第21話 本領発揮


 唖然としながら高宮さんの家族を見送った後、武器も届いたので早速多目的トイレへと向かった。


「それじゃあ先輩、よろしくお願いします」

「分かったよ」


 パーティーを組むのはいいけれど、僕の[チーム編成]のスキルはダンジョン内で使うには少々まずいので、先にトイレで済ませておかなければならなかった。


「うぅ、先輩が後ろを向いてくださってても一瞬だけのこととは言え裸になってしまうのは恥ずかしいですぅ」

「なんで裸になるんだろうね? パーティー解消した時のように一瞬で済めばいいのに」

「もしかしてこれも[ゲームシステム・エロゲ]の影響なんですかね?」

「人のスキルにまで影響を及ぼしてくるとか、もはや狂気じみた執念を感じるよ」


 そこまでして高宮さんをエロい目に遭わせたいのか。


「まあ考えていても仕方ありませんし、衣装の設定だけはどこかの個室で隠れてやれば問題ありません」


 少し達観しているような発言だった。

 ひと月もの間ハプニングに見舞われたのだから、そのぐらいの精神でないと乗り切れなかったのかもしれない。


 僕は違いはあれどデメリットスキルは大変だなと思いながら高宮さんと共にダンジョンへと潜った。

 僕らは1階層、2階層はほぼ素通りしてゴブリンソルジャーが出てくる3層へと向かう。


「前回先輩と一緒に3階層を探索した感じから言っていきなり4階層へと向かってもいいと思いますが、わたしの本来の武器を使っての戦闘の立ち回りを確認した方がいいと思いますし、時間もそんなにありませんので今日は3階層を探索して明日から4階層へと向かいましょう」

「そうだね。高宮さんが大楯を使うのであれば、僕もシャベルじゃなくてもっとちゃんとした武器を用意した方が良かったかな?」

「いえ、ゴブリン相手ですし、先輩のレベルでしたらシャベルでも一撃で倒すことが出来るでしょうから問題ないと思います」


 前に高宮さんと遭遇してダンジョンから脱出していた時は[チーム編成]の育成込みだったのに、今の会話はまるでそれが前提のようになっているけど、実は再びパーティーを組んで[チーム編成]でチームメンバーに登録したら、前回〔成長の種〕で育成した効果がそのままになっていたのだ。


 ある意味恐れていた事態が起きてしまった。

 いや、仲間が強くなるのは悪いことじゃないんだけど、懸念していた戦闘力の差がさらに広がってしまったので、下級生の女の子に頼り切りになってしまわないかが凄い不安なんだよ。


「あ、ゴブリンが出てきましたよ」


 そんな僕の不安をよそにゴブリンが現れた。

 高宮さんの指さす先に3体のゴブリンがおり、2体がソルジャーで残りの1体は何も武器を持っていない普通のゴブリンだった。


「「「ギャー!!」」」


 長い通路で遮る物が何もないため、向こうもすぐにこちらに気づいて向かって来た。


「任せてください先輩。まずはわたしが攻撃を引き受けますので、ゴブリンたちの注目がわたしに向いてる隙に仕掛けてください」

「わかった」


 僕はあえて高宮さんの陰に隠れるように少し身をかがめて位置取りし、目立たないようにした。

 高宮さんにゴブリンが攻撃したのちに、僕がすぐさまゴブリンを横から襲う手はずだ。


「「「グギャー!!」」」

「ふっ!」

「「「グギャッ?!」」」


 しかし僕が何もする間もなくゴブリンたちは吹き飛び、ピクピクと痙攣したのち光の粒となって消えてしまった。


「「………」」


 おかしい。

 高宮さんはあの大楯で攻撃を受け止めるためにゴブリンたちが攻撃してきた瞬間、力を込めて大楯を振っただけのはずだった。

 しかし攻撃したゴブリンの攻撃があまりにも軽すぎたせいか大楯の勢いは止まらず、まるで迫りくる壁のようになってしまい、見事ボーリングのピンのごとく吹き飛んだゴブリンたちはそのままやられてしまった。


 ……あれ、僕いらなくない?


「あ、[重量装備]の効果を忘れていました」

「そういえば前回はシャベルで戦っていたせいでそのスキルの恩恵はなかったんだっけ。

 でも実際に目の当たりにすると凄いね。その大楯、僕じゃそれで戦闘はし続けられないだろうし」

「20㎏ありますからね。ただわたしの場合はスキルで重さを全く感じませんけど」


 あのスキルの派生スキルとは思えない有能さ!

 だって下手すればもっと大きくて重い物だろうと振り回せるってことでしょ?

 まさすがにあまりに大きすぎるとダンジョン内で振り回せないし、身長よりも大きい物を振り回すのは大変だろうけど。


「威力自体も上がるので先輩のスキルも合わさって、この階層のゴブリンじゃ相手になりませんね」

「……なんだか自分がすごい足手まといなんじゃないかと思うようになったよ」


 スキルの効果を発揮するためだけの置物化しているのが悲しい。


「そんなことありませんよ先輩! 先輩がいるからこそわたしは負傷を恐れず動けますし、仮に先輩のスキルの補助がなくて今の動きが出来たとしても、わたし1人ではどこかで行き詰ってしまうのは分かり切ってることですから、先輩はぜっっったいに必要です!!」


 そこまで力強く言ってくれるのはとても嬉しいよ。


「だけど僕のレベルはまだ5だし、このまま4階層に行っても大丈夫かな?」

「大丈夫です。先輩はわたしが守ります」


 やだこの子カッコいい。

 でもそれ僕が逆姫ポジションってこと?


「それにわたしのスキルならダメージは服に移りますから、多少の無茶をしても大丈夫だと思います」

「ああ確かにね。服がボロボロになっても僕のスキルで直したり出したり出来るからどうとでもなるかな」

「ですです。なので試しに行ってみませんか4階層へ」


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