第18話 育成の力

 

「凄いです先輩! 育成をしてもらっただけでこんなにも体が動くとは思ってもみませんでした」

「レベル8で例のスキル以外にスキルはないはずなのに、ゴブリンたちをサクサク倒すね」


 スキルなど色々教えあったのでせっかくだからとステータスも互いに見せ合ったのだけど、そのレベルよりも格段に動きがいい。


 ───────────────

 高宮 乃亜

 レベル:8

 HP(体力) :31/31

 SV(技能値):11


 スキルスロット(1)

 ・[ゲームシステム・エロゲ]

 →派生スキルⅠ:[損傷衣転]

 →派生スキルⅡ:[重量装備]

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 僕自身のスキルでも高宮さんのステータスでも、スキルは[ゲームシステム・エロゲ]以外にはないことは分かっているので、今の彼女は戦闘系スキルの補助は一切なく、せいぜい防御面で[損傷衣転]が働く程度のはずだ。


「僕なんてレベル5とは言え、アイテム使って不意打ちしてぎりぎり3体ゴブリンソルジャーを倒せる程度なのに……」


 高宮さんは本来の武器ではないため[重量装備]のスキルが発動せず、いつもとは違う戦い方を強いられているはずなのに、その3体のゴブリンソルジャーを正面から相対して大して負傷することなく倒していた。


「いえ、これは先輩のおかげですよ! 育成してもらう前でしたら大楯を使って辛うじて3体倒せる程度でしたけど、今さっきのように1分とかからず倒すことはできませんでした。まるでレベルが2、3上がったかのような感覚です!」


 高宮さんはピョンピョンと嬉しそうに跳んで、自身の身体能力が高くなっているのを実感しているかのようだった。


「〔成長の種〕が30個しか使えなかったのは残念だけどね」


 1個使っても誤差程度にしか感じなかったようなので、思い切って使ったらここまで成長してしまった。

 本当は残しておいてもしょうがないと思い、せっかくだから80個全部使ってしまおうとしたのだけど、30個使った段階で育成限界と出てこれ以上〔成長の種〕を使えなかったのだ。


「いえいえ、むしろそんな貴重な物を30個も使用していただいたのですから感謝の念に堪えませんよ」

「いやどうせ自分に使えないし。あ、服直すね」

「ありがとうございます。先輩が衣服を直してくださるので相手の攻撃を恐れずに動くことが出来るのも、簡単に倒すことができた要因でもありますね」


 僕がスマホを呼び出して衣装の箇所をタップすると、少し破けていた高宮さんの服は元通りに戻った。


「……服を直すたびに裸にならなくて良かったです」


 ボソリと呟いた言葉が耳に入ってきたけれどノーコメントでいよう。

 下手につつくと藪蛇になりかねないし。


「それじゃあどうしようか? 本当ならすぐにダンジョンから出ようと思ったけど3層なら余裕そうだし、無くした大楯でも探しに行く?」

「……いえ、帰りましょう。大楯を無くしてからそれなりに時間が経っていますから、おそらくダンジョンに取り込まれてしまったでしょうし」


 ダンジョンは自浄作用でもあるのか、ゴミを捨てても気が付いたら無くなっているので、そばに置いていない持ち物は残念ながら諦めるしかないと言われている。

 人がいるところでは消えないようなので、仮に戦闘中に荷物を置いたとしてもいきなり消えることはないので、よっぽどな事がない限りダンジョンに取り込まれることはないけれど。


「でもいいの? 大楯だしそれなりに高かったんじゃ?」

「大丈夫です。武器に固執しすぎて命を危険にさらしたら元も子もないから、予備を前もって買っておくのでその装備は使い捨てるつもりで使っていい、ってお父さんに言われてますから」


 凄いなそのお父さん。

 だって大楯ほどの装備だと最低でも15万くらいはするんじゃないかな?

 高宮さんの家は裕福な家なのかもしれない。


「それに今のわたしにはこのシャベルがありますから」

「ダンジョン出たら大楯にした方がいいけどね」


 せっかく[重量装備]のスキルがあるんだから、それが活用できる大楯の方が使えるだろうし。


「2人してシャベルで武装とかどんなチームだよって見られそうだし」

「ペアルックの武器版、とか?」

「ダンジョンでもそんなペアルック決めてるカップルいたら頭がおかしいと思う」

「あはは、普通は自分の得意な武器を使うものですからね」


 僕らは談笑しながら、遭遇したゴブリンを余裕で狩ってダンジョンの外に出ることができた。

 ……スキルの育成のせいで僕と高宮さんとの性能の差が大きく開き、レベル差も相まって僕が1匹狩ってる間に2匹狩っていたけど、そこは気にしないようにしよう。


「先輩、本日はありがとうございました」


 ダンジョンから出て冒険者組合の施設に戻った直後、高宮さんが頭を下げてお礼を言った。


「いや困ったらお互い様だし、他の人とまともにパーティーを組んだのは講習以外じゃ初めてだったから楽しかったよ」

「はいわたしも楽しかったです。それじゃあパーティーを……すいません、ちょっとこっちに来てください」

「えっ、何?」


 僕が高宮さんに引っ張られるように連れていかれた先は多目的トイレだった。


「すいません先輩。こんなところに連れてきてしまって」

「急にどうしたの?」

「いえ、パーティーを解消すると先輩のスキルがどうなるのかまだ調べてないじゃないですか」

「そう言えばそうだね」

「パーティーを解消した時って、今着ている服とかってどうなるんでしょうか?」


 ……あー。


「さすがにロビーで裸にはなりたくないです」


 涙目で訴えてくる高宮さんだけど、僕だって自分のスキルで後輩女子を公衆の面前で裸にしたとかいらない誤解を受けそうで嫌だよ。


「分かったよ。それじゃあ僕は後ろを向いてパーティーを解消するから」

「お願いします」


 僕は後ろを向いてパーティーを解消すると、後ろからポンッと武器や衣服のコピーを出した時のような音が聞こえた。


「先輩、こっちを向いていただいて大丈夫ですよ」

「高宮さん、どうだった?」

「懸念していた心配はなかったですね。一瞬煙に包まれましたけど服が無くなったりはしませんでした」

「それは良かった」


 パーティー解消する度に服が脱げるとかそんな噂でも広がろうものなら、僕とパーティーを組んでくれる人が誰もいなくなるだろう。今でもいないけど。


「ただパーティーを解消した直後、先ほどよりも体が重く感じるので育成していただいた効果もなくなってしまったのは残念ですけど」

「永続って訳じゃないんだね。あくまで強化されるのは僕のスキルが前提ってことか」


 [チーム編成]はなかなか面白いスキルのようだ。

 このスキルがあれば僕もほかの人とパーティーが組みやすくなるかもしれないな。


「今日はありがとね。おかげで僕のスキルがどういうのか確認できたよ」

「いえ、こちらこそありがとうございました。それではまた学校で」


 頭を再び下げて高宮さんは去っていった。

 彼女から今日のお礼にと魔石をすべてもらっているので、僕はそれを換金をしに受付へと向かった。


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