第13話 どこ……? 知ってる天井はどこ?

 

 天井。


 それは部屋で言えば上部を限る面だけど、ガチャにおいてはその意味が変わる。


 ガチャにおいての天井は上限設定のことだ。

 一定の回数ガチャを引いた時、特定のアイテムやキャラクターを確定でもらえる救済システム。

 昨今のソーシャルゲームにおいて大抵それが実装されているのだ。


 にもかかわらず――


『天井がないとか、僕らからどれだけ金をむしり取れば気が済むんだ!!』

『お金を取った覚えはないね』

『嫌ならゴーホームするニャ』


 くそっ! これが運営のやり方かよ!

 人間がやっていい事じゃないんだよ……!


『……それにしてもおかしいニャ。この場所から脱出するにはまず【アリス】を見つけないと出口は出現しなかったはずなのにいつの間に出入りできるようになったのニャ?』

『この空間が生まれてから数時間も経たない内に仕様が変わった気がするよ?』

『まあ少なくともここに人間が入り込んでから仕様は全く変わってないから問題ないニャ』


 ウサギと猫がどうでもいい会話をしているけど、そんな事よりも天井だ。

 それがあるのとないのとでは使う金額が一気に跳ね上がるというのになんたる鬼畜。


 僕を元にしてこの世界が創られているはずなのに、ガチャの排出率といい何故こんなクソみたいな仕様にしているんだ!

 まず真っ先に変えるべき仕様は出口ではなく天井の導入でしょ!


「……さすがに、それは違うと思う」

『出口よりも天井……』

「あっ、先輩が何を考えていたのか察しました」

「咲夜も分かった」


 オルガに心の中で考えていた事をツッコまれてしまったけど、そんな事を気にしていられないくらい、天井を導入していないクソ運営の罪は重い。


「天井についてはどうでもいいけど、オリヴィアがどうしてガチャを回したがっていたのかよく分かったよ。だからワタシもここから先は単独行動させてもらうね」

「え、ソフィア先輩? 一緒に行動しないんですか?」

「そうだね。もしも生き残るためやソウタを助け出す為だけなら協力して行動していたけど、死ぬ危険もなく【典正装備】が手に入るチャンスがあるっていうのに指をくわえて仲良く行動している場合じゃないんだよ。

 ……力があればあの時カティンカを取り逃がさなかった……!」


 迷宮氾濫デスパレードで襲撃してきたオルガの姉、カティンカはソフィアさんの兄について何か知ってそうだったし、ソフィアさんは逃がしてしまった時も苦々し気な顔で悔しそうにしていた。

 力への渇望は人一倍なのが分かってしまうし、ここで止めよとしたところでおそらくムダだろうな。


「悪いけどワタシも行くよ。とりあえず100連くらい出来るくらいポイントを貯めれば出ないかな?」


 ソフィアさんはすぐに走り去って近くの黒い渦に潜ってしまう。


『まあ競争相手と一緒に仲良しこよしでいられない気持ちは分からなくもないのです。

【典正装備】を手に入れられるのは4人だけであることを考えると、最低でも1つは〝鍵〟を入手しないといけないのです』


 確かにアヤメの言う通りか。

 もっとも確実を期したいなら〝鍵〟は2つ入手するべきなのだけど、2つも〝鍵〟を手に入れるのはこの〈ガチャ〉では相当難しいんじゃないか?

 確率0.01%を2回とか鬼畜設定過ぎて、普通のソシャゲなら大炎上の末に倒産までのレール1本道だ。


 さては引かせる気がないな?


「……【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】だから簡単にクリアさせる気がないのは当たり前」


 それは確かに。

 オルガにもっともな事を言われてしまってぐうの音も出なかったよ。


「【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】だからって言うなら、何だかこの〈ガチャ〉自体がおかしな気がするわね」

「え、冬乃先輩、何がでしょうか?」

「なんて言えばいいのかしら? 普通の【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】なら最低1パーティーで運よくクリア出来なくもないけど、この〈ガチャ〉は1パーティーじゃ到底不可能と言えばいいのか……。ごめんなさい。上手く言葉に出来ないわ」


 僕らで言えば【泉の女神】、はともかくとして【ミノタウロス】とかは時間をかければいける、か?

【織田信長】は信長ローリーを見つけられて運べて、かつ武将達全てに勝てる戦力が1つのパーティーに入れば……無理では?


『冬乃の言いたいことはなんとなく分かったけど、【織田信長】の時を思い出すと強力な【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】相手に1つのパーティーじゃどの道無理じゃないかな?

 それに運よくって言うなら別におかしくないんじゃない?

 一応0.01%ある上に死ぬ危険がここまでないなら、確率的には酷くても運さえあればクリアできるよね?』

「そう……なのかしら?」


 冬乃が難しそうな顔で唸っているけれど、考えたところで答えの出る問題じゃない気がする。


『そんな事よりもガチャ回さない?』

「ブレませんね先輩」

『これが僕のアイデンティティ』

「そんなもの捨ててしまいなさい」


 何てこと言うんだ冬乃は!?

 これが僕という存在を語る上では欠かせないモノだというのに……。


「でも、この確率だと10連回したくらいじゃまず出ないよ、ね?」

「そうですよね。わたし達もソフィアさんみたいに〈クエスト〉こなしてポイントを貯めますか?」

『え~回そうよ。こんなにも低い確率なら10連も100連も大して変わらないよ? 僕がそれを保証する』

「凄まじい説得力ですね。先輩が言うとホントにそうだと思ってしまいます」

『それにどの道いい武器や防具はあった方がいいし、そのために戻って来たんだから10連は回した方がいいんじゃない?』

「それは確かにそうね。これで運よく出たらラッキーだし、出なくても武器か防具が手に入ればそれで充分ね」


 そうして冬乃のその言葉を皮切りに全員がガチャを回し、なんと運よく――なんてご都合主義みたいなことはなく、誰一人として【煩悩の仏】特効武器が出てこなかった。

 やっぱ0.01%は渋すぎるわ。

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