第5話 狂気に満ちた目が……あれ?

 

「おいおい、なんで犯罪者なんかこんな所に連れて来てるんだよ。しかもそいつ手錠してるってことは、刑期を終えたわけでもない奴なんだろ?」


 金髪の男の人が有り得ねえとでも言いたげな口調で、片瀬さんを微妙な目で見ていた。


「確かに君の言う通りだが、この件は国にとって重要な案件だ。

 たとえどんな人物であろうとも、この作戦に有用であるのであれば登用しないわけにはいかない」

「だからって、そいつがいつ逃げ出したりこっちに攻撃してくるか分かったもんじゃねえか」

「そうよね。それにその人、確か殺人で捕まったんじゃなかったかしら? そんな人と一緒にダンジョンには行けないわよ」


 金髪の男の人やOL風の女の人以外にも口には出さないが、共に行動することになりそうなことに顔をしかめていた。


「その点に関しては心配ない。彼女以外にも有用な能力を持つ者に[精神鑑定]や[読心]のスキルなどを使用しながら、害意のあるなしや嘘をついていないかなど確認しつつ、この作戦に参加させられるか確認したからな。

 彼女のみ再犯や他者への危害を加える可能性がなかったので、減刑を取引にこの作戦に参加する事を持ちかけたところ、減刑を拒否し、自身の罪は償うがそれが人の為になるのならば参加すると言った。

 ちなみにこの言葉にも当然嘘は無く、本心からの言葉だったことは確認している」


 え、それ言ったの、本当にその人ですか?


 僕らが知っている片瀬美琴は赤ちゃんプレイを強要してくる上に、片瀬さんの望む赤ちゃんじゃなかったら殺そうとするらしい狂気の人物ですよ?


「しかし諸君らの懸念はもっともであり、共に戦うのには不安があると思うので、彼女は我々と共に矢沢君を守ってもらう。

 彼女の所持している【典正装備】、〔桃源鏡エンドレス デイリー〕の効果は人型の生物を幼児化させる能力を持つが、残念ながらこれは彼女のレベルより100以下の人型の生物にしか効果はない。

 だが彼女は〔桃源鏡エンドレス デイリー〕の〔典外回状〕を使用でき、その効果は相手を強制的に夢の空間に閉じ込めることができるもので、仮に武将が来ても1体は確実に封じ込めることができる」


 そう聞くと、片瀬さんが矢沢さんにその力を使って夢の空間に閉じ込めた結果、矢沢さんが寝てしまって蘇生できなくなる事が想像できるけど、それはあり得ない。

 先ほど白鷺三尉が言っていた[精神鑑定]のスキルは、本人ですら自覚していない感情すらも読み取る事ができるため、たとえば3人の幼なじみの内2人が付き合いだして、もう1人が祝福している内心でほんの僅か無自覚に嫉妬していたとしても、その感情すら鑑定できてしまうほどのものだ。


 さらに[読心]のスキルで、本人が善意のつもりであっても他者に危害となる結果になるかを読み取っている上に、それで嘘の判別などして確認しているようだし、他にもいくつかのスキルで確認していると言ったので、本当に片瀬さんは誰かに危害を加えるつもりはなく、人の為にこの作戦に参加するつもりのようだ。


 ちなみにこれらのスキルの販売は禁止されていて、取得してしまった場合すぐに届出をしなければ違法になるくらい厳しく扱われている。


「彼女の能力は後で全て開示するが、彼女が矢沢君に危害を加える可能性は[精神鑑定]などで0だと分かっているし、その上彼女では彼を傷1つつけることはできない。

 その理由として、彼は自身以外誰も入れず攻撃されない空間を創れるからな」


 派生スキルの[ライブステージ]のことだね。


「そんな空間が創れるなら守る必要なんてないんじゃねえか?」

「いや、諸君らをもしも復活させた時、目の前に武将がいることになるのは避けた方がいいだろう。

 それに誰も入れず攻撃されない空間であっても、精神を操る類の力を使われて操られる可能性がある以上、武将が万が一来た時退けられる戦力は必要だ」


 それは確かに。

 僕らが相対した上杉謙信は鬼限定だけど操れる力を持っていたし、他にも似たような力を持っている武将がいてもおかしくないか。


 周囲を見ると大抵の人は[精神鑑定]を使用したくだりで納得しており、戦力が必要な理由で全ての人間が片瀬さんの参加を認めていた。

 僕らを除いては。


 いやだって、警戒するなって方が無理でしょ。

 この人と一緒にいた人達に襲われたことがあるのに、いくら[精神鑑定]されたからって警戒を解くことはできないよ。


 それは乃亜達も同じようで、かなり険しい顔で片瀬さんを見ていた。

 そして片瀬さんもジッと僕らを、というか僕を見ていた。


「……赤ちゃん?」

「ひっ!?」


 [精神鑑定]が本当に仕事をしたのか怪しくなってきたんですけど!?


 首を傾げて僕を見続ける目が……あれ?

 前はもっと狂気に満ちた目をしていた気がするのだけど、今は何というか、その、普通だ。


 赤ちゃんにされた時はねっとりとした目で見られていたはずなのだけど、今は穏やかな目でこちらを見ているだけで、特に何かをしようという感じには見えない。

 あの時は僕が赤ちゃんだったからだろうか?


 でも赤ちゃんになる前に遭遇した時から、すでに狂気が全身を包んでいたかのような雰囲気を醸し出していたのに、今はそんな雰囲気は微塵も感じられない。

 もう片瀬さんによく似た人と言われてもおかしくないレベルなのだけど、一体何があってこんなにも様子が変わったのだろうか?

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