルガ・ポポワも、君らを勧誘するためにこの学校に転校してきたんだぞ?」
「え、マジ?」
ここで僕はようやく別々の国から3人も同時期に転校してきたのには理由があったのだと知った。
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