第10話 ようやくハニトラですよ、ハニトラ。……ハニトラ?

 

「日本の学生は面白いね。嫉妬で人を追いかけ回すなんて普通じゃないよ」

「日本の学生全てがあんなんだと思われるのは他の学生が可哀想だから止めてあげてね」


 さすがにあんな特殊なのはうちのクラスの人間だけだと思いたい。


「まっ、さすがにここなら見つからないだろうし、しばらく時間を潰したら帰ろうか」


 ソフィアさんにそう言われて僕は頷いた。

 確かにここにいるとはあいつらも気が付かないだろう。

 なんせ僕らは今、屋上にいるのだから。


 本来であれば入ってはいけない場所であり鍵がかかっているのだけど、チャイナ服を着て脚力が強化されたソフィアさんは、僕を抱えた状態で窓枠や渡り廊下の屋根などに飛び移って屋上まで上がってきてしまったのだ。

 そのせいで僕はソフィアさんの助けなしでは屋上から脱出ができないという困った状態になっているわけである。


 ……あいつらとっとと諦めて帰ってくれないかな。いつまでも女の子と屋上で2人っきりの状況はちょっと気まずいものがあるんだけど。

 主に乃亜達に浮気とか言われないかが心配だ。


「ふふっ、2人っきりだね」


 ちょうど僕が思っていた事をソフィアさんも思ったのか、それを口にしてきた。


「下は少しばかり騒がしいけどね」


 遠くから「どこだ蒼汰ー!」と叫ぶ大樹の声が聞こえてきてるよ。


「……やれやれ、自慢じゃないがワタシは結構容姿が整ってると自認しているのだけど、ソウタはあまりワタシに関心がないのかな?」

「急にどうしたの?」

「反応が淡白というか、他の人達と違ってワタシにあまり関心がないよね」

「まあ彼女(?)がいるし」


 彼女と呼んでいいかは微妙な関係ではあるけれど、告白され返事もしている上に将来は結婚までいくことがほぼ確定してしまっているので、むしろ彼女以上と言ってもいいかもしれない。

 ……おかしいな? 数カ月前までは彼女を作ることすら考えたこともなかったのにどうしてこうなったんだろ?

 嫌ではないし、乃亜達ならむしろ……という想いはあるので問題はないのだけど。


「ふ~ん(女をとっかえひっかえしてるわけじゃなく、どちらかと言えば惚れた相手に一途なタイプと。……なんでハーレムが出来てるんだろ?)」


 僕の答えに何やらソフィアさんは考えだし始めたけど一体どうしたんだろうか?


「それじゃあワタシのことどう思う?(一途なタイプに色仕掛けとか無謀だし、そもそもハニートラップとか期待されてないんだけど、せっかくのチャンスを逃すのは惜しい。このまま畳みかけて――)」

「出会ったばかりの転校生」

「もっと何かないの!?」


 ソフィアさんが信じられないものを見るかのような目で見るんだけど、そんな事言われてもなあ。


「これでも見た目には自信があるんだよ! 他の男子なんか胸や足、そして顔を舐める様に見るのに、ソウタは全くそういう目で見ないのはどうなの?!」


 そういう目で見られる方が普通嫌なのでは?


「なんか女のプライド的に傷がついた」

「いやそんな事言われても……」

「もういっその事キセイジジツ?を作って責任とってもらうしかないね」

「どんな結論?!」


 意味をちゃんと理解して言っているのか、って、服をはだけ始めたから知ってそうですね!


「落ち着こう。もっと自分を大切にするべきだよ」

「ワタシは十分落ち着いているさ。さっきも言った通り他の男子、いや、今まで会って来た男の中でワタシに性的な目を向けてこなかったのはソウタくらいのものでね。

 そこそこ好感を持っているんだよ」

「だからっていきなり既成事実は間違ってるんじゃないかな!?」

「安心してソウタ、テンジョウノシミを数えていれば終わるから」

「ここ屋外なんですけど!?」


 天井存在しませんよ!


 ヤバい。これはもう乃亜達の誰かを〔絆の指輪〕で呼ばないと……。


 ――ドガンッ!


 そう思いながら徐々にソフィアさんに近づかれて焦っていた時、突然屋上の扉からけたたましい音が鳴り響いた。


「はあっ!」

「ちっ」


 何故かほうきを持って現れたオリヴィアさんがソフィアさんに向かってそれを振るっていた。

 ソフィアさんはそれを躱し、即座にそちらを警戒しだす。


「全く、油断も隙もないとはこのことだな」

「オリヴィア・ローズ・ウォーカー……」

「その男を篭絡するのが手っ取り早いと思っているのだろうが、私の目の届く範囲でそう容易くいくと思わないことだ」

「そういう君だってワタシと同じだろうに」

「一緒にするなよ。私はそのような卑怯な手を使う気は毛頭ない!」


 なんの話だか分からないけど、なにやら2人は敵対している、というよりはライバルとか競争相手とかいう言い方がしっくりきそうな感じの雰囲気を醸し出していた。


 ――クイクイ


 さてこの状況どうしたものかと考えていたら、急に袖を引っ張られるのを感じた。


「ん?」

「……こっち」


 いつの間に来たのか、今度はオルガさんが現れ僕の袖を掴んで付いて来るように促されてしまった。

 確かにここにいるとなんか巻き込まれそうな感じだし、ここはオルガさんに従ってこの場から離れた方が良さそうだね。


 僕はその結論に至り、オルガさんと共にこっそりと屋上を後にした。

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