第20話 ハーレム家族


「ごめんなさい先輩。迷惑をかけてしまって」

「大丈夫気にしてないから。どちらかと言えば僕の友人の悪ノリのせいだし」


 一番の問題は、明日教室でどう乗り切るかだけど。


 なんとか大樹とクラスメイトの追跡を振り切って逃げだした僕らは、ダンジョン前にある冒険者組合のロビーに来ていた。


「それで先輩、わたしと一緒にダンジョンに潜ってはいただけませんか?」

「むしろこっちからお願いするよ。僕もパーティーを作りたいと思っていたから助かるよ」

「あ、ありがとうございます!」


 昨日は臨時で組んでたけど、高宮さんと僕のスキルの相性がいいのは間違いないし。

 ただ、寄生にならないかだけが心配だけど。僕が。


 ただでさえレベル差があるのに僕のスキルでさらに強化されることを考えると、傍から見たら自分よりも年下の女の子にばかり戦わせているクズに見える気がする。

 い、いや大丈夫でしょ。

 なんせ〔成長の種〕は残り50個しかないし、毎回毎回30個使うわけにもいかないからね。


「それじゃあ準備をしてきますので、10分後にロビーで待ち合せましょう」

「分かったよ」


 冒険者組合の施設には武具の預かりサービスがあるため、学校帰りに気軽に寄りやすいので助かっている。

 ダンジョンに行くたびに武器を持って歩くのは、いくらそうと分からないケースに入れて持ち歩くのでも心情的にはあまりよくないからね。


 まあ僕の場合は〔毒蛇の短剣〕だけが問題で、シャベルを持ち歩いていたところで何かを言われる心配はないだろうけど。


 いつも通りささっと着替えてプロテクターを身に着けてロビーで待っていると、すぐに高宮さんが現れた。


「先輩お待たせしました」

「いや僕も今来たところだから」


 高宮さんは昨日僕があげた服の上からプロテクターを身に着けていたけれど、何故か手ぶらで来ていた。


「あれ? 高宮さん武器は?」

「はい、もうすぐ着くとのことなので少しだけ待っていただいてもいいですか?」

「それはもちろん構わないけど」


 昨日大楯を無くしたのに学校から直接ここに来てしまったから当然持ってるわけない。

 どうやら家族に持ってきてもらっているようだ。


「乃亜、持ってきたぞ」


 しばらく待っているとガタイの良さそうな男性が片手で大楯を持ちながら入口から高宮さんに声をかけたので、背を向けていた高宮さんは振り向いてそちらへと歩いて行った。


「お父さんありがと!」

「おう。乃亜の頼みだから当たり前だろ」


 見た感じあまり老けている感じがせず20代後半くらいに見えるんだけど、高宮さんの年齢を考えると少なくとも30代のはず。なのに凄い若々しく見える人だなと思った。


「ところで乃亜。彼がパーティーメンバーか?」

「うん、学校の先輩ですごい頼りになる人なんだ!」


 はて? 頼りになるようなところを見せた覚えはないし、むしろ高宮さんの方がバッタバッタとゴブリンをなぎ倒していたような。


「そうかそうか、彼が……」


 僕が内心首をかしげていたらノシノシと高宮さんのお父さんがこちらにやってきて、その両手を僕の肩にバシンと置いた。


 痛いっす。


「分かっていると思うが乃亜をよろしく頼むぞ」

「……うっす」


 大樹とはまた違った雰囲気の野性味のある顔と眼力に押されて、イエス以外の選択肢が浮かばなかった。


「それから、いくらうちの乃亜が可愛いからと言って手を出そうものなら俺がお前をぶっ殺す!」


 目も発言も完全にヤのつく人になってますよ。


「いいか、絶対だぞ。絶対に乃亜には――ぐへっ!?」

「もう、何やってるのかしらあなた」

「ガキの恋愛に大人がとやかく口出すもんじゃねえだろ」

「の、乃亜ちゃんは可愛いし心配なのは分かるけど、若い子を脅すのは良くないと思うな」


 高宮さんのお父さんに対してどうしたものかと思っていたら、突然後ろから3人のタイプの違う美女がお父さんの頭と両脇腹に一撃入れて黙らせてくれた。


「亜美お母さんに柊お母さん、穂香お母さんまで来てくれたんだ」


 今、すごいこと言わなかった?

 え、この3人をお母さんって言ったよね?

 どう見ても20代前半にしか見えないこの3人が母親……。


「血のつながらない母親?」

「あん? あたしと穂香は確かに乃亜とは血がつながってねえが亜美は実母だぞ」


 ちょっとヤンキーっぽい感じの雰囲気の女性、柊さんがそう言うけどとてもじゃないけどそうは見えない。


「姉妹の方のつながりではなく?」

「あらやだ嬉しい。ねえねえ乃亜、これからはお姉ちゃんって呼んでくれてもいいのよ?」

「何言ってるの亜美お母さん!?」

「一応言っとくがこいつはあたしらと同い年だぞ」

「そ、そうですよ。こんなおばさんをからかってはダメです」

「……嘘でしょ。3人とも高宮さんとはせいぜい年の離れた姉妹にしか見えない……」


 ってことは少なくともこの3人、30代後半?

 いやそれよりももっと大きな問題として、3母親?


「すいません先輩。うちの親達が、と言うよりお父さんが先輩に絡んでしまって」

「いやそれはいいんだけど、3人とも母親って……」

「あ、はい。うちはお父さんがハーレムを作ったので父1人、母3人、子供が9人の13人家族なんです」

「へ~」


 初めてハーレム作った人たち見たよ。

 条件の資産のハードルが高いせいで富裕層しか作れないからね。

 そんな人たちと関わる機会もなかったし。


「むっ、お前、まさか乃亜をハーレムの一員にしようとでも企んで――ぐほっ!」

「はいはい、馬鹿な事言ってないで私たちは帰りましょ」

「気いつけて行って来いよ」

「け、怪我だけはしないようにね」

「うん、ありがとうお母さん達」


 初めて出会ったハーレム家族は、僕に凄いインパクトを与えて去っていった。

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