第22話 服? ああそいつなら今床で寝てるよ

 

「4階層ではまたゴブリンの種類が増えるんだよね?」

「はい、数こそ変わりませんがゴブリンソルジャーが出てくる確率が増え、さらには範囲攻撃をしてくる敵も増えるんです。

 じつはこの階層から出てくる敵が5階層で増えてくるので、前のパーティーではそのせいで些細なダメージも服に移って毎回全身がボロボロになってしまっていました。

 なので5階層以降に行く前にパーティーから追い出されることになったのです」

「大変だったんだね。まあ今回はそんな心配ないし、まだ4階層だから」

「ですね!」


 4階層へと早速様子見に来た僕らは、高宮さんに先導されて探索していた。

 前のパーティーに居た時は、5階層まで探索したことがあるので任せて欲しいと言われたので、高宮さん主導で行動している。


「あ、見つけましたよ先輩。1体だけでいるのでチャンスです」


 高宮さんが発見したゴブリンの武器は今までのゴブリンと違って、木の棒でもなければ剣でも弓でも楯でもなく杖だった。木の棒とニアミスしてないか?

 まあただの木の棒だと枝葉がついるのだけど、あのゴブリンが持っているのは木の棒になにやら小さな石みたいなのがついてる上に、ボロボロのローブに身を包んでいるので一目で違いが判るのだけど。


「あれがゴブリンメイジなんだね」

「はい。あのゴブリンは魔法を使ってきますので注意してください」


 僕らが素早くゴブリンメイジへと近づいていくと、向こうもこちらに気づいたのか杖の先端をこちらに向けてきた。


「使ってくる魔法はファイヤーボール一択ですがそれなりに数を撃ってきますので注意してください」

「分かった」


 高宮さんがそう言った直後、ゴブリンメイジの持つ杖の先端から炎の塊が3発放たれた。


「うわっ」


 僕に1発、高宮さんに2発飛んできて、僕はシャベルでなんとか弾き、高宮さんも大楯でその身を守った。

 しかしシャベルで弾いた時、散った炎がどうしても避け切れないためそれを受けざるを得なかった。

 受けると同時にビリッと服が破ける音が耳に聞こえてきた。


 火の粉程度であれば大した怪我にはならないけれど、それでも高宮さんの[損傷衣転]の効果が発動して袖口のところが少し裂けてしまっていた。

 なるほど、前のパーティーはこれの繰り返しで服がボロボロになるのが嫌だったのか。


 少し僕は納得しながらゴブリンメイジへと駆けていく。

 ゴブリンメイジはこちらが近づく前に何発ものファイヤーボールを撃ってきたけれど、僕らの行動を阻害しきるほどではなかったため、シャベルの一撃で沈んでいった。


「近づいたら大したことなかったね。使ってくる魔法の種類が多かったら厄介だっただろうけど、高宮さんが言った通りファイヤーボールしか撃ってこなかったから楽だったし」


 僕は魔石を拾いながらそう言って高宮さんへと振り向くと、何故かどことなく表情の暗い様子だった。


「どうしたの?」

「あの、いえ、その……先輩の服が……」

「ああうん、破れたね。高宮さんは大丈夫だった?」

「はい、わたしは大楯で体全体を守れますからこのくらいでしたら平気なのですが」

「それじゃあ良かった。もしも服が破れたら言ってね。すぐに直すから」


 どうしたのだろうか?

 何か言いたげな様子でモジモジとしているけれど、服が破れたから直して欲しいということではないのなら一体?


「先輩はいいんですか?」


 何がだろうか?


「服が破れてしまったんですよ?」


 そう言われてピンときた。

 前のパーティーでは[損傷衣転]で戦闘のたびに服がボロボロになるので追い出されてしまった高宮さんは、いくら僕がスキルで服が出せると分かっていても服が破れることを不快に思っていないか不安なのだろう。


 そう察した僕は上半身のプロテクターを外すとすぐさま破れたTシャツを脱いで床に捨てる。


「せ、先輩?」


 高宮さんはいきなり脱ぎだした僕に困惑しているけど、ダンジョン内はちょっと肌寒いので少し待っててほしい。

 僕はスキルでTシャツを取り出すと、すぐにそれを着て再びプロテクトを付けた。


「お待たせ高宮さん」

「きゅ、急にどうされたんですか?」

「高宮さん」

「は、はい!」


 僕は少しかがんで高宮さんに目線を合わせる。


「僕はこの通り服が破れても新しいのに交換できるから何も気にしなくていいよ」

「で、でも先輩――」

「ありがとね」

「え?」


 高宮さんが何かを言おうとしていたけれどそれを遮って僕がお礼を言うと、困惑気な瞳で僕を見てきた。


「高宮さんのスキルのお陰で僕は怪我一つしてないよ。たとえ些細な怪我でも次の日には影響が出るかもしれないから高宮さんのスキルは凄い助かるよ。だからありがとう」

「……はい、先輩」


 高宮さんの表情はまだ少し固かったけれど、服が破れても気にしていないことはなんとか伝わったのか笑顔を返してくれた。


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