第6話 ホント誰だこの人
片瀬さんを紹介した後、出てくる武将やその能力についての解説、さらには〔スケルトンのダンジョン〕の中の様子や出てくる魔物の種類と能力の説明があり、当日の動きなんかの説明が終わった後解散となった。
少し時間が長かったように感じたけれど、終わってしまえばあっという間だったように思える。
――ジィー
うん、長かったと感じていた理由はこの視線なんだろうけど。
説明されている間、片瀬さんがずっとこちらに視線を向けてくるせいで、正直気が気じゃなかった。
幸いにもダンジョンに潜る時には一緒に行かないからいいのだけど、何故こんなにもこちらを見てくるのかと問いかけたい。
「それにしても片瀬さんが参加するのであれば、先に言っておいて欲しかった……」
「そうですよね。こういうところは何というか汚い大人な感じで嫌ですね」
「普通有り得ないでしょ。被害者と加害者が同じ作戦に参加するなんて。しかもまだ3カ月も経ってないのよ?」
「……ノーコメント」
まあ咲夜も僕らを襲った実績があるので何とも言えないか。
だけど咲夜は殺す気なんてなくて殴り合って仲良くなるのが目的だったのに対し、片瀬さんは正気でなかったにしても殺すのが目的だったことを考えると、到底咲夜と同じだとは思えないよ。
何とも言えない気分のまま僕らは会議室を後にしようとした時だった。
「すいません。少しよろしいでしょうか?」
「っ!」
急に声をかけられたせいで思わずビクリとしてしまった。
声の方を振り向くと、片瀬さんを連れてきた警官2人の内1人の女性警官が僕らに声をかけにきていた。
「えっと、なんでしょうか?」
「実は彼女、片瀬があなた方と話がしたいと言っていまして、ほんの少しでも構いませんのでお時間よろしいでしょうか?」
よろしくないです。
「いや、話がしたいと言われましても、わたし達と彼女の関係は知っていますよね?」
乃亜がそう問いかけるけど、これで知っていなかったら警官を止めた方がいいか、警察という組織そのものの改善が必要だと思う。
超法規的措置で刑務所の外に出ているのに、その人物について何も知らない人が監視役とか有り得ないはずだ。
「はい。彼女があなた方に仕出かした事は存じております。ただそれを踏まえて彼女と話をしてみてくださいませんか?
おそらくですが、あなた方の知る彼女とは別人のように変わっているはずです」
確かに以前であれば赤ん坊を探して彷徨い、出会った直後に問答無用で〔
「なんだか気味が悪いですね。どうしますか先輩?」
「あーうん、どうしようか?」
「話すか話さないかは蒼汰が決めるといいわ。あの人から一番被害を被ってたのは蒼汰だし」
「蒼汰君、赤ちゃんにされてたもん、ね」
うっ、脳裏によみがえる事件後の赤ん坊としての生活の記憶ががががが。
まあそれはともかく、片瀬さんと話すか話さないかだけど、どうしたものか。
話をせずに距離を取るのは簡単だけど、それではこの微妙な心のしこりとでもいうか、片瀬さんの雰囲気が以前と変わったことに対する疑問は解けない。
[精神鑑定]とかで刑務所の外に出しても大丈夫と判断されたのなら危害を加えてくる事はないはずだし、今なら人の多い中で話せるから何かあっても対処できるはず。
危害を加えてきた相手とできるだけ関わりたくない気持ちも大きいけど、ここは相手の様子を探らないと安心しきれない。
「よし、話してみよう」
嫌だなー、できればこのまま立ち去りたいなーという気持ちを押し込んで僕は乃亜達と共に片瀬さんの方へと向かう。
近くで見る片瀬さんはやはり以前とは違い、特に目が狂気に満ちていない。
「申し訳ございませんでした」
僕らを前に深々と頭を下げて片瀬さんが謝ってきた。
ホント誰だこの人。
そう口から出かかったのを必死に押しとどめ、なんて言おうか悩んでいたら向こうからさらに言葉が続いた。
「私が今までしてきたことは朧気でよく覚えていないけれど、あなた達に迷惑をかけてしまった事はあなた達を見てハッキリと思い出したわ」
以前までの片瀬さんが夢遊病患者だとしたら、今の片瀬さんは夢から完全に覚めた感じであり、理性と知性が感じられた。
「言い訳になってしまうけど、ある出来事で夫と子供を亡くしてしまって、あの時までずっと心を病んでしまっていたの」
「あの時?」
「あなた達に〔
あの時本当の夫と子供に出会えたの。
そして約束もしたわ。次にまた会える時までちゃんと生きるって」
何があったのか明確には分からないけど、あの夢を見せる空間で片瀬さんが正気に戻ることがあった事だけは理解できた。
「私が今までしてきた事は、覚えていないでは到底許される事ではないのは分かっているわ。
だから私はせめてもの償いにこの作戦に参加することに決めたのだけど、そこにあなた達がいた以上、何も言わないでなあなあで参加するわけにはいかないと思ったの。
多大な迷惑をかけた私が共に同じ作戦に参加する事が認められないというのであれば、私はこの作戦の参加を辞退しすぐにこの場を去るわ。
だけどもしも許してくれるのであれば、償いをする機会を与えてくれるのであれば、この作戦に全力で取り組んでいくわ」
つまり全ては僕ら次第であり、近くどころか同じ作戦にすらいて欲しくないのであれば今すぐにでもこの場を去るということのようだ。
「演技、であれば[精神鑑定]とかでそもそもここにいないよね。となると償うためってのは本心なんだろうけど、みんなはどう思う?」
「私は最後に少しだけこの人と戦っただけだし……。咲夜さんが一番この人とやり合ってたわよね?」
「咲夜は特に気にしていない。どちらかというと蒼汰君が一番の被害者」
「赤ちゃんにされてましたからね」
結局そこに行き着くんだね。
3人がどうするのかという目で僕を見てきた。
どうやら僕が決めなくてはいけないようだけど、先ほどの話を聞いて僕はもう決めていた。
「戦力は多い方がいいと思うので、作戦には参加してもらおうと思います」
「っ!! 分かりました。全力で事に当たります。
その、以前は大変申し訳ございませんでした。そして償いの機会を与えていただいた事に深い感謝を」
言い方は悪いけど、見ず知らずの人が被害があっていたと言われてもピンとこなかったのもあるし、僕らの被害は僕が赤ん坊にされただけだからね。
「あの、片瀬さん。1つ聞いてもいいですか?」
「はい。なんでしょうか?」
話の区切りはついたと思ったのだけど、乃亜が片瀬さんに何やら質問をするようだけど、一体何を?
「先輩を赤ちゃんにしていた力って、また先輩に使えますか?」
「え、それは私の方からは何とも……」
「何聞いてんの?!」
何で人を赤ん坊にできるか聞いたわけ!?
「いえ、先輩の赤ちゃん姿があれっきりというのは惜しいと思いまして」
「勘弁してよ……」
人に下の世話をされるのはもうコリゴリなんだよ……。
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