第47話 上杉謙信
上杉謙信と名乗った【
袖の無い白い和服と紺色の袴、鎧、草履、家紋の描かれている額当てを身に着けているその様は、少し変わったコスプレをしているだけの女性に見えなくもない。
ただ1点、明らかに人と違う点があった。
目だ。
白目の部分など存在せず全て真っ黒に染まっており、明らかに人ではないと判断できた。
『どうしましたか? こちらが名乗ったのです。そちらも名乗り返すのが礼儀では?』
雰囲気は穏やかそうな女性であり、どこか神々しさすら感じられるけど、明らかに今までに会ったことが無いほどの強者の風格も感じられた。
『名乗りすらしない無礼者ばかりとは、なんともつまらない場所に呼ばれたようですね』
「……鹿島蒼汰です」
『おやおや、存外話せるお方もいるのですね。今まで出会った者は、名乗らないどころかいきなり攻撃を仕掛けてくる方達ばかりでウンザリしていましたよ』
僕が名乗ったことでカラカラと嬉しそうに上杉謙信が笑う。
そんな事をした僕に疑問を抱いたのか、乃亜が目の前の上杉謙信に油断なく大楯を構えながら〔絆の指輪〕で問いかけて来た。
『どうしたんですか先輩? あんなのとまともに会話するなんて』
『【
今はこの【
この明らかな異常に、バリケードのとこにいる隊員の人が気づいてくれれば、他の人の救援が来てくれるかもしれないから』
僕がそう言うと乃亜達は納得したのか軽く頷いてくれた。
「少し、聞いてもいいですか?」
『ええ、構いませんよ』
僕は背中に冷や汗をかきながら問いかけると、上杉謙信は穏やかな笑顔でそう返してきた。
「そのスケルトンの軍団を率いているのは、この
『ですぱれーど? なるものはよく分かりませんが、この者達を率いているということに関しては是とお答えしましょうか』
ならこの【
『ですがこの騒動を起こしたか否かでいえば否とお答えしましょう』
「えっ?」
言ってる意味が分からなかった。
これらの軍団を率いているにも拘(かかわ)らず、この騒動を起こしたわけではないってどう言うことなんだ?
『ここにいる者達は確かに私の配下ではありますが、信玄や長政に率いられている者達もいますし、そもそも我々は地下深くにいたにも
なっ、上杉謙信以外にもいるの!?
……いや、そう言えば朝方に現れた【
ただまずいのは、倒されたと聞いたのは1回だけなので、ここ以外にももう1体いるとなると応援がすぐに来てくれるかどうかだ。
どうにかここは穏便に済ませられないかな。
「それじゃあ呼ばれただけなら地下に戻ろう、って思わないんですか?」
『ふふっ。生憎我々は地下に縛られる身。こうして地上へと出れるのは稀なことなので、すぐに戻るのは惜しいと思うのですよ。
それに何より私には使命がありますからね』
「その使命とは?」
『人間を殺すという使命です』
そう返答した後、上杉謙信の気配がガラリと変わった気がした。
先ほどまでの穏やかな雰囲気から一転して、この場全てを重くするような圧倒的なプレッシャーを醸し出し始めた。
『私が何のためにここにいるか。何故ここに呼び出されたのかは皆目見当もつきませんが、頭の中で響き続けるそれに殉ずることが私の使命だと思っています。
こうして楽しくお話して頂いたのですから、あなたは特別に苦しまないよう殺して差し上げますよ』
『「来るよ!」』
もっと時間を稼ぎたかったけど仕方ない。
『毘沙門天の加護を受けし我が軍勢。止められるものなら止めてみなさい! 〝金剛冥助〟』
上杉謙信がそう言うと、周囲のスケルトン達が薄く金色に発光し槍を構えて向かって来た。
『「みんな、入口に向かって下がりながら迎撃! 大樹達はさっきと同じで右側から来る敵を殲滅して。僕らは左側をやる」』
「まて、蒼汰! 念のため1人応援を呼びに行かせた方がいい。足の速い楓雅に行かせようと思うがいいか?」
「お願い!」
勝手に隊員の方で察してくれると考えるのは甘かったか。
大樹が一緒に戦ってくれていて助かった。
『ふふっ。行かせると思いますか?』
上杉謙信が自身も槍を携えて、駆けだそうとする
「させません!」
『ふっ』
乃亜が上杉謙信に対し
「ぐうっ……!」
『ふふっ、修練不足ですね。軽く突いた程度の槍でそれほど苦し気にしていては、到底私の攻撃を防ぎきることなど出来ません、よっ!』
「ぐあっ!」
上杉謙信が槍で薙いできたのをなんとか大楯で防ぐものの、乃亜は受け止めきれずに横に転がされてしまった。
『まずはあなたからですね』
「ちっ!」
――バンッ!
「させない」
『むっ、やりますね』
当たるはずだった槍は、咲夜がその拳ではじいていた。
「こいつは咲夜が止める」
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