第42話 望まれない性癖

 

 そんな僕らの願いは――


「少し場所を移動することになった程度でホッとしましたね」


 と言うか、不安は杞憂に終わった。


「まあそれはそうよね。いくら討伐経験者でも、冒険者になって1年も経ってなくて、Fランクダンジョンまでしか経験のない私達が参戦するより、他にも討伐経験者がいるんだったらそっちに割り当てるわよね」


 考えてみれば当たり前な話なのだけど、可能性がなかった訳じゃないから不安に思うのはしょうがないと思う。


「ところで出て来た【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】ってどんなのなんだろうね」


 そして他人事になったからか、こんな話も気軽に出来る。


「ここのダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】は、性転換した戦国武将が出てくるそうですよ」

「何を考えて、そんなのが【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】として出て来たんだろうか」


 案外何も考えてなくて、適当にダンジョンが作ってるだけかもしれないけど。


「ごほんっ。そろそろ戦闘に参加していただくことになりますがよろしいでしょうか?」


 隊員の人が僕らに声をかけてきて戦闘準備を促してきたけど、この人の顔がやつれているように見える。

 僕らが休養をとっていた間、よっぽどここの戦線を維持するのが大変だったのかもしれない。


 あれから5時間ほどしか経っていないとはいえ、昨日よりもより強い敵が出ているのを考えると気を引き締めないと。


「白鷺三尉からお聞きしている通り、休憩時間は30分となり、30分は自分達のパーティーだけでここを守っていただきますが、残りの30分は他の冒険者の方と協力して敵を討伐していただくことになります」

「はい、分かっています」


 敵は強いのが出てくるかもしれないけど、参戦人数が多ければ昨日までの戦法も作りやすいだろうから、むしろ今日の方が楽かもしれない。


「そして申し訳ないのですが……」


 え、なに?


「皆様の戦闘能力が高いので、昨日まで交代していたパーティーではなく、昨日の段階から苦戦を強いられている他のパーティーと組んでもらいたいのです」

「マジですが……」


 まさかのここにきてパーティー変更。

 戦闘場所が移動することになったと聞いた時は、昨日まで同じ場所で戦っていたパーティーがそちらに移動することになったからかと思ったのに……。

 しかも組む相手が前より戦力が低いとか勘弁して欲しい。


「現在戦闘しているパーティーは元から3時からの参戦ですので、その方々への事情説明のため私も同行させていただきます。

 今は2つ目のバリケードのところで応戦しています。準備はよろしいですか?」


 そう問われたので僕は3人へと視線を向けると全員が頷いたのを確認した。

 冬乃にはメイド服を既に着てもらっているし、乃亜とのキスも既に済んでいるから準備は万全だ。


「はい、大丈夫です」

「それでは行きましょう」


 僕らは隊員の人に着いて行き、2つ目のバリケードに向かって駆けだした。

 バリケードへと近づいていくと、だんだん戦闘音が大きくなっていき戦っている人の叫び声も聞こえるようになってきた。


「こんなところで死んでたまるか! オレ達はハーレムを作るんだよ!!」


 ………どこかで聞き覚えのある叫び声だ。


『先輩、帰りません?』

『蒼汰、今すぐ回れ右してもと来た道を戻りたいわ』


 乃亜と冬乃の脚が若干遅くなったのが横目に見えた。


『気持ちは凄く分かるけど、ここで持ち場放棄はダメでしょ。既に1度それに近いことして叱られたわけだし』

『うっ、それはそうだけど……』


 冬乃は持ち場を交代する冒険者達が来る前に戻ったことを思い出してはいるけど、さすがに2度目はないと分かってはいても抵抗感が見えている。


『……どうしたのみんな?』


 咲夜を除いた3人の様子がおかしいと思ったのか、咲夜は不思議そうな顔でこちらに問いかけてくるけど、その答えはすぐ目の前にあるんだよ……。


「お前らが外にいると幼女が安心して外で遊べないんだな!」

「ケモミミ万歳!」

「むっ、年上が近づいてる気配が……!?」


 行きたくねー!

 性癖垂れ流しながら戦ってる奴らと一緒に戦いたくないんだけど!


 僕も脚の動きが自然と遅くなるのを感じながらも、しぶしぶそちらに向かって駆けていく。

 1人戦いながらでも無駄に性癖に刺さる気配には敏感なのもいるし、もう嫌だ。


「あ゛、交代にはまだ早いし合図もなかったって、蒼汰じゃねえか。どうしてここに?」

「出来れば来たくなかったと言っておくよ」


 僕の発言に乃亜と冬乃が強く頷いていた。


「戦闘中申し訳ありません。手短に申しますが、今からこちらのパーティーと共闘して敵の殲滅に当たってください。30分後に合図を出しますので、それを確認したら休憩に戻って来てください」

「おっ、おう。分かったぜ」

「それではご武運を」


 隊員の人は速やかに来た道を戻り、乃亜と冬乃がそれを羨ましそうに見つめる。

 こらこら、2人は戦うんだよ。


 2人の気持ちは痛いほど分かるけど、それを心の隅へと置いて大樹へと話しかける。


「いきなり連携とか無理だからこっちから半分はとりあえず僕らが受け持つよ。大樹達はそっち側をお願い」

「任せろ! お前ら、オレ達はこっち側だ。張り切って倒すぞ」

「ふはっ、いいところを見せねばならないんだな!」

「狐っ娘メイド!」

「アピールチャンスですね!」


 そっちの士気は上がってるんだろうけど、こっちの士気を下げるような発言は止めて欲しい。

 冬乃なんか尻尾と耳が垂れ下がって、見るからにテンションガタ落ちしてるじゃないか。

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