第19話 相性バッチリです!

 

「先輩、おはようございます」

「おはよう高宮さん」


 いつもの挨拶運動をしていると高宮さんがやって来て先に挨拶をしてきたので、僕もそれに返すように挨拶をする。


「お早いですね先輩。やっぱり早朝からここにいるんですか?」

「おはようございます。そうだね、部活の人にも出来る限り挨拶しておきたいから毎朝早く来てるよ。お陰で早起きが癖になって休日でも早起きするようになったけど」

「いいことじゃないですか。早起きは三文の徳といいますよ」

「おはようございます。休日くらいはのんびりしたいけどね~」

「それには凄く同意します。それでは先輩の邪魔をするわけにはいかないのでこれで失礼しますね」

「おはようございます。うん、それじゃあね」


 挨拶運動をしている僕を気遣ってか、少しだけ世間話をしたら高宮さんはすぐに立ち去って行った。

 それにしてもホントにこの学校の生徒だったのか。

 漠然と挨拶しているだけで顔を覚えて挨拶しているわけじゃないから、覚えられないのは仕方のないことかもしれないけど。


「おい蒼汰……」

「おはよう。どうしたの大樹?」

「どうしたのじゃねえよ! いつのまにハピネスちゃんと知り合いになったんだよ!?」

「おはようございます。ハピネス?」

「さっきお前と会話してた女の子のことだよ」


 高宮さんの名前は乃亜だからあだ名かな?

 まだ入学して2か月も経ってないのに、いつの間にそんなあだ名がついたんだろ?


「おはようございます。大樹は高宮さんのこと知ってるの?」

「むしろ知らねえほうがおかしいだろ!?」


 そんなに有名なのか彼女は?


「大樹、蒼汰の挨拶の邪魔になるし、こんな所で騒いでると迷惑だから後にしよ」

「うわっ、ちょ、いつの間に来たんだよ彰人。こら、くそっ、放せ……!」

「はいはい、教室行くよ」


 彰人が大樹の腕を掴んで引っ張っていてくれたおかげで挨拶に支障をきたさなくて助かった。

 だけど教室行ったら絡まれるんだろうなー。


「それでどう言うことなんだ!?」


 ほらね。


「何が?」

「とぼけんなよ。自分からは男に一切話しかけようとしないハピネスちゃんと、どうして仲良さげに喋ってたんだよ」

「昨日色々あったとしか。高宮さんの了承もなしに勝手には話せないんだよね。一言で言うならダンジョンで彼女の危ないところを助けたとしか……」

「っマジかよ。そうか、ハピネスちゃんも冒険者だったのか……。もっと頻繁にダンジョン行こうかな」


 すでに週5で行ってるのでは?


「ってことは蒼汰、お前昨日おいしい思いをしたんだろ! 話せ、話すんだ! 昨日はいったい何があったんだ!?」


 朝のテンションとは思えないその勢いには困惑しか覚えない。今話せないって言ったばかりなんだけどなー。


「落ち着きなよ大樹。今蒼汰は話せないって言ったばかりなのに、無理に聞き出すのはよくないよ?」

「うぐっ、だが気になるじゃねえか。あのハピネスちゃんと一体ナニがあったかをよ」


 今“なに”の発音おかしくなかった?


「ところでハピネスって、なんでそんなあだ名が高宮さんについてんの?」

「校門前でも言ったけどなんで知らねえんだよ。もうこの学校のほとんどの男子の耳には届いてるんじゃないかってくらい有名な噂だぞ」

「何故男子限定? って、いや、そうか……」


 あのデメリットスキルのせいか。


「おっ、その様子はやっぱり昨日いい思いしてんな。くっそ羨ましいぜ」

「高宮さんはかなり大変そうだったけどね。ちなみにどんな噂なの?」

「ハピネスちゃんのそばにいる男子はエッチなハプニングに巻き込まれるんだ」


 間違ってないね。


「入学して1か月の間に彼女自身も意図せぬエッチなハプニングが毎日起こるから、そんな彼女に敬意を表しいつしか男子に幸運を贈る者ハピネスと呼ばれるようになった」

「本人絶対認めてないあだ名じゃん」


 もし知ってたら涙目になって取り消しを希望するだろうな。


 あまりにも酷い彼女のあだ名に心の中で合掌し、大樹の追求をスルーして今日のダンジョン探索に思いをはせながら授業を受けた。


 ここ最近はダンジョンのことを考えているせいかあっという間に放課後となるなぁ。


 そう思いながら明日の授業で使う教科書を選別して机にしまっておき、またダンジョンに向かうかと椅子から立ち上がろうとした時だった。


「ハアハア、鹿島先輩! って、きゃ!」

「あれ? 高宮さ、んがっ!?」


 おそらく走ってきたであろう高宮さんがそのままの勢いでつまずき、そのまま僕の方へと倒れこんできたけど、座っていた僕が動く暇もなくその小柄にしては大きな胸が顔面へと直撃した。


「す、すいません先輩!?」

「いや、気にしなくていいから。分かってるから」

「ううぅ、ありがとうございます。いつも頻繁にあるから気を付けていたんですけど……」

「そんなに頻繁なの?」

「少なくとも昨日までは日に3度はありました」


 目のハイライトが無くなっていた。


「キツイね」

「そうなんです。ですが不思議と今日は全然なかったので油断してました」


 こんなのが少なくとも日に3回もあるとか、そりゃダンジョンに潜ってでも何とかしたいよね。


「ところで上級生のクラスにまで来てどうしたの?」

「先輩、一緒にダンジョンに潜りましょう!」

「パーティーのお誘い?」

「です!」


 僕に顔を近づけ是が非でもパーティーを組もうという強い意思を感じさせるほどの目力を見せていた。


「先輩とわたしの(スキルの)相性はバッチリです! 昨日は興奮してて思わず色々な事(※連絡先の交換及びパーティーへの勧誘)が抜けてしまいましたので、教室にまでお邪魔させていただきました」

「おい、蒼汰。今聞き捨てならない会話が聞こえてきたんだがどう言うことなんだ。ん?」

「誤解だと言ってちゃんと聞く耳持つ?」

「ハハッ。全て吐き出させるに決まってんだろ」


 大樹がかなりいけない感じの濁った眼で僕を見ていた。


「行くよ高宮さん!」

「わっ、ちょ、先輩?!」

「逃がすか蒼汰! 行くぞ、お前ら!!」

「「「おう! 裏切者には制裁を!!」」」


 三十六計逃げるに如かずだ。

 僕は高宮さんの手を取って、大樹及び無駄に連携のとれた他のクラスメイトから逃げだした。

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